一度はちゃんと説明したい

 会社忘年会にて。質問攻めに遭いまくっている。嬉野さんと久慈さんと萌木さんと北明社長がグイグイ来る!


「こないだのあの子が怨霊なんですか!?」

「今はトラブルありますか?」

「また縮まないよね!?」

「閻魔大王様に会ったって本当です!?」


 あわわわわ。


「ひ、ひとつずつお願いします!」


 俺は慌てて言った。経理の足柄さんにまで興味深げに見られてる!

 一応、和束ハルの件については久慈さんに「いい感じにみんなに話しておくから、経緯を教えて」と言われて話してはあるんだけども。閻魔大王様の頼み事についてはほとんど話してなかった。北明社長にも聞かれたら聞かれたことは話してたんだけど、萌木さんや嬉野さんにどう伝わっているのか。

 ていうか。


「その、みなさんそういうの信じてくださるんですね」


 俺がそう言うと、萌木さんがため息をついた。


「そりゃ目の前で縮まれたら信じるよ」


 それはそう。萌木さんの眼の前で2歳児に縮んだんだよな、俺……。


「その節は大変ご迷惑をおかけしました……」


 俺が萌木さんに頭を下げると、北明社長が嬉野さんを見た。


「嬉野さんは怨霊さんに会ったことあるんです?」

「多分。えっと、こないだの集まりについてきちゃった子が怨霊の子ですよね?」


 俺は頷いた。


「そうです……その節は大変ご迷惑をおかけしました……」


 萌木さんは不思議そうだ。


「なんかあったの?」


 嬉野さんが答えた。


「なんかその子、和泉さんを子々孫々まで祟りたいんでしたっけ、それで和泉さんがなかなか結婚しないからって、その子に和泉さんと付き合ってくれって言われたんですよね」


 俺は小さくなった。


「本当に……ご迷惑をおかけしました……」


 嬉野さんに改めて深々と頭を下げる。北明社長は驚いて嬉野さんに聞いた。


「えっそんなことあったんです?」


 嬉野さんは頷く。


「そうですね、その子が話し出して、和泉さん血相変えてすっ飛んできて、私めちゃくちゃ謝られて……」

「本当すみません……よく叱っておきましたので……」


 この件に関しては謝るしかできない。困っていると、北明社長が「いや、質問攻めにしてごめんなさい」と言った。


「普段の打ち合わせとかSlackだと、仕事の話しかしないから、気になっててもなかなか聞けなくてですね。雑談レベルで話せることだけでいいんで」

「いや、話せなくはないんですけど……信じがたい話ばっかりなので、話していいものかと思ってるだけで……」


 俺がそう言うと、久慈さんが口を開いた。


「一応私、猫又と知り合いなので、噂は耳に届くんですよね。でもメチャクチャな噂もあるんですよ、和泉さんが女装してユニコーン騙しただの、吸血鬼の王の命を救っただの」

「それは……普通に事実ですね……」

「え゙え゙!?」


 話しがしっちゃかめっちゃかだったが、俺は

 とりあえず今のことを差し障りない程度で話した。


「まあ、そんなこんなで、魂10体を探してます」


 子供工場とか9人は殺されてるとかは流石に伏せた。酒の席でそんな血なまぐさいこと話したくない。

 萌木さんが信じられないものを見る目で俺を見た。


「和泉さん、それを仕事しながら……?」

「フルフレックスには本当に助けられています」

「そ、そうだよね……」


 めちゃくちゃ聞かれるな……まあ、職場で仕事以外のことも話せるのは、会社の情報共有のハードルが下がるからいいことではあるんだけど。こんなこと話せるなら仕事のちょっとしたことも話せる、みたいな流れになるから。

 足柄さんが聞いた。


「その千歳さんって子、ずっと和泉さんのところにいるんですよね?」

「そうですね」

「なんというか、その子が女避けになってません? 結婚しなきゃいけないなら、考えたほうがいいんじゃ?」


 それは、確かに俺が千歳以外の人との結婚を望むならそうなるんだけども。

 俺は足柄さんに苦笑して見せた。


「……千歳は、私に誰かと結婚して子供作って欲しがってますが、私がそれをやりたいかと言うとまた別ですので」


 千歳と一緒にいたい! それなら一生独身でいい! 千歳と暮らしてたらあんまり独身生活じゃないのは置いといて!

 足柄さんは申し訳なさそうな顔をした。


「そうでしたか、個人的なことをすみません」

「いえ、当然の疑問ではあるので」


 嬉野さんが俺に聞く。


「和泉さんは、千歳さんと一緒にいたいんでしょう?」

「そうです」


 嬉野さんは笑った。


「頑張ってください! 応援してます!」


 この人には、俺の好きな人がバレてんだよな。

 俺も微笑んだ。


「頑張ります。ありがとう」

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