第4話 高校内モンスター討伐

 夜、カオルと三咲は事前の計画通り幽霊騒動の高校付近に到着した。

 高校が見える位置のコンビニに停めた車の中、下校する学生を横目に車内でも帽子で人相を隠したカオルが鞄からナックルダスターを取り出し握り具合を確認する。


 隔離施設内で先月開発された銃剣使い用の新兵装だ。

 銃剣が銃のグリップに刀剣を装着した武器とするならば、この武装は銃のグリップを持つメリケンサックといえる。


 現代日本の屋内で使用するには剣や槍は長過ぎる。

 その為、未帰還者がスキルを使用できるかを確認してより屋内戦に適した間合いの武器が開発された。

 カオルが持つ特殊なナックルダスターは銃剣使いのガンブレードに対しガンナックルと呼ばれる試作品だ。

 シリンダに込める弾丸は未帰還者が能力で精製できる物をそのまま使用できる。


「へぇ、屋内用の試作武装があるって聞いてたけど本当なのね」

「まだ使い慣れてなくて間合いが怪しいんだけどな。こっちなら天井や壁を傷付ける事はまず無いよ」

「色々考えられてるのね」

「ゲームじゃ武器が壁に阻まれる事は無かったけど現実じゃそうもいかないからね」


 感心している三咲を他所にカオルは不愉快そうだ。

 特殊な機能を持った剣を使う事が好きで選んだのに、物理崩壊のせいで拳を使う事になってしまった。

 そんな自分の境遇を再確認させてくるのでカオルはガンナックルが嫌いだ。


「人間ってのは本当に色々と考えるよ。元の銃剣だって剣と銃を一体化したんじゃなくて魔法で強化する剣って意味で作られたんだ」

「あら、そうなの? てっきり剣と銃の遠近両用武装が元なのかと思ってたわ」

「銃剣使いは模造品の銃付き剣を怒って破壊しまくってたらしい」

「ゲームの設定よね。ちゃんと背景があるなんて凝ってるわ」

「設定とか見るのが大好きなプレイヤーが多くてね、各職業の背景とか歴史が作り込まれているんだ。職業固有のサブストーリーも全ジョブに実装されてたしね」

「流石は全世界で人気のゲームってところ?」

「何でゲームのままでいてくれなかったのか」

「それは本当にそう。運営会社も可哀そうよ。株価は暴落したし新作を作ろうにも第2次物理崩壊が起きるんじゃないかって疑われて株主達から常に社内の開発陣の動向調査依頼が殺到しているらしいわ」

「今じゃ既存ゲームも停止して非電子媒体のゲームだけしか運営出来ないんだっけか?」

「そ。大企業らしく手広く商売していたのが幸いしたわね。業績は落ちたけどリストラはしなくて済んだみたいよ。退職希望者は、まあ色々よね」

「電子媒体ゲーム専門でやってた人たちには辛い職場になっただろうな。辞めても再就職は難しいだろうけど」

「世知辛いわね。ま、私たちには仕事があるだけ良かったと思いましょ」

「マシってレベルなのが泣けるよ。さて、時間か」

「ええ。始めましょう」


 この学校では例え文化祭前だろうと校舎に生徒が8時以降居る事は出来ない。

 必ず警備員と教員が巡回して校内に生徒が残っていない事を確認する。

 また、普段はセンサーを起動させて校内に人が居れば分かる様にして警備員すら不在の無人状態にする。


 しかし今日は事前に学校側と都庁側でセンサーは8時から8時50分までの起動に限定している。

 カオルと三咲は念の為に9時5分に車を降りて高校に向かい学校関係者からセンサーを切ったと連絡を貰ってから裏門の鍵を開けた。


 裏門は正門とは異なり校庭を通らず直ぐに校庭に入る立地になっている。

 2人は事前に学校側から提供されていた鍵を使い入口のガラス扉を開錠、校内に踏み込んだ。


 この学校は裏門から見ると左右へ奥行を持つようにL字に広がっており、正門側からはその反対に左右の手前側にL字に校舎が伸びている。

 問題の連絡通路は出入り口の真上の部分だ。L字の内、長い本校舎が4階建てで短い特別棟校舎が途中まで3階建てで体育館の有る部分だけ4階建てになっている。

 連絡通路とは言うが屋上とも言える場所でありベンチも設置されているので昼休みには複数の生徒が昼食に使う場所だ。


 校舎に入ると下駄箱は無く廊下と正門側の出入り口が見える。本校舎側には階段も見え、特別棟側も本校舎側程ではないが直ぐ近くに階段が設置されている。


 2人の間に会話は無くカオルが顎で本社側の階段を示すと三咲も頷き歩き始めた。

 左手にガンナックルを嵌めたカオル、ボディバックから取り出したショックガンを構えた三咲の順に階段を登る。

 カオルのベルトとショルダーベストには銃剣用の弾丸がストックされている。いざとなれば銃剣を使うつもりなので右手は空け、弾丸も直ぐに取り出せるように戦闘服だけでなく私服にも仕込んでいる。


