第40話『断罪』
あたしが見つけたのは、アルベベ教会のもう1つの本部。
一見して、同じように見えるけど用途がまるで違う。
片や多くの民衆が集まる本当の教会としての場所と、もうひとつは秘密裏にことを実行する裏の実行部隊がいる本拠地。
京也は裏の方の本拠地で拘束され拷問を受けていることがわかった。
民衆向けの教会の方は良くも悪くも、怪しげな場所がひとつもない。
あるとしたら、転移魔法陣が複数設置していて、裏の教会側と常時行き来していることぐらいだった。
見た目はどちらも教会だけども、入った後の地下がまるで違う。
どうやったら短期間に作れるのかと思われるような、地下施設が密集している。
ほぼすべてを見た限り、”精霊よけ”をしている特定箇所が唯一怪しく、出入り口まで突き止めたのち張り込んでいると、わずかながら京也の匂いがした。
だから決め打ちで、あえてかくしている場所にいると考えて、今はリムルとアリッサと共に京也奪還作戦を実行している。
裏というだけあって、内部の連中は強い。
ゴウリ王都にいた騎士団並みの強さが普通にいる。魔獣と違い対人戦は、圧倒的に経験が物をいう。
アリッサは問題ないにせよ、リムルがどうなのか未知数。
いくつか問題がある内の一つが精霊よけで、リムルにも影響が出てしまうから部屋に入れるのはアリッサのみになってしまう。
さらに事前に、転移魔法は出現させたままの長時間の維持はできない。
敵も連れて行ってしまうからだ。なのでぎりぎりの維持時間まで守り、消える寸前に飛び込んで脱出する方法になる。
難易度が極めて高い内容で、全員が無事に脱出できるかわからないぐらい。
想定する京也の状況から、もう今以上の時間を伸ばすのは難しいし、今やらないと手遅れになる予感がしたので、決行したのは間違いないと思っている。
なぜなら、あたしと京也のつながりを見せるオーラが消えかかっているから。
オーラのこともあって居場所は突き止められたのだけども、すでに弱っている状態だから、微小な反応でしかもうない。
恐らくは耐久するとはいえ、精神は残存してもいかれた状態になってしまう。もし拷問が続けられたら廃人になり、もう復帰はできないとどこか予想がついた。
手遅れになる前に、なんとしてでも救出をしないと闇世界の門が開けない。もちろん門だけでなく、パートナーとしても大事で純粋で素直な人はなかなかいない。
いずれ肉体に戻った暁には、京也と一緒になりたいとも考えていた。
今回はかなりの手練れ相手になることは想像に難しくない。とはいえ予想では、常時いる奴らは拷問を専門にしている連中で、対人特化の戦闘員はすぐには来ないと見ている。
京也が囚われていると思われる地下の部屋は、意外なことに警備が緩い。
おそらく、まったく誰も見ていないのと思えるぐらいのところで、誰も入れないからこその相当な自信があるのかもしれない。
あたしの力を使えば難なく、実体をもつリルムやアリッサを誘導するのはたやすいこと。
地下3階にきた時は、さすがに二人とも顔をしかめたのは、異臭からだ。
3階層は、基本的にどの部屋も囚われて拷問をする部屋として使われるか、特別な者を確保しておく場所にしている様子。
ただ、衛生状態はかなり悪く基本垂れ流し状態だ。
死んでもしばらく放置されているところを見ると、仕事をする連中は、鼻が効かないのかもしれないと思うほどだ。
嗅覚に鋭い獣人なら恐らくは、気絶をするぐらいの強さと言える。
非常に酷い環境でも今は関係ない。大事な京也が囚われて拷問を受けているなら、なんとしてでも救出しなければという思いの方が強い。
だからこそ、リムルとアリッサは一瞬顔色を変えて問題なくついてきたいた。
「灰色の扉か?」
アリッサが指を指して確認する。
「ええ。あれね。中にまでは入れないし様子も見られないわ。ただ、交代をするのかもうしばらくすると人が入れ替わるわ」
「あっきたね」
扉が開くと、中からいつもと違い二人出てくる。
「リムルは近寄れそう?」
「だめみたい。灰色の扉の少し手前にある白い扉の境に見える線より先に行けないわ」
「やはりね。あたしも同じ」
「リムルは脱出用の転移魔法の準備、アリッサは中の様子を確認して京也がいたら連れ出して。もし敵対する者がいたらできるなら扉を開けるか扉自体を破壊して欲しい」
「ええ。わかったわ」
「あたしは通路を見張るわ。じゃ各自最善でいきましょ」
「ああ。望むところだ」
「うん。わかったわ」
リムルはいつでも転移魔法を展開できるようにしている。アリッサは扉をゆっくり押して開くか確認を始めた。
部屋から出た二人は戻ってくる様子もなく、代わりの者が来る気配もない。
今までのような適当な管理の仕方だと、案外楽に行けるかもしれないと若干の期待を持ってしまう。
アリッサはいよいよ中に突入した様子だ。今は反応をリムルとあたしでまつ。
――アリッサがわの方では。
「なんだ……」
あまりにもシンプルで、拷問器具が整然と並ぶ中で中央には白い石の椅子がこしらえてあり、目の虚な京也が足も腕も体もロープでくくりつけ固定されていた。
