03. エレインのパーティ①

 エレインは幼い頃から冒険者を夢見ていた。

 いつか信頼し合える仲間達とパーティを組んで、ダンジョンを制覇するのが夢だった。


 幼くして両親を亡くしたエレインは、魔法使いの祖母に育てられた。基礎の初級魔法や、補助魔法は全て祖母に教えられた。祖母の教えは厳しかったが、毎日べそをかきながらも懸命に食らいついた。


 辺境の森の中での生活は決して裕福とは言えなかったが、大好きな祖母と共に、充実した日々を送っていた。

 そんな祖母も15歳の時に病気で亡くし、身寄りをなくしたエレイン。毎日泣き続け、生きる目的を見失いかけた時、心に火を灯したのがかつての冒険者になるという夢であった。

 そうしてエレインは、ダンジョンのある都市・ウィルダリアへと向かう決心をした。



「すっごーい………」


 ウィルダリアに到着したエレインは、憧れのダンジョンを前に興奮を隠し切れなかった。頂上が見えない塔を首が痛くなるほど見上げ続けた。

 そして、生活拠点を整えるため、簡易ベッドと机と椅子があるだけの小さな部屋を借り、冒険者ギルドで冒険者登録をした。


 冒険者ギルドでは、冒険者につき1人の受付官がつくようだ。

 エレインの担当受付官はローラという少し年上の女性だった。ローラは、丸メガネで毛量のある赤毛を三つ編みにしていた。クールな性格で無表情、思ったことをズバズバ言う彼女の性格は、厳しかった祖母が思い出されて、密かに懐かしい気持ちになっていた。


 いよいよ夢に見た冒険者となったエレイン。


 期待と不安で胸を膨らませながら、まずはダンジョンの低階層をソロで攻略するところから始めた。

 エレインは、威力は弱いものの初級魔法は網羅していたため、落ち着いて対処すれば低レベルの魔物やモンスターは倒すことができた。そうしておっかなびっくりにではあるが、順調に到達階層を進めていった。

 だが、20階層に差し掛かったあたりから、ソロでの攻略に限界を感じていた。


 そしてちょうどその時、エレインは自らの運命を良くも悪くも変える出会いを果たした。



◇◇◇


「あんた、魔法使いか?ちょうどパーティのメンバーを増やしたいと思っていたところなんだ。よかったら俺たちと一緒にダンジョンを制覇しないか?」


 冒険者ギルドでメンバー募集の掲示板を眺めていたところ、一人の男に声をかけられた。


「え?わ、私…?」

「ああ、そうだ。見たところ魔法使いだろ?俺たち、後衛ができる魔法使いを探していたんだ」


 その男は、ツンツンと立たせた金髪に茶色の瞳を有しており、腰には立派な剣を帯刀していた。見たところ職業は剣士だろうか。自信や希望に満ち溢れた表情をしていた。

 彼の後ろには、立派な盾を構えた男に、エレインと同じく漆黒の三角帽を被った魔法使いと思しき少女、そして純白の司祭服を身に纏った少女が控えていた。


「メンバー募集の掲示板前にいたってことは、パーティに入りたいんだろう?」

「あ…はい。ソロではこれ以上先に進むのが難しくて…」

「よし、決まりだな!お前は今日から俺たちのパーティメンバーだ。俺の名前はアレックス。アレクって呼んでくれ。お前は?」

「え、エレイン…です」

「エレインか。これからよろしくな!」


 こうして、エレインに初めて仲間と呼ばれる存在ができた。


 盾を構えていた男は、騎士ナイトのロイドといった。背が高く、肩幅も広い。短い黒髪に青い瞳を有していた。

 魔法使いの少女は、ルナ。濃紺の髪と目をしており、猫のような吊り目をしていた。

 司祭服を纏った少女は、治癒師ヒーラーのリリスといった。身長はエレインよりも低かったが、服の上からでも分かる胸の膨らみは、エレインが持ち合わせていないものであった。薄く美しい緑色の髪と瞳をしていた。

 4人は同郷のようで、互いを信頼しあっていることが見てとれた。

 エレインも、彼らとそんな関係になりたいと思った。


 パーティでのダンジョン攻略はとても効率的で、かつ楽しいものだった。身寄りもなく、新天地で友人と呼べる者も居なかったエレインにとって、アレクのパーティが自分の居場所なのだと思い始めていた。


 だが、階層を上がるにつれ、次第に彼らのエレインに対する扱いが変化していった。


「はぁ、何だよまた泣いてんのか?いい加減鬱陶しいな」

「ご、ごめん…ぐすっ」


 エレインは元来泣き虫であった。

 凶暴なモンスターや、身の毛がよだつ巨大な虫型魔獣を前にするとつい叫んだりべそをかいたりしてしまうのだ。始めは笑っていたアレク達であったが、毎度のことに苛立ちが募っていった。

 その上、全ての属性魔法が使えるとはいえ、初級魔法や補助魔法しか使えないエレインは次第に馬鹿にされていった。


「ほら、この先に罠が仕掛けられてるかもしれねぇだろ。先に行って確かめて来い」

「えっ!?あ、危ないんじゃ…」

「うるせぇ!リーダーの命令は絶対だ!早く行け!」

「うぇぇん…分かった…」


 ある時は、罠の確認のために先遣隊として扱われた。


「おっ、この部屋に宝箱があるぞ!ちょっと取って来い」

「明らかに罠だよぉ、危険だと思うんだけど…」

「あ?文句つける気か?ほら、早く行けって!」

「えっ、きゃぁぁっ!!」


 ある時は、宝物を手に入れるため罠部屋トラップルームに放り込まれた。


「くそっ…!俺たちが逃げるまでの時間を稼げ!」

「ひゃわぁぁぁ!!ま、待って…!置いて行かないでぇっ!」


 またある時は、パーティが逃げるための囮にされた。


 そんな扱いをされつつも、どうにか仲間に認めてもらおうと、エレインは補助魔法を駆使して常に皆をサポートしていた。だが、その努力が認められることはなかった。


「あー、マジであんなやつ仲間に引き入れるんじゃなかったわ」

「まあまあ、それなりに使い道もあるし荷物持ちにもなる、居て損はねえんじゃね?」

「初級魔法しか使えないなんて、ルナは同じ魔法使いとして恥ずかしい」

「まあ、そんなことを言ってはいけませんよ?エレインさんが気の毒です。確かに囮や荷物持ちぐらいにしか役立ちませんけど」

「ははっ、リリスも大概ひでぇな!」


 エレインをアイテムの買い出しに行かせている間、4人がこんな会話をしているのを聞いてしまったこともある。

 嗚咽が漏れないように気をつけながら、その場を立ち去り、路地裏でたくさん泣いた。おかげで買い出しだけで何でこんなに時間が掛かるのかと、また無能扱いを受けることとなった。


(なんでこんなに酷い扱いを受けてまで、この場所に縋り付いてるんだろう?)


 そう思うこともあったが、見知らぬ土地で知人も居ないエレインにとっては、アレン達のパーティが唯一の居場所だった。

 努力を重ねて強くなれば、いつかは認められると信じていた。ダンジョン攻略では囮や殿しんがりに残されることが多かったので、皆より多く魔物を倒し、罠を解除し、魔法を使った。


 だが、何故かアレク達との戦力差は開くばかりであった。

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