お前の痛さをなくしたい

もう何年も続いているから当たり前のものになっているが、肩と腰と背中と首が常に痛い。ブラック企業時代、朝も昼も夜も深夜も仕事のし通しだったが、その頃から痛くなり、今に至る。まあ、今も安い椅子での座り仕事で、合間にストレッチするほどの体力もなく、治る要素がひとつもないのだが。

納品が終わって一段落ついたので、腰を叩いたりセルフで肩を揉んだりしていたら、怨霊(大学生女子のすがた)がわざわざ台所からよってきた。

『やっぱり腰痛いのか?』

「んー、肩と背中と首も痛い。あと頭痛い」

『お前、若いのに痛い所多すぎないか?』

怨霊にドン引きした顔をされた。人外に引かれるほどひどいのか? 俺は。

『おい、布団敷いてあるから寝ろ』

「いや、今日は寝るほど調子悪くないよ、痛いのいつもだし」

『眠れって言ってるんじゃない、うつ伏せで寝転がれって言ってるんだ』

「?」

次の案件に取り掛かってもよかったが、急ぐわけでもないので、布団まで行って言われたとおりにする。そうすると、怨霊の手が背中や腰を触ってきた。

『うわあ……お前、体に鉄板でも入ってるのか?』

「サイボーグになった覚えはないな……え、マッサージか何かしてくれるの?」

食事の世話や布団干しや洗濯に終わらず、体揉んでくれるとか至れり尽くせりすぎないか。こいつ俺を祟るつもりのはずなんだが。いや、こいつ俺の子々孫々まで祟るつもりらしいから、俺が体を治して稼いで子孫を残すために割と何でもやる気らしいが。

『そのうちやってやるつもりだった。療養には湯治とあんまがいいだろう?』

「オーソドックスな方法だなとは思う」

『湯治はお前の懐的に無理だが、あんまなら見様見真似でやれなくもない』

「なるほど。まあ見様見真似でも、やってくれるとすごくありがたい」

『じゃあ揉むぞ。この固さだと力仕事だ』

怨霊は煙とともにヤーさんの格好になり、背中や腰を指圧しだした。俺のコンディションだと、どう揉まれても割と気持ちいいと思うが、それを差し引いても、ツボを心得ている気がする。マッサージの経験がある怨霊とかいるのか?

「なんか……、いい感じのところついてくるけど……、マッサージ詳しいの?」

『図書館で調べたぞ!』

怨霊の得意げな声が上から降ってきた。そう言えば、この間図書館で声をかけたとき、料理本がおいてあるのとは別の棚にいた。そういうことを調べていたのか。

「なるほど……うん……すごく気持ちいい。肩と首も揉んでもらえたりする?」

『もちろんだ!』

「助かる……」

怨霊は背中と腰を揉んだ後、リクエスト通り肩と首も揉んでくれて、俺は気持ちよくて半分眠りかけた。

『終わったぞ?』

怨霊の声で、俺は眠りの国から現実に引き戻された。

「あー、どうも……。あっ、すごい! あんまり痛くなくなった!」

腕を回してもそこまで痛くないし、首を回してもそこまで痛くない。可動域が広くなった気がするし、頭痛もマシになった気がする。

「うわーすごく助かる。ありがとう!」

『あ、いや……』

怨霊はなぜか目をそらした。どうしたんだ?

『痛さが全部取れたわけじゃないのか?』

「んー、長年のだからなー、一発でなくすのは難しくない? でもこれでもすごく体軽いよ」

『…………』

怨霊は渋い顔をした。

『一発で全部治してやるつもりだったのに……やっぱり揉むだけじゃなくて、鍼もやらないとだめだな。図書館にそういう本もあるか? 縫い針でいけるか?』

「……刺すのは流石に専門家に任せたほうがいいと思う……たまにこれくらい揉んでもらえれば十分です」

縫い針の針山にされるのは全力で阻止しようと思った。人外は何を考え出すかいまいちわからないなとも思った。

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