第7話 フェアリーノーム
「フェアリーノームか。厄介だな」
「ファアリーノーム?」
なんだか可愛らしい名前だ。
「フェアリーノームは一応温厚な種族なんだが、警戒心が強く下手に近づくと攻撃されてしまうんだ。特に男性に対しては攻撃的だな」
それは温厚というのだろうか?
「こんな小さな子でも単体で熊を狩ることができるし、集まればどんな大きな生き物でも倒してしまう。見た目で油断していると痛い目に遭うぞ」
どうやらフェアリーノームは可愛らしい見た目をしているのにものすごく強いようだ。
「でもイーサさんなら勝てるでしょ?」
人間に化けて力を抑えているがイーサさんは神だ。
普通なら負けるわけがない。
「そうだな。負けはしないが勝てもしないだろう。彼女たちは不死身だからな」
どうやら決着は引き分け以外ありえないらしい。
イーサさんが剣を構えて様子を伺っていると、一瞬こっちを見たフェアリーノームが何やら笛のようなものを取り出した。
「しまった。仲間を呼ぶぞ」
「え? 仲間?」
「そうだ。音は聞こえないが、あの笛を吹くとどこからともなくフェアリーノームが集まってくるんだ。逃げるぞ」
今がチャンスと見たのか、イーサさんはボクを抱えてすぐさま駆け出した。
一瞬遅れて「ピリリリリー」という音が森に響き渡った。
なんだかホイッスルの音に似ている気がする。
「音が鳴り響いてますね」
「音? 聞こえたのか?」
「はい。あ、前方右、何かが出てきます」
「まずいな。回り込まれてる」
がさがさという音と共にフェアリーノームが飛び出してきた。
また別の個体のようだ。
「森の出口はもうすぐだ。私が引き付けるから遥は急いで森を脱出するんだ」
「え? イーサさんは?」
「私なら大丈夫だ。フェアリーノームの主な攻撃対象は男か獣だ。一人ならどうとでもなる。女である遥なら逃げ切れるだろう。急ぐんだ」
イーサさんの指示に従って、ボクは駆け出した。
森の出口はすぐそこなのに足が遅いせいでひどく遠く感じる。
慌てているせいもあるかもしれない。
それにすごく怖い。
「あっ!?」
足がもつれて転んでしまった。
まずいと思った。早く立って逃げなきゃ。
急いでいると、後ろからイーサさんの声が聞こえてきた。
「くっ、まさか狙いは遥だったなんて」
どうやらフェアリーノームを振り切ることができたようだ。
しかしすぐさま複数の人影がボクを取り囲んだ。
そう、フェアリーノームだ。
見た感じでは十体くらいいる。
「遥!」
イーサさんが駆けつけフェアリーノームに切りつけるが斧に防がれてしまっている。
人間に化けて力を抑えているとはいえ、神様の一撃を防ぐとかフェアリーノームは思った以上に強いようだ。
(ど、どうすれば……)
必死でなんとかしようと考えていると、一体のフェアリーノームがボクに近づいてきた。
「ボ、ボクをどうするつもり?」
なんとか立ち上がり、近づいてきたフェアリーノームを睨むようにして見つめる。
すると、フェアリーノームは小さな手のひらを見せてきた。
どういうことだろう? と考えていると手をにぎにぎしているのが見える。
握手?
