第46話 王都トラムと大神殿

 盗賊団は退治され、吹き飛んだハンターたちは全員治癒師によって回復することで事なきを得たようだ。

 曰く、誰一人欠損したりした人がいなかったそうだ。


「それにしても地面を陥没させるなんてすごいですね」

 ボクはミリアムさんを誉めた称える。

 何の予備動作もなく、突然ボコんと窪んだのだ。

 あんな技が使えるなんて、ちょっと羨ましい……。


「そんなに羨ましがらなくても大丈夫ですよ? 遥様」

 突然千早さんがそんな言葉をボクに投げかけてきた。

 えっ、どういうこと?

 

「ミリアム様は遥様の眷属です。眷属のスキルや魔術は遥様も使えるということです」

「!?」

 つまり、ボクも派手な技を使うことができるということですね!?


「遥様は気付いていないようなのですが、遥様の影の槍、防御だろうと結界だろうとすべて無視して突き刺さるんですよ? ご存じでしたか?」

「えっ? そうなんですか!?」

 衝撃の事実だった。

 というかボクが知らない情報をなぜ千早さんが知っていたのかが気になる……。


「ふふ。実は昨夜少し試してみたんです」

 千早さんは勉強熱心だった。

 ボクも見習わなければ……。


 ボクたちがそんな話をしていると、マルムさんとセリアさんがハンターたちの話し合いから戻ってくる姿が見えた。

 どうやら話が終わったようだ。


「遥様。今回の討伐に関してなんですが……」

「ん~。ボクたちは先を急ぎましょう。ハンターたちが必要なものがあれば提供して、なければ出発。報酬関連の話なら好きにやってください」

 どういう話があったかはわからないが深く関わりたいわけではないので、出来れば先に進みたいのが本音だ。


「わかりました。それでは報酬は辞退しておきます」

 そういうとマルムさんは再びハンターたちの元へ行き少し話してから戻ってきた。


「辞退しておきました。懸賞金だけで金貨300枚は固いそうですが、この後の予定を考えると辞退して正解かもしれませんね」

「お金は確かに大事ですけど、それで厄介ごとを背負うこともあるのでいいかと」

 マルムさんとセリアさんは同じ意見のようだ。


 というわけで、ボクたちは余計な詮索をされる前に出発することにした。

 面倒ごとは全力回避だ!!


 馬車は現場を出発すると徐々にスピードを上げていった。

 ペガサスさんが2頭いるので他の馬車よりもずっと早く進む。

 あっという間に襲撃現場が見えなくなっていった。


「いやぁ、面倒なことにならなくてよかった」

「本当ですね。王都でやることは少ないですが、ササっと行ってパパっと帰ることにしましょう」

 ボクと千早さんの意見は一致した。

 実際、王都などでのんびりする理由がないのだから仕方ない。

 時々行くくらいなら構わないけど、便利な生活基盤を作るなら日本に戻れるようにするほうが断然いいのだ。


 それに、日本でずっと生活すると疲れることもあるから息抜きの場所は整えておきたい。

 

「遥様、馬車酔いは大丈夫ですか?」

「辛くなったら休んでも大丈夫なので気軽に言ってください」

 馬車の窓から周囲を確認しているマルムさんとセリアさんがそう声を掛けてくるが、今はまだ大丈夫。


「それにしても魔物ってこの街道には近づかないんですね」

 ずっと馬車を走らせているが、未だに魔物に出会ったことがない。

 この道に何かあるのだろうか?


「魔物も好き好んで人のいる場所に近づいているわけではないので、こういう街道は比較的安全なんです。一応魔物除けもありますし」

「魔物にもテリトリーがあるのでそうそう人の居住区には近づいてきませんね」

 マルムさんとセリアさんは同じ見解のようだ。

 ということは街道を走る限りはそうそう魔物に合わないということなのだと思う。


「魔物の生態もなかなか面白いですね」

 ボクの感想はこれに尽きる。

 今度、調べてみようかな?



 それ以降のボクたちの旅はトラブルもなく順調に進んだ。

 最初、2週間と思われた旅の日程は、1週間ほど短縮して終えることができたのだ。

 現在、ボクたちは王都付近にいる。


「割と順調でしたね。帰りはすぐですけど」

「そうですね~。結局大規模な盗賊の襲撃なんて二日目の一回だけでしたからね」

 二日目の襲撃以降、盗賊の襲撃はなかった。

 その上魔物も出ないので旅は非常に安定していたのだ。

 

 道中いくつかの街や村を通り抜けたが、今回はそこに立ち寄ることはしなかった。

 理由はマルムさんたちが避けたこともあるけど、それ以上にボクを含むほかのメンバーがあまり寄りたがらなかったというのがある。

 いつか暇ができたら寄ってみるのもいいかもしれないとは思う。

 でも今は、お爺様の頼み事をこなすことが先決だ。


「ほかの街に寄るのはまた今度ですね」

「今回は情報も少ないので避けましたけど、そうですね~」

 一応いつでも転移できる状態にはしてあるので、行こうと思えばいつでも行ける。

 でも、アルテ村以外の街や村の情報が全くないので、少し怖かった。

 これがボクの偽らざる本音だ。


「サリエント王国王都トラムには東西南北に大きな門と通りがあります。大神殿区にいくには大神殿門を通る必要があるのですが、遥様はどうされますか?」

 ボクが考え事をしているとマルムさんがそう問いかけてきた。

 そういえば、ボクはどこを通るんだろう。


「大神殿門は誰でも通れるんですか?」

「大神殿門自体は通れますが、そこから直接大神殿まではいけません。いくつかの門があり、平民と貴族、神殿関係者、王族と別れて進むようになっています」

「う~ん……。じゃあボクは平民門かな?」

 ここでのボクには地位がない。

 なら当然そうなるはずだ。


「そういえば、大神殿には裏門があるそうですよ。まぁどう見ても飾りですけど」

 不意にセリアさんがそんなことを言い出す。

 裏門?


「そんな飾りみたいな門があるんですか?」

「えぇ。どう見ても壁と一体になっていて隙間もないそうです。一応神殿兵はいるようですが……」

「裏門ですか。見に行くだけならできますか?」

 ちょっとだけ興味があるので見られるなら見てみたい。


「大丈夫なはずです」

「じゃあ、そちらに行きましょう」

 ボクたちは、大神殿裏門とやらを見に行くことにした。

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