公園

 男は女を抱き寄せた。女は腕を猫みたいに腕をたたんで、その身体には若干の力が残っている。

「ごめん。」

 多少の冷気を含んだ風が、今にも落ちそうな葉っぱたちを揺らしていた。

女の身体から少しだけ力が抜ける。「実は、付き合う前からわかってた。」男が続ける。

「たぶんこうやって何回も喧嘩して、別れそうになるって。」男の乾いた唇がより一層しわ枯れていく。2人の左ほほはひんやりとつながっている。

「もう一度、やり直させてほしい。」男は静かに目をつぶり、鼻から息を大きく吸い込む。すると女はたたんでいた腕をほどき、壊れ物を触るかのように、男の腰に腕をまわす。そして力強く引き締め、顔の下半分を男の胸にゆだねる。

「ダメに決まってんじゃん。」女は目をつぶり、虚空へ言葉を投げ込む。

皓皓とした明かりだけが2人を照らしている。高さの違う影の中に、名前も知らないピンク色の花が凛々しく咲いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る