第3話 ギルドに登録しようその1
一日目を終えてわかったことは、イーサさんは厳しいけど優しいということと舐めたら必ず痛い目に合うということだった。
なので人型の生物を殺せないとか言ってたら自分が悲惨な目に合うということを理解せざるおえなかった。
特にゴブリン。
死ぬほど怖い目にあったからもう侮らない。
あと、盗賊は女を攫ってあれやこれをすると聞いたので、盗賊はゴブリンであると学んだ。
ゴブリンと盗賊コワイ。
ユルサナイ。
「で、大丈夫か?」
「あ、はい。だめです」
ボクは即答した。
まさか夜中に夢に見て飛び起きるとは思わなかったのだ。
どうやら新しいトラウマを得てしまったようだ。
「そ、そうか。まぁ少しずつ慣らして克服していくしかないね」
「ちょ、やめてくださいよ~」
イーサさんはボクの頭をくしゃくしゃと撫でる。
力強く撫でられたので、髪の毛がすごいことになってしまった。
「おはようございます。朝食はどうしますか? セットで銅貨五枚ですよ」
宿の一階に降りると宿屋の娘の少女が朝食をおススメしてくる。
「あ、お、おは、おはよう、ご、ござ、ございます……」
元々ボクは女性が苦手なのでどうしてもこんな話方になってしまう。
男友達とばっかり話していたせいで、男とは話せるけど異性となると話せないという状況になってしまった。
なので、女の子とどう会話したらいいのかわからないのだ。
「おはようございます。この子は私の姪なんですが、人見知りなところがありましてね」
「あ、そうなんですね。可愛らしいだけにもったいないですね」
ボクに代わってイーサさんが代わりに対応してくれた。
甥ではなく姪といわれるのはなんだか違和感がある。
というか可愛らしいって何なんだろ……。
女の子にそう言われると変な気分になる。
「でもアーサーさんって結構若いですよね。もしかして遥ちゃんのお母さんも若いんでしょうか」
イケメン美丈夫のイーサさんに興味津々な宿屋の娘さん。
ちなみに【アーサー】というのはイーサさんの仮名だ。
今後人前では叔父さんと呼ぼうかなぁ。
「私も言われるほど若いというわけではないよ。遥はまだ十代手前だからね」
「へーそうなんですね~」
ちなみにボクはこの世界に来てからの年齢は八歳ということになっている。
まぁどう見ても見た目がそうなので誰も疑問に思わないだろう。
「そっかそっか~。アーサーさん、奥さんいます? いなかったら立候補しちゃおうかな~」
どうやらこの子はイーサさんのことが気に入ったようだ。
かなり露骨なアプローチを始めている。
「そうだね、今は考えてないかな。遥を鍛えるために旅に出ているしね」
イーサさんはボクのほうを見る。
そうなれば当然、宿屋の娘さんもボクのほうを見るわけだ。
「叔父さん。叔父さんの色恋関係にボクを巻き込まないでください」
思い切ってボクは叔父さんと呼んでみることにした。
一瞬イーサさんは驚いたような顔をしたが、やがてにっこりと微笑むと頭を撫でてきた。
「ははは。そうだね。すまないな、遥」
「別に、いいですけど」
イーサさんは神様なのに妙に面倒見がいいよね。
頭を撫でられながらボクはなんとなくそんなことを考えていた。
銅貨五枚の朝食を食べた後、宿屋の娘さんに見送られながらボクたちは外に出る。
朝食自体の味はまぁまぁかな。
塩味と野菜のうまみくらいは感じられたけど、胡椒とかそういうものの風味は特になかった。
胡椒とかの香辛料がまだ高いのか、それとも一般に流通している量が少ないのかはわからないけど、もう少し増えてもいいんじゃないかなと思う。
「遥からしたら味気ないかもしれないけど、この世界では基本こんなものだよ。香辛料の流通は意図的に制限されている節はあるね。国によっては専売制にしているようで、いわゆる政商が取り扱う品になっていることもある」
イーサさんの説明を聞いている限りだと自分で作ったほうがおいしいものを作れそうな気がしてくるから不思議だ。
でも料理無双とか絶対したくない。
だってボクはコミュニケーションが苦手だから。
「さて、今回はギルドに登録しに行こうか。街にはいろいろなギルドがあるけど、このアルテ村には猟師ギルドと商業ギルドしかない。魔物素材は猟師ギルドでも商業ギルドでも買い取ってくれるが、登録していないと安く買い叩かれてしまうから注意が必要だ」
どうやら異世界の定番である冒険者ギルドはこの村にはないようだ。
ほかの町にはあるんだろうか?
