閑話 騎士たちから見たアレソレ1

今話と次話は閑話となりますので、今週の土・日にも更新します。


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5番、改めサリュ視点



 俺の名前は奴隷5番。

 元々の名前は、サリュ・ド・プーデ。

 名前の意味は、少しの間の救い。

 サリュは“救い”で、プーデは“少しの間”、という意味から“少しの間の救い”。

 俺は平民だったが正式な騎士となった時に、この性を名乗り始めた。

 救いを意味する名前を名付けられていたのもあり、性はすぐに思いついた。


 誰かにとっての救いになれるように。


 それがほんの少しのひと時であっても救いをもたらせる様に。

 少し傲慢に聞こえるかもしれないが、それでも誰かにとっての助けになりたい。

 俺が騎士になった理由も“救い”の意味にならっての事だったのだから。

 

 いろんな覚悟や決意で騎士になってから、俺は順調に仕事を重ねていった。

 そうやって功績を積んでいたある日に、とある屋敷に潜入する任務が与えられた。

 内容はとある屋敷の奉仕人の取引量が多すぎるから、原因を調査せよというもの。

 ここでいう奉仕は、奴隷制が忌避されている現在において、借金を抱えたものを中心に、国が仕事を斡旋するというものである。


 そんな奉仕人の取引が多いというのは、確かに何かしらの疑いを持ってしまうというもの。

 だが、最初にこの任務を与えられた時、「こういう任務は影と呼ばれる諜報員がすることでは」と思ったのだが、この任務を受けざるを得なかった。

 というのも、俺が騎士団内で疎まれつつあったからだ。

 理由は簡単で、俺が平民出身だから。

 更にいうなら、上からの覚えがよかったのも、疎まれるのに拍車をかけた。

 騎士のくせに嫉妬なんて、と始めは思ったが、騎士も人間なのだから当たり前かとも思うようになった。

 だからだろう、その任務に色々思うところはあっても、素直に任務を受ける事が出来た。


 そして、任務に赴いた俺は件の屋敷にて奉仕人として仕事をすることになった。

 屋敷の主人である、ピェーテン・ド・エスクラヴは、俺が潜入したにも関わらず、ニコニコと笑みを浮かべて、日々を過ごしていた。

 この屋敷の主人、というよりも家系は敬虔な信徒として有名なだけに、奉仕人の扱いが酷いなどといった事は想像しづらかった。

 ただ、ピェーテンの妻である、この屋敷の夫人ならば、奴隷として奉仕人を扱っていてもおかしくはない。


 奉仕人は町や国の役所を通して、貴族気に奉仕に向かうのだ。

 だからこそ、奉仕人は国の為の資産と思えば、乱暴に扱う貴族気は少ないのだ。

 敬虔な信徒で有名なピェーテンなら、なおさら乱暴に扱うとは思えない。

 故の、油断だった。


 俺は完全に油断していた。

 奉仕人の出入りは確かに多いが、奉仕人を昔の奴隷のように扱うとは思えなかった為の油断。

 ピェーテンの私室にて、地下牢を発見してしまったのだ。

 ピェーテンの人物像を考えるならば、地下牢を私室に設置するとは思えない。

 だから、地下牢を見つけたときに動揺してしまった。

 動揺ゆえに残した痕跡が、しばらくの後に俺によるものだと、バレてしまった。 

 諜報員の訓練も積んでいない俺程度が、貴族の屋敷の人間を騙しきることはできなかったのだ。


 それからは、あれよあれよと俺は地下牢に囚われてしまった。

 そこで俺が見たものは地獄だった。

 一定の区画に、小さくて狭い部屋が等間隔に並んでいるのだが、その小さな部屋からうめき声や死を願う声が響いてくるのだ。

 それだけで、俺の頭はおかしくなりそうだった。

 そして、地下牢に入れられた俺の拷問も激しかった。

 爪をはぐ、皮をそぐ、髪を引きちぎるのは当たり前で、殴られ蹴られも当たり前。 

 水責めでもう死ぬというのでは、というギリギリの感覚も味わったし、酷いときには、つま先が床にぎりぎり着くぐらいの距離で天井から吊るされたりもした。

 その状態からムチで張られたりもした。


 つらい、死にたい、解放されたい。

 いろいろな感情が駆け巡った。

 騎士団への逆恨みだってあった。

 この地下牢に入れられた間接的な原因なのだから。

 いろいろな恨み辛み、さまざまな感情に襲われても俺はなんとか耐える事が出来た。

 自分自身が騎士になるためにあった志を忘れなかったからだ。

 誰かを救うため。

 それがひと時でも。


 そんな志があったからだろうか。