 モンスターの発見報告が無い市街地だ。高校を望遠鏡や盗聴器の類で覗き見する者が居るかもしれない。その対策としてカオルは戦闘用のコートではなくジャケット姿のままだ。


 何の異常も無いまま3階に着き、問題の連絡通路に向けて歩き出す。

 3階に着いた時点で連絡通路は見えているが特に異常があるようには見えない。

 2人で1度視線を交わして深呼吸を行う。

 緊張から心拍数が上がるが無視して連絡通路へ向かう。


 カオルの手には使い慣れない武器が握られており、三咲は殴り合いの喧嘩すら人生で経験が無い。

 相手がモンスターでもそれ以外でも関係無く不安になるのは避けられない。


 先頭のカオルが連絡通路のドアノブに手を掛けると鍵が掛かっており、事前に借りていたマスターキーで開錠する。

 連絡通路に踏み込んでみたが直ぐに幽霊が出てくるような事は無い。

 少しだけ気が緩んだ三咲が大き目に息を吐く。


……まだ気は抜けないんだけどな。


 カオルは心の中で毒づきながらも同じように息を吐きたい気持ちだ。正直に言えば少しだけ安心した。

 それでもこの半年のモンスター退治の経験から緊張感を保つ事に成功し溜息を飲み込んだ。


 連絡通路の中腹まで進み周囲を見渡してみたが目撃情報のような幽霊が出てくる様子は無い。

 振り返って三咲を見れば壁を背にして警戒する方向を最小限にしている。


……有難い。モンスターが出ても全方位を気にしなくて済む。


 念の為に連絡通路にワイヤーを引っ掛けた痕が無いかと観察してみたがそれらしい傷は無い。事前情報で足場になるような仕掛けが無いという事だったが実際に見てカオルも同意見だ。


「4階屋上へ行く」


 特に理由も聞かずに頷いて後方を歩く三咲の一般人らしからぬ素直さに感謝しつつ連絡通路を渡り切る。マスターキーで扉を開錠して特別棟の階段を見たが階段は3階で止まっていた。


「階段は3階までみたいだ。本校舎側に屋上へ繋がる階段が無いか探そう」

「分かった。見取り図でも貰えば良かったわね」


 素直に同意するが学校の見取り図のような情報を開示するのか疑問だ。

 都庁という政府機関からの要請なら断られないかもしれないが絶対に提供して貰えるという確証も無い。

 連絡通路から本校舎に戻り4階へ向かうと階段は屋上へ繋がっていた。

 屋上に出て特別棟の方に歩いてみたが連絡通路と同様に異常は見つけられない。


「普通の屋上ね」

「……そうでもないかも」

「え?」

「あっち」


 カオルは視線で特別棟ではなく屋上の端を示した。

 反射的に三咲が視線の先を見ると屋上の端、そのフェンスの上で女子生徒の服装をした人影が立っていた。背景のビル群の影、そしてフェンスの上に人が居るなど現実では想定していない為に三咲は視界の端に捉えても認識できていなかった。