「こ、こうでいいのかな?」
イーサさんはまだ防がれているようでたどり着いていない。
仕方がないのでボクはフェアリーノームの小さな手を軽く握った。
手を握られたフェアリーノームはにっこり可愛らしく微笑むと再びホイッスルを吹き鳴らした。
「ピッピッピー。ピピッ」
音と同時にフェアリーノームはイーサさんとの攻防を止め、一瞬にしてボクの前に整列した。
「え? どうなってるの?」
「遥、大丈夫か? すまない、戦神だというのに」
「いえ、大丈夫でした。怪我は?」
「問題ない。これくらいで傷つくことなどありえないからね」
フェアリーノームとの激しい攻防でもイーサさんは無傷だったようだ。
「しかし、これは一体……」
イーサさんはボクの目の前に整列しているフェアリーノームを見て驚いている。
「わかりません。どうしたいんでしょう」
困惑していると、一体のフェアリーノームがボクに近づき何やら指示をしろとジェスチャーをしてきた。
「え? うん。じゃあ一体だけ残して解散で……」
「ピッピー」
ボクがそう言うと、先頭のフェアリーノームがホイッスルを吹く。
すると、整列していたフェアリーノームが一体だけ残して全員どこかに消えてしまった。
「まさか、フェアリーノームと契約したのか?」
「契約?」
『ふぉっふぉっふぉっ。さすがわしの孫じゃ。やるのぅ』
イーサさんに聞き返していると、お爺様の声が聞こえてきた。
『フェアリーノームは不思議な生き物でな。わしらもようわからんのだ。一説によると異界の神であるという。わかっていることは、波長の合うものには友好的であり協力してくれるということだけじゃな』
「異界の神、ですか?」
『うむ。彼女たちは自身の独自の空間と世界を持っているらしい。ゆえにどんなところにも現れ、どこにでも自由に行き来するらしいのじゃ。わしも見たことはないがのぅ』
どうやらフェアリーノームは思った以上の存在のようだ。
「まさか私の攻撃が一切効かないとは思いませんでした」
『さもありなん。彼女たちは相手によって力を増すそうでな。不死身な分たちが悪いのぅ』
「しかし今回は冷や冷やしました。まさか遥狙いだとは思いませんでしたからね」
『おそらく波長が合う者を見つけたので追ったのじゃろう。しかし、これで彼女たちの力を借りることができるやもしれぬ。いろいろと頼んでみるがよいじゃろう』
「はい。ちょっと試してみますね」
というわけで、まずは木の伐採を頼んでみることにした。
「木の伐採を頼んでいいかな? 3本くらいで」
ボクの言葉を聞いて、フェアリーノームはぴっと手を挙げ敬礼のような仕草をする。
「ピッピッピー」
再びホイッスルを吹き鳴らすと、またぞろぞろとフェアリーの無が集まってくる。
そして「ピッ」と鳴らすと、ぞろぞろと木の伐採に取り掛かり始めたのだ。
「すごいな。まさかフェアリーノームが言うことを聞くなんて」
イーサさんも驚きだったようだ。
少しすると三本の木を切り倒し終わったようで、フェアリーノームたちがボクの前に担いで持ってきた。
あっという間のできごとだ。
「あ、ありがとう。ちょっと収納できるか試してみるね」
ボクがそう言うと「ピッ」とホイッスルを吹く。
了解ってことかな?
とりあえず岩の収納ができたので、丸太の収納も試してみることにする。
目の前に集められた丸太に意識を集中して収納スキルを発動する。
すると、目の前の丸太がすべて消えた。
どうやら収納できたようだ。
「おぉ。これなら素材をすごく増やせるよ」
岩も丸太もそのままいけるなら小屋もいけるかもしれない。
これは夢が広がる!!
ボクが喜んでいるのが分かったのか、フェアリーノームたちも嬉しそうに両手を挙げてジャンプを繰り返していた。
何とも可愛らしい。
「う~ん。ログハウスも作れるか? よし、フェアリーノームちゃん。もう二十本くらい切り倒しちゃって」
ログハウス用に丸太を集めたくなったのでフェアリーノームに指示をだした。
「いや、実に便利だね。仲間になるとこういう風にできるとは思わなかったよ」
イーサさんはひとしきり感心していた。
ボクもびっくりです。
この後、追加で四十本切り倒してもらったので、丸太も枝もたくさん集まってホクホクになった。
いつかはどこかにログハウスを作って収納したいな。
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