第10話 特別な才能

「俺がやってみるよ」


 クリラスがコクリと頷き、本を渡してくる。


 本に描かれた魔法陣に触れ、魔力を流してみた。


 すると、魔法陣が赤く光った。


 魔法陣が頭の中に入ってくる。


 以前と同じ感覚だ。


 だが、既に俺の中には発火イグニッションの魔法陣が保存されている。


 そのため、新しく魔法陣が加わることはなかった。


 しばらくすると、本の光が消える。


「ほら、見えた? 魔法陣が起動したよ」


「うん、見えた。赤く光ってたね」


「もう一回やってみなよ。次はできるかもしれないよ?」


「そうだね……。やってみよっかな」


 しかし、その後何度やっても、クラリスが魔法陣を起動させることはなかった。


 クラリスは無詠唱魔法を会得することできず、


「もう、全然できないじゃん!」


 と、拗ねたようにぷくーっと頬を膨らませた。


 普段、教室でみる姿と違って子供っぽい雰囲気だ。


 ちょっと意外。


「なに?」


「いいや、なんでもない」


「あーあ、私も無詠唱魔法使いたかったな」


 そうか。


 クラリスは無詠唱魔法が使えないのか。


 なんでだろう?


 そういえば、この本の作者も無詠唱魔法を使えないって言ってたな。


 何かしらの条件があるってことかなのか?


 ひょっとして俺って特別?


 これはやばい。


 自分が凄いと勘違いしそうになる。


「はあもういいや。ねえ。無詠唱魔法見せてよ」


「いいけど。なんで?」


「昨日はあんまり見えなかったから。ちゃんと見てみたい」


 まあ夜だったしな。


 それに変なやつらに絡まれてたし。


「わかった」


 魔法領域にアクセスし、保存されている魔法陣を取り出す。


 そして空中に魔法陣を描く。


 クラリスの目の前で――ボワッと火が灯る。


「わっ」


 クラリスがびっくりした顔をする。


 彼女の眼前に小さな火を出現させた。


 さらに、クラリスの周辺にいくつもの火を出現させる。


 魔法は魔力が切れるまでその場に残り続ける。


 魔法陣に込めた魔力分だけ、火が燃え続けるということだ。


 10を超える火を出現させる。


 一つ一つは小さな火だから、触っても「あちっ」となる程度だ。


「すごい……。ホントに無詠唱だ」


 クラリスがポツリとつぶやく。


 夕焼けの中、いくつもの火が空に浮かんでいる。


 これ前世だったら、かなりのホラーだよな?


 怪奇現象に火の玉ってのがあるし。


 最初に作り出した火から順番に消えていく。


 最後の火が消えてから、しばらくするとクラリスが俺のほうを向いてきた。


「本当はアランって凄いのに、みんなこのことを知らないんだよね」


「凄い?」


「無詠唱魔法を使える。私だけがアランの凄さを知っている。それってちょっと優越感あるかも」


 クラリスがくすりと笑った。


 この子は天性の人たらしじゃね?


 可愛い顔でそんなこと言われたら「俺に気があるんじゃないの?」と勘違いしてしまう。


 まあ……でも、俺に気があるわけがないか。


 こんなデブでろくでない俺を好きになるなんてあり得ないし、そもそもまだほとんど関わっていない。


「ずっと前から無詠唱魔法を使えてたの?」


「いや最近になってからだよ」


「そうなんだ。もしかして雰囲気が変わったのと何か関係してる?」


 うっ、この子鋭い。


 ちゃんと関係してるけど、敢えていう必要もない。


「特に関係はないよ」


「そっか」


 クラリスは特に気にした様子もなく呟く。


「あとさ。最近のアラン詠唱学の授業で魔法使ってたけど、あれ無詠唱魔法だよね?」


「あ、バレた?」


「やっぱり」


「未だに詠唱魔法使えないんだよね」


「……なんか回りくどいことやってるね。詠唱魔法を使ってるフリするために無詠唱魔法を使うなんて」


「うん。俺も同じこと思ってた」


「無詠唱魔法使えることみんなに言わないの?」


「どっちでもいいかなって感じ。無理に隠すつもりはないけど、広めたいわけじゃないし」


「そっか。これみんなが知れば驚くだろなぁ。きっとアランを見直すと思うよ。今日の授業のときみたいに」


「今日の授業?」


「術式学のときだよ。みんなアランが意外と頭がいいって知って驚いてたから」


 たまたま俺が最近勉強してる分野だったからな。


 正直、詠唱学で質問ぶつけられたら答えられる自信がない。


「私も友達として誇らしかった」


「友達? 俺とクラリスが?」


「うん、そうだよ。私とアランは友達」


 クラリスが当然のように言ってきた。


 すごい、この子。


 たった一日で友達判定か。


 これがクラスの人気者か……。


 人と距離を詰めるのが早いようだ。


 恐れ入ります。


「そっか、友達か……。うん、そうだね」


 テッテレー。


 あらんははじめてのともだちをかくとくした。


 やったぜ!


 これでボッチ脱却だ。


 明日からはもっと学校が楽しくなるかも!

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