第47話 故郷はエーテルの彼方へ ⑨

 ドラゴニアの白兵部隊が一斉にジャングルを抜けて広場を走り抜ける、外側は筋力に優れた爬虫人種がハルバードを持って突撃し、内側には魔法使いと銃撃を主とする哺乳人種が空からの敵に備えつつ走る。

 流石はよく訓練された兵士達だ、足並みが完全に揃っておりガラドが指示しなくても前方が走る足を緩めたり後方が早めたりと調整をしている。

 前方に幼体ベクター(まだ幼虫で三メートル程の芋虫のような見た目をしている)がいればハルバードで斬り倒し、空からタガメベクターが襲ってくればレーザーハンドガンで応戦する。

 走りながらとはいえ、守備に重きをおいた陣形なのであらゆる方向からの攻撃に対処できるが、その分突破力が低いため、たった百五十メートルの距離を進むのに三分も掛けてしまった。

 

「接続部だ! ここで踏ん張れ!!」

 

 前方の根っこを切り払いながらガラドが突き進む。彼が爆弾を設置するまで白兵部隊はここで陣を張り持ちこたえねばならない。

 

「怪我人はいますか!?」

「こっちに二人! 一人は頭を打って意識が朦朧としている! 一人は腕が折れている!」

「こちらも一人! 出血が酷い!」

「頭を打ってる人はそのまま安静に! 出血が酷い方を優先します!」

 

 出血の酷い兵士の元へ駆けつけ治療を開始する。見たところ確かに出血は酷くみえるが、傷はそこまで深くないので処置はすぐ終わるだろう。治癒魔法を掛けて素早く傷を塞ぎ、塞ぎ切る前に人工血液を輸血した。

 

「はい終わりです、少しの間だけ貧血を感じると思いますが直ぐに慣れます」

「助かる」

 

 兵士はゆっくり起き上がって戦場へと戻った。それを最後まで見守るまでもなくドクターは次の患者へ向かう。

 

「骨折した人は少し我慢しててください、先にこの人を」

 

 頭を打って意識が朦朧としている人の頭部をアナライズ魔法でスキャンして症状を確認する。どうやら頭に血がたまる頭蓋内血腫のようだ。この短時間でここまで溜まるとは思ってなかったので少し後悔する、治すことはできるが今の段階だと後遺症が残るかもしれない。

 こちらを優先すべきだったと後悔しても遅い、急いで血腫の除去にかかる。

 

「ただの治癒魔法ではダメ、雷魔法も併用して内部で少しずつ」

 

 治療魔法で患部の治療、治癒魔法は人体を透過するのでそのまま治癒魔法の範囲内に電気を発生させて血腫を少しずつ削っていく。

 ほんのちょっと集中が乱れるだけで命が失われる。周りでは銃声も響き魔法の余波もくる、そんな中でも集中を保たなければならないドクターの精神力がいかに優れているかわかるだろう。

 

「終わりました。どこか違和感ありますか?」

「うっ……あ、あぅあ」

 

 どうやら言語障害が起きたようだ、しかししばらく診断して意識はしっかりしてるし目の焦点も合っていたので意思疎通と戦闘復帰は問題無しと判断した。返ったらちゃんとした病院で診察してもらおう。

 残る骨折兵士は手早く骨を繋ぎ直して終わらせた。

 その間にまた患者が増えたのでドクターは戦場を駆け回る。

 どれだけそうしていただろうか、時間なんてものを図ることすら忘れて奔走してしばらく。ようやくガラドから通信が入った。

 

「全軍に通達! 爆弾を設置した、三十分後に爆発するからただちに脱出準備にかかれ!」

 

 ガラドの命令が終わる前に部隊の撤収準備が始まる、ドクターも治療は最低限に抑えて何時でも走り出せるようにしておく、ガラドが戻ってきた段階で全員が一斉に駆け出す。

 再び広場を駆け抜けていくが、さっきよりベクターの数が減っているので幾分楽だ。

 もう少しでジャングルに入ろうというタイミングでそれは現れた。

 

「こいつは!」

 

 突如上から正面に落ちてきた物体があった、それは全高が十メートルもあり、全長は三十メートルもあろう幼体ベクターだった。

 上を見ると繭のようなものが壊れているのを確認したので、おそらく何らかの衝撃で壊れて中にいた幼体ベクターが這い出てここまで来たのだろう。

 

「時間がない! 撃て!」


 魔法部隊と銃撃部隊がそれぞれ遠距離魔法と銃を撃つ、ただし狙う先は回転するコロニーに合わせて斜め前である。

 コロニーの回転で射線軸が合わさって攻撃が次々と幼体ベクターへと突き刺さる。しかし。

 

「通じてないだと!?」

「あれ! シールドが張られてます!」

「魔法を使うのか!?」

 

 幼体の時点で魔法を使えるとは知らなかった、それともこの個体だけ特別なのか。どちらにしてもこのベクターを何とかしない限り脱出は不可能だ。

 

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