ボクはイーサさんに先導されながら両方のギルドへと向かうことになった。
なんでも、計算ができるなら商業ギルドにも登録しておいたほうがいいらしい。
「商業ギルドへようこそ。新規の方ですか?」
村には似つかわしくないレンガ造りの建物の中に商業ギルドはあった。
ちなみにこの建物の壁で仕切られた隣のフロアには猟師ギルドがあるのだとか。
「私は既に登録済みなのですが、この子も登録しておきたくてね」
イーサさんはそう言うと、ボクの背中を押してずいっと前に出した。
受付のお姉さんはなかなかの美人さんで緊張する……。
「あら可愛い子ですね。いくつかしら?」
そう言うと微笑みながらボクをのぞきこんでくる。
「あ、えっと。じゅ、八歳……です……」
緊張するものの何とか声を絞り出して伝えることができた。
お姉さんはにっこり顔だ。
少し子供っぽかったかな?
「うふふ。可愛いわね。では登録手数料をいただきます。お名前は書けるかしら? 書けなかったら代筆するから言ってね」
「あ、だ、大丈夫、です……」
ボクはお姉さんから羽ペンを受け取る。
この世界の文字は基本的に英語のアルファベットと同じだ。
なので同じように書くだけで問題なく伝わる。
「書き方とか見ていると学があるのを感じますね。これなら大丈夫そうですね」
お姉さんはイーサさんから登録料を受け取ると、ボクのほうをじっと見ていたようだ。
試験という感じもしないので、もしかしたら文字を学んだりすることができるのかもしれない。
「か、書けない人も、い、いるんですか?」
「緊張しなくても大丈夫よ。書けない人もいるけど、そういう人は基本的にこのギルドには来ないわね。書けなくても登録したい人もいるし、ついでに学んでいきたいという人もいるから気にしなくて大丈夫よ」
商業ギルドという名前だけあって条件が厳しいのかと思ったけど、案外そうでもないようだ。
何か別の条件があるのかな?
「商業ギルドは登録料が払える時点である程度資格ありと見なされるんだ。まぁ当然素行も関係してくるけど、それよりも大事なのは年会費を払えるかどうかだね」
イーサさんが補足してくれた。
なるほど、支払い能力が一番見られるのか。
「えぇ。アーサーさんの言う通りよ。年会費が払える時点で何かしらの活動を行えているってことになるわね。商業ギルドにもランクはあるけど、こっちはしっかり活動したい人向けね。ちなみに盗品の取り扱いはしてないの。だから、盗賊を討伐した際に回収した盗賊の戦利品はしかるべき方法で検査することになるから、売買可能になるまで少し時間がかかることになるわ」
どうやら盗賊の戦利品などはすぐに売れるというわけではないようだ。
遺品とかもあるだろうから簡単じゃなさそう。
「盗賊の戦利品には回収依頼というのが出ていることがあるんだ。もし討伐したりしてそれらを手に入れたら、回収依頼の内容に沿って取り扱いを決めることになっているんだよ。特に家紋入りの武具とかはそういうのが多いかな」
全部自分のものにならないのは何となく残念だけど仕方ないか。
「でもアーサーさん。この子を外に出しても大丈夫なんですか? 容姿だけ見ても良家のお嬢様かお姫様って感じがしますけど」
お姉さんが何を心配しているのかわからないけど、ボクはこれでも男だから何とかなると思います。
見た目だけで言えば村にはかわいい子たくさんいたし、問題ないと思う。
「ははは。ありがとうございます。姪も喜ぶでしょう。まぁ今はまだまだ弱いですが伸びしろは十分あるかと。ただもしこの子に何かあるとほかの兄弟が黙っていないかもしれませんね」
「あ、あはは……」
お姉さんは若干引き気味になっているけど、ベルザさんたちはいったいどういう風に思われているんだろう。
「(遥、一応注意しておくけど、村では安易に耳やしっぽは出さないようにするんだよ? それだけで厄介ごとが増えるからね)」
イーサさんが何やら耳打ちしてきた。
どうやら妖狐の証である耳や尻尾は出してはいけないらしい。
あれがあると体がだいぶ楽になるんだけどなぁ……。
今は事前に言われた通り、それらを隠して人間の姿になっているから問題はないんだけど……。
「さて、ではもう行きますね。次は猟師ギルドだ」
「あ、はい」
「またきてくださいね~」
お姉さんに見送られ、ボクたちは隣の猟師ギルドへと向かうのだった。
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