第10話 ゴブリンと復讐
昼食から少し後、かなり早くログハウスの外観が組みあがった。
現在フェアリーノームたちが内装工事をしているようで、板材を運んだりしている。
外観は丸太組みのログハウスだけど、中身は山小屋風ロッジという感じになりそうだった。
「よ、よーし。行きます!」
ボクはスライムと戦う。
森の中でも水辺には多くのスライムが生息しており、水を飲みに来た動物を捕食したりしている。
彼らは水がないと生きていけず、またその水に似た見た目を有効活用して水中で水に擬態して獲物を捕食しているのだ。
気を付けないと人間も同じ目に合うので、猟師ギルドでは常時スライム討伐依頼が出されているらしい。
今回はイーサさんとの訓練も兼ねてスライムの駆除を行う。
「落ち着いてしっかり狙っていくんだ」
「はい!」
スライムは切り刻むよりも叩き潰す方がいいらしく、ボクの持っている釘バットがいい感じにスライムの核に突き刺さるのですごく倒しやすい。
特にこの飛び出たごつごつが気持ちよく突き刺さる。
もうボクはゴブリンに負けない!!
「イーサさん」
「うん?」
「バットに有刺鉄線を巻いてゴブリンを殴打したいです」
「想像するだけでも痛いからやめてあげてください」
イーサさんはなぜか引いていた。
この前の恨みを返す時に念入りに突き刺そう。そうボクは心に誓った。
ボクの決意が伝わったのか、そばにいたミレがシュッシュッとシャドーボクシングみたいなことを始めた。
なんか拳が空を切るたびに風切り音がするんですけど?
しばらくスライム狩りで実力をつけていると、不意にイーサさんがボクを手で制した。
何かがいるのだろうか? いまだ気配を探れないボクには詳しいことがわからない。
「イーサさん」
「静かに。ゴブリンだ。下級のやつだね」
「!?」
ゴブリンという言葉を聞いた瞬間、ボクの体が動かなくなった。
膝ががくがくと震える。
「落ち着け、遥」
イーサさんが心配そうに声をかけてくれる。
動け、ボク!
しかし、ボクの意思とは無関係に体は震えたまま動かない。
わかってる。怖いんだ。
わかっているのに意思とは無関係にじんわりと目に涙が浮かんでくる。
乗り越えなきゃいけないのに、まだ、だめなの?
不意に袖口をクイクイと引っ張られた。
顔を向けるとミレが真剣な顔でうなずいているのが見えた。
大丈夫って言ってくれている気がする。
ゴブリンは二体おり、一体ずつ離れた場所に立って辺りを物色しているのが見えた。
怖いけどやらなきゃ。
そう思ってバットをぐっと握る。
すると突然、ミレがゴブリンの一体に向かってとびかかった。
ミレは一体のゴブリンの頭を斧でかち割ると、もう一体のゴブリンの手足を切りつけ動けなくする。
そうしてそのままずるずると引っ張り、ボクの前まで運んできたのだ。
ミレを見ると頷いている。
「やれ」ということだ。
ボクはミレを見て、勇気づけられた気がした。
決してボクの手柄ではない。
でもやると決めた。やるしかないんだと。
深呼吸をして、ただバットを上に持ち上げる。
そしてそのまま釘の位置を調整して、ゴブリンの頭に振り落とした。
一瞬、ゴブリンが恐怖したような表情を浮かべたが、ボクは止めなかった。
そしてゴブリンの頭をつぶすと、イーサさんがボクの頭に手を置いて撫ではじめ、ミレがボクの体に抱き着いて頭をすりすりとこすりつけ始めた。
しばらくはよくわからなかったし、何の実感もなかったけど、時間が経って落ち着いてから初めて理解した。
イーサさんはよくやったと思ってくれていたし、ミレはボクの気持ちを察して乗り越えるために復讐の機会をくれたんだということに。
ふと見ると、笑顔を浮かべたイーサさんと笑顔でサムズアップをするミレの姿があった。
ボクはミレに出会えてよかったのかもしれない。
「いやぁ、一時はどうなることかと思ったけどうまくいって良かった」
イーサさんはとても嬉しそうだ。
「イーサさんとミレのおかげですよ」
そう言うとミレは少し照れたようにはにかんだ。
「しかし、ミレには驚かされたな。まさか動けなくしてから生きたまま引きずってくるとはね」
「ミレはボクの気持ちを理解してた気がします」
あの時のミレの表情と仕草はきっと忘れないだろう。
「フェアリーノームはね、仲間が何か嫌なことや危険なことをされたと感じたら必ず復讐するそうなんだ。今回は遙の気持ちを感じ取って復讐の機会を与えたんじゃないかな」
イーサさんの言葉を聞いて妙に納得することができた。
それにしても、出会ったばかりのボクの気持ちを理解して復讐するなんて、ミレたちはすごいな。
一息ついた後、ボクたちはまた森を探索した。
途中何体かのゴブリンに出会ったが、その度にミレが飛び掛かり皆殺しにしてしまった。
どうやらミレの絶対殺すリストにゴブリンが登録されたようだ。
ミレたちフェアリーノームを傷つけたら恐ろしいことになると、ボクは改めて理解するのだった。
探索も一段落し、ゴブリンの魔石や小汚い装備を回収、ゴブリンの死体を魔法の火で焼却処分するという作業を終えると、いい感じに日が暮れ始めていた。
今夜は森の中のログハウスに行ってみようということになったので、建設地までみんなで戻る。
ちょうど夕方から夜になった頃、建設地にたどり着いた時にはすべてが完成したようで、フェアリーノームたちが大鍋で何かをかき混ぜているのが見えた。
匂い的にはシチューのような何かの煮込みのようだ。
ボクたちがログハウス前にたどり着くと、フェアリーノームたちは一斉にこちらを向き、そろってサムズアップをした。
たぶん完成報告なんだと思う。
「みんな、ありがとう。いろいろ手伝ってくれて」
感謝の気持ちを込めてお礼を言うと、フェアリーノームたちは笑顔で飛び跳ねて喜びを表現した。
なんだか一体感があって楽しくなってくる。
そんなことを考えていると、ミレたちはボクを持ち上げて木の玉座まで運び、そのまま座らせた。
それから一人ずつボクの膝の上に座ると体を擦り付け、次々と後退していく。
一体何をしているんだろうと思ったけど、可愛らしいのでそのままにすることにした。
それからはお昼のように肉が出てシチューのような煮込みものが出た。
当然のように飲み物を給仕されたのでお礼を言ってから飲む。
イーサさんもなんだか楽しそうだ。
そういえば神様って総じてお祭り好きだった気がする。
目の前のキャンプファイアーの前では、フェアリーノームたちが可愛らしく謎のダンスを繰り広げていたのだった。
今日はいい一日だったかもしれない。
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