 同じ地下牢のある人物が目についた。いや、地下牢では視覚的な情報など多くは入ってこなかったから、耳についたってところか。

 拷問官が話していた声で、この地下牢に子供がいることを知ったんだ。

 ただ、拷問部屋からも個人の収容部屋からも叫び声などが聞こえてこなかった事から、存在自体に疑問はあった。

 ただ、一か八か子供に向かって話しかけてみた。


「おい、拷問官が話していたが、子供でもいんのか? 聞こえてんなら返事しな」


 我ながら正気ではない、と思った。

 子供でも大人でも返事する余裕なんかあるはずがないのだから。

 それに、拷問官に声が聞かれたら、ただでは済まされないはずだから。

 だが、返事があった。


「何でしょうか、おそらく遊び相手の方がおっしゃっていたのは僕ですが」


 いやに丁寧な返事。

 こんなくそったれの状況なはずなのに、落ち着きすぎている返事。

 だが、確かに子供の声だった。


 子供、いや3番の返事をきっかけに、俺は色んな事を3番に話した。

 俺が5番と呼ばれている事、スキル、貴族、騎士、果てには冒険者。

 本当に、いろんなことを話した。

 おとぎ話なんかも話した。

 そんな中で、3番について思うことがあった。

 コイツは自分自身が奴隷である事に、不満も疑問も何も持っていないことに気付いたのだ。

 何故なら、拷問官に対しても敬意を持っているようだから。

 少し恐ろしくはあったが、可哀そうという感情が強かった。

 だから、俺は話し続けた。 

 

 ある日、地下牢がいやに静かだった日。

 上の階層の騒ぎに気付く。

 俺が地下牢に収容されてから、そんなに時間は経っていなかったが、騎士たちの捜索が屋敷にて実行されたことを悟った。

 そして、淡々とだが、俺たちは救出された。

 騎士たちは、地下牢の雰囲気に呑まれているものが少なくなかったからだろう。

 それぞれが気持ちを抑え込んでいた。

 

 そんな中、俺は皆とは別の騎士に連れられて、第二騎士団の副団長に詳細を報告した。

 俺が地下牢に収容されるまでの屋敷内の雰囲気に始まって、地下牢での雰囲気。

 気にした方がいい人物など、様々な事を報告した。

 反対に俺からも情報を求めたが、すべて後でとのこと。

 悔しいが、俺は従うことにした。

 騎士団に思うところがあったが、今は3番の事が気になったからだ。


 そして、俺が視界で捉えた3番は、ぼろぼろの少年だった。


 少し青く見える黒髪はかなりのぼさぼさながらも、引きちぎられたことがありありと分かった。

 他にも、片方の眼球がなかったり、爪がなかったり、片耳がなかったり、皮膚が削がれた跡があったり、とにかく悲惨だった。

 あまりの姿に、吐き気すら催しそうなほど。

 だが、俺が本当に怖れたのは3番に唯一残っている目だ。

 真っ黒で、どこを映しているのかわからない。

 何を見て、何に話しているのか分からない。

 見ている者が飲み込まれそうな目。

 

 3番の姿を視界に収めた後に俺に残ったのは、悔しさだけだった。

 俺が救わなければならなかったのは、すぐ傍にいたのだ。

 地下牢というごく小さな世界。

 そんな世界でも俺はやるべきことがあったはずだ、そう自分を責めた。


 奴隷全員が救出された後に、俺たちは王城に連れていかれた。

 それぞれの相談とは名ばかりの、危険思想、危険因子のあぶり出し。

 相談に呼ばれていった順には意味がある。

 それぞれが、奉仕人として勤めた長さだ。

 2番、6番はそれぞれ勤めが短かった。故に、女性の2番が先に呼ばれた。

 5番の俺は、1番と3番の情報の確認。

 そして、勤めが長かった1番が先に呼ばれ、奉仕人としての情報がなかった3番が最後だった。


 第三騎士団長と宰相は本気で、彼ら悲惨な奴隷を救うつもりかもしれないが、そんな気持ちの中でも危険人物のあぶり出しの意味は確実にあった。

 そのあぶり出しは国を安全に保つために必要なのだから。

 そして、もしそのあぶり出しに引っかかるならば3番だろう。

 案の定、3番は危険分子と判断された。

 大罪の種という、おそらくは大罪スキルに分類されるスキルによって。


 俺の目の前は真っ暗になった。

 救うべき子供をいつか俺は始末しなければならないのかもしれないのだから。

 大罪に対応した美徳の称号を持つ、救恤の騎士である俺が命を奪わなければいけないなんて、皮肉が過ぎる。

 そう思っても仕方ないだろう、神様……。

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