 フェンスの高さは約2m、普通は登って立つような高さではない。


「あれが問題のモンスター?」

「かもしれない」


 三咲に手で下がるように指示してカオルは女子生徒に向けて歩き出す。

 相手は俯いているが高い所に立っているのだ、表情が隠れるような事も無く薄く笑みを浮かべているのが分かる。


「お嬢さん、生徒は全員帰ってないといけいない時間だよ」

「……」

「それに屋上は進入禁止よだ。鍵は職員室から盗んだのかな?」

「……」


 女子生徒の反応は無い。

 カオルも反応を期待はしておらず形式的に人間かどうか確認しているだけだ。


 三咲が居るので特に録音は必要無い。

 距離が近付くほどに分かるのだが、女子生徒は薄く発光している。

 最初は月明りを背負っているから光って見えるのだと思ったがそうではない。肌だけでなく服まで発光しており明らかに人間でも普通の制服でもないと分かる。


「警官でも警備員でもないけど、ちょっと話を聞かせて貰うよ」

「……」

「お名前は?」

「……」

「学年は?」

「……」

「こんな時間まで何をしているのかな?」

「……」

「失礼だけど、君は人間かな?」

「……」


 その質問に対し、女子生徒の笑みは深くなったように見える。

 カオルも笑みを返し、左手のガンナックルを前に構えてみせた。


 誘いに乗るように女子生徒が両手を広げ、蝙蝠のような羽根が生えた。

 耳は大きく尖り、肌は青白く変色する。

 髪は不自然にオールバックになり、露になった瞳は爬虫類のように縦に伸びている。


「居たなぁ、こんなモンスター」


 カオルは初心者だったので全てのモンスターの名前を憶えている訳ではない。ゲームは好きだが全モンスターの名前を覚える程にやり込むタイプでもない。

 なので見た目から蝙蝠女と頭の中で命名して近づいていく。


 しかし蝙蝠女もフェンスの上で身体を大きく屈め、カオルに向けて直線的な跳躍で距離を詰めてきた。右手の爪を刃渡り50センチ程に伸ばし腰溜めに引き絞った突進だ。


 分かり易い突きの構えにカオルも迎撃の構えを取る。左拳を腰へ引き絞り、トリガーを引いて拳の周囲に斥力場を張った。

 鋭く尖らせた爪に、斥力場を携えた拳。


 互いにタイミングを合わせ、衝突する。


 斥力場に阻まれた爪が衝突の勢いに負けて圧壊し、カオルは威力が低くなる事を承知で拳を突き出した状態から続けて踏み込みアッパーを放つ。

 コンパクトでダメージよりも手数を優先した拳は蝙蝠女の顔面を捉え突進の方向を逸らす。体当たりに当たらないよう身体を逸らして蝙蝠女を身体ごと回避する。


 床に衝突する蝙蝠女の背中にスタンピングを仕掛けるがゴロゴロと転がって避けられた。

 回転の勢いのまま立ち上がった蝙蝠女が体勢を整える前に追撃に入る。避けられることを前提でジャブを細かく放つが蝙蝠女には驚くほど全て当たる。


……レベルが低い? いや、戦い方が合っていない?


 元々のゲームで蝙蝠女は魔法系、それも状態異常を付与するタイプだ。本来なら他のモンスターと連携して後方からプレイヤーへ状態異常効果の有る爪と魔法攻撃を放ってくる。

 それが格闘でタイマンなのだ、ゲームの様にステータス差でダメージを無視したり、打撃による怯みが無いならまだしも現実の戦闘ではカオルの方が有利だろう。


 警戒し過ぎて攻め手を緩める事をしないよう自分に言い聞かせ、カオルは連打を放つ。

 顔面へのジャブで仰け反らせ、腹へのアッパーで屈ませ、後頭部を叩いて床に倒す。女性を模した姿に抵抗は感じるが強引に心に蓋をして腹を蹴り上げる。


 トリガーを2回、拳に攻撃用の衝撃発生障壁を展開して攻撃力を引き上げる。

 よろよろと立ち上がる蝙蝠女の顔面、防御に重ねられた両腕の上からストレートを叩き付ける。

 防御しても貫通する衝撃に弾かれる蝙蝠女が倒れ切る前にトリガーを2回引いて肉薄する。

 蝙蝠女の両腕は大きく弾かれて顔も胴体もがら空きだ。しっかりと拳を腰に溜め、全力の拳を腹に叩き付ける。


 ダメージで力の抜けた蝙蝠女を腕力だけで押し退け、トリガーを引き顔面に拳を突き刺す。

 人間なら完全にノックダウン状態で蝙蝠女が床に倒れた。


 物理崩壊で困った事の1つにHPバーの消失がある。モンスターのHPが分からずどれだけの攻撃をどれだけのペースで続ければ良いのか分からず、また人型モンスターは心理的な抵抗から倒れると追撃がし辛い。


 カオルも心理的な抵抗は有るが、先ほどと同様に心に蓋をしてガンナックルのシリンダを開いて角度を付けて薬莢を排出した。右手でベルトから弾丸を6つ引き出し2発ずつ3回に分けて装填しシリンダを閉じる。


 まだHPが残っているようで蝙蝠女は手を柱に身体を起こそうと震えていた。

 三咲から見てもカオルが悪役だ。

 カオルも自覚はあるだろうが止まらなかった。


 弱った蝙蝠女へ肉薄し顔面へトーキック、嫌な感触に力が抜けそうになるが心を冷たく捻じ伏せトリガーを引く。

 相手が倒れ切る前に背中へアッパーを放ち10メートルほど打ち上げ、トリガーを2回。

 しっかりと拳を引き、落ちてくる敵の身体に向けて全力の打撃を放った。

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