第49話 故郷はエーテルの彼方へ ⑪

 ガリヴァーのブリッジにあるモニターでは、今まさにクイーンからコロニーが切り離される様が映し出されていた。強大にみえたあのクイーンもコロニーが外れれば途端に貧相に見えてしまう。細い体に長い六本の脚を見ているとまるで肋骨のようだ。

 しかしコロニーはあくまでクイーンの付属物、クイーン本体はまだ健在だ。

 

「コロニーの分離を確認!」

「サマンタラン!! ゲートを!!」

「はいサマンタランですよ、こちらは準備完了です。座標は既に送ってあります」

 

 通信士からゲートを開く座標が届いたと報告があがった。座標の場所はクイーンの左側、惑星ロビンの第二衛星の側だった。

 モニターで見てもそこに何かあるようには見えないが、作戦通りなら確実にゲートがそこにある。

 

「奴の質量は半分以下にまで減ったぞ、ガリガリにやせ細ったクイーンなんて恐れるな! 全艦攻撃開始! 奴をゲートまで押し込め!!」

 

 号令と共に各艦から最大火力の魔砲が放たれる。それらの魔砲は一つも外れる事なくクイーンに命中するが、クイーンはそれらを強大なシールドで完全に防ぎきる。

 魔砲が止んだ直後、クイーンは一度第二衛星の方へ移動してから振り返って魔法をうつ。

 

「クイーンの魔法だ! 散開を」

「いえ艦長、これはフレアブラスターではありません!」

「なんだって!?」

 

 クイーンの周りに小さな魔法陣が無数に現れる。見覚えのある魔法陣どころかリオもよく使っていた魔砲と同じものだ、その魔法陣から雷の塊が発射されてこの場にある戦艦全てに襲いかかる。

 

「ホーミングエレキテル!? シールドを上げろ!! 小型艦は大型艦の陰に入るんだ!」

 

 反応が早かった艦は直ぐにシールドの出力を上げて防ぎきったが、間に合わなかった艦と小型の艦はあえなくホーミングエレキテルの餌食となって沈んでいった。

 ただでさえ大きなクイーンの魔法だ、普通のホーミングエレキテルとは桁違いの威力で一撃でガリヴァーのシールドを削りきった。

 

「ここに来て俺たちの魔砲を学んだという事かよ!」

 

 尚更時間を掛けられない、今ので八十隻近くの艦を失ってしまった。残りはもう五百もない。

 しかしさっきの一斉魔砲とクイーンの魔法による反動で大分ゲートに近づいてきた。もうあと一押しだ。

 

「ヒデ!! 予定より早いけどモーラーをやる!」

「よしわかった!!」

 

 ヒデは今ガリヴァーに乗っていない、別の艦に乗って後方に待機していたのだ。

 

「モーラー艦! 編成を組め!」

 

 この作戦においてクイーンをゲートに押し込む方法は実にアッサリと決まったものだ。いくらゲートを開いてもクイーンをそこに入れなければ意味が無いし、クイーンもまたゲートに気付けば近づこうとしないだろう。

 魔砲を連続で撃っても効果はあるだろうが、クイーンがシールドを貼ればあまり望めない。

 ゆえにとてもシンプルな手段を取る事にした。

 戦艦十隻を繋げて巨大な一隻の戦艦(名前はモーラー)とし、氷結魔砲アイスコフィンで隙間を埋めて前面にシールドを張る。その状態で突撃するのである!

 

「モーラー突撃開始!!」

「うおおおおお!!」

 

 ヒデの雄叫びが聞こえてきた。実際今の彼はてんてこ舞いといえる。戦艦十隻を繋げるなんてことは脳筋すぎると思われるが、戦艦十隻分のリアクターを同時に管理して調整をしなければいけないのだ。

 また十個のリアクターを同じ出力で安定させるためには常に高度な計算が求められる。計算はガリヴァーからモーラーの中枢艦に移した副長に任せてある。

 膨大な計算式を常に行い続ける事は副長にしかできない。

 

「ヒデさん、四番艦の出力を三百上げてください、七番艦は五十」

「おおおお!! わかった!! おおおお!!」

 

 もはやまともな受け答えも難しい、無論ヒデ以外にも整備士はいるが、十個のリアクターを同時に管理できる人材はドワーフ族のヒデだけだ。

 十隻の戦艦ことモーラーはクイーンに正面からぶつかってゲートまで最大噴射で押し続ける。

 当然クイーンも抵抗する。至近距離で再びホーミングエレキテルを放ち、小型〜大型全てのベクターをモーラーに襲いかからせる。

 ホーミングエレキテルを他の艦がシールドを貼って防ぎ、他ベクターは残った艦が落としていく。

 

「クイーン、ゲート座標まで残り一キロメートル……八百メートル……五百メートル……百メートル!」

 

 その瞬間クイーンの身体がエーテル界に溶けていく……ように見えた。

 

「ホロ装置解除されます!」

 

 ホログラム装置、通称ホロ装置と呼ばれるその装置はゲートの周囲に設置された。

 ゲートを開いてもクイーンに気づかれるわけにはいかない、エーテルの乱れを探知する可能性があったが、常にエーテルが乱れている惑星ロビンの周辺なら問題ない、ゆえに対処すべきは視覚だ。

 そこでえらばれたのが浮遊機械都市キュービックで手に入れたホログラム技術、キュービック程の技術力は無いがエンシワ連盟の科学力を駆使して二十キロメートルのホログラムを作ってゲートを隠したのである。

 

「クイーンがゲートに引っかかりました!」

「押し込めぇ!!」

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