手足の指には千枚どうしが多量に突き刺さっており、酷いの一言に尽きる。
他に誰もいないことを確認すると京也の元へ急ぐ。
「京也! 大丈夫か?」
「うぅぅぅうううう」
「京也! 今ロープを外すしっかりするんだ」
アリッサは急ぎロープを剣できりさき、京也を椅子から離れられるようにする。
ところが、京也はいつになっても自らたとうとしない。
瞳は開きっぱなしで、もはや意識の類はないかもしれないと思う状態だ。
「こ……ろし……て」
「絞り出すように京也がいう言葉に思わず、自身の口を手で押さえて溢れ出す涙を抑えきれなかった」
自我が崩壊寸前まで酷い状態にするには、どれだけの拷問がくりかえされたのか想像を絶したからだ。
一まず立ち上がられても、足取りはおぼつかず何度も跪きそうになる。
なんとか肩に手をかし、出入り口まで向かう。
まずは部屋さえ出れば、あとは二人もいるからなんとかなるだろうと、時間がかかりつつも扉場所まで行き、部屋の外に京也を連れ出した。
――ルゥナはこのとき焦りを感じていた。
どうやらアリッサが京也を部屋から連れ出したようだ。
残念ながら足腰が立たない様子と、疲労が激しいのか京也はほとんど動けない状態にで陥っていた。
しかも口をひらけば、殺してくれとまで言い出す。
よほど酷い目にあったに違いない。
問題は別のところで起きた。戻ってきたのだ最悪のタイミングで。
さらに悪いニュースは人数が一人増えて三人でこちらに向かってくる。
まさに遭遇戦の状態だ。
この時さらに悪いことが起きた。連携だ。
アリッサはルゥナが実際を持たないことから、ほとんど攻撃には役に立たないと即座に判断して、京也を一旦リムルに任せて3人を相手にし戦い始めた。
さすがに騎士団クラスを超えるだけあって一筋縄ではいかない。
アリッサの使う火炎魔法を難なく避けて、ファイヤーウォールもものともせず一気に剣で迫ってきたのだ。
拷問をしていた者の動きとは思えぬ、機敏で正確なうごきに舌を巻くほどだ。
もしかすると勝手な先入観なのかもしれない。
拷問を担当するからと言って、機敏で正確な動きができないからではない。
単に希望と性格の問題なんだろうと気づいたのは、割りとあとにだった。
火炎の槍を作り出し撃っても当たる様子すら見られない。
ついには接近戦で剣戟を繰り返す。
三体1ではかなり苦しい。次第に切り傷や刺し傷が増えていき、怪我は時間とともに多くなっていく。
後退せざるを得ない状況で、じょじょに追い詰められていく。
不意に予想外のことが起きた。京也である。
目の前での戦闘の最中、おぼつかない足取りで殺してくれと言わんばかりに、間に入ってきた。
「京也何をしている! 離れろ!」
アリッサの懸命な声が響いても変わらない。ぼんやりと立ち尽くす京也に敵はなんの躊躇もなく一気に3人とも差し迫り、剣をそれぞれに突き刺す、
やっと死ねるとそのような表情を京也から感じたアリッサは、咄嗟に京也を突き飛ばして、自ら剣を受けてしまう。
三者三様でそれぞれアリッサに剣を突き立てると、すぐに離脱。
なぜそのような行動に出たのかアリッサ自身でも思いもよらない動きだったのかもしれない。
最後に一言、京也に伝えてこときれた。
「生きて……。京……也……」
アリッサが倒れた時、ぼんやりしていた京也の表情が明らかに変化した。
「あああああぁぁぁぁああああ」
京也はただただ声を上げて頭を抱えていた。
リムルは、いつでも脱出できるよう魔法陣をすでに展開していた。
ところがアリッサが倒れたことで、事態の変化が起きる。
リムルも京也を死なせまいと打って出る。
リムルの氷結魔法は強力だ。
3人の足止めをして、喚き散らすパニック状態の京也の手を引き3人から距離を稼ごうと動き出す。
念には念を入れるためか、さらに追加で氷結魔法を展開し、膝したのすべてを凍らせて身動きを防いだ。
敵へ自らの後ろを見せ京也の手をひくと、京也が走り出す。
そのまま京也の後ろを追いかける形になったとき、ことは起きた。
3人とも自らの足を切断して天使の羽を使い一気に加速して迫る。
自分を顧みないめちゃくちゃな行動はさすがに、予測はしていなかったので魔法を放つ反応と速度が遅れてしまう。
間に合わず、再び3人は一人を串刺しにしてしまう。
耐久するはずのリムルがややパニックだったのもあり、耐久せずに貫通させてしまう。
剣を一気に3人から引き抜かれると、中を舞うようにして京也を飛び越えて転がり落ちる。
リムルも最後の力を振り絞って、言葉を投げかけた。
「京也……。生きて……」
この時京也の足が止まり、背後にいた3人へ強い憎悪の視線を投げつけ叫び出した。
「ウォオォオォォォオオオオオオオオオ」
ルゥナはこの時何もできず、歯噛みしているだけでしかなかった。
京也は、恐るべき変化を見せ始めた。
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