第45話 故郷はエーテルの彼方へ ⑦

「クイーンが魔法を撃つぞ! 散開しろ!」

 

 今度の指示は皆素直に聞き対応も早かったが、一部の船はすぐに動きを止めてしまい往生してしまった。また命令無視なのかと思ったリオは該当する艇に通信を掛けた。

 

「何やってる!? 早く逃げろ!!」

「だ、駄目だ。ベクターが張り付いて身動き取れない」

「レーダー!」

「艦に重なってベクターの反応を検知! 他の艇も同様です」

「全艦隊に援護を」

「いいえ、もう間に合いません」

 

 副長が言うが早いか、クイーンは魔法を放ってしまった。尋常じゃない大きさの炎の濁流が射線軸上にある全ての物質と生物を焼き尽くしていく。

 魔法が終わると、そこには何も残っていなかった。灰燼に帰してしまったのだ。

 

「副長、どう思う?」

「はい艦長、クイーンは仲間のベクターで動きを封じさせたものと考えられます。つまり戦術を使い始めました」

「やはりそうか、陣形を変える必要があるな」

 

 これまでは密集陣形でタガメベクターやマンティスベクターに対応して、魔法が来たら散開して回避してから再び集結という作戦でいたのだが、クイーンが戦術を使ってこちらを確実に沈めにきたので、陣形を変える必要がでてきた。

 

「副長! 今すぐ艦隊を六つに分けてクイーンの周りに配置させて方球の陣をとらせるんだ! 分け方はランダムでいい!」

「はい艦長」

「なるほど分散させてクイーンの狙いをそらさせるのか、だが他ベクターの対処や援護はしにくくなるぞ」

 

 隣に座るジェルプラン将軍の言うことも最もだ、分散陣形は数の少ないこちらが不利になりやすい。しかし圧倒的なクイーンの攻撃の被害を減らす事が出来る。

 

「はい、なので配置場所はクイーンを中心として背後、真上、正面斜め上、正面斜め下、両横にして必ず味方の射程に入るよう調整させます。正面の部隊はガリヴァーと連盟でも特に練度の高い艇を集めて注意を引きます。これである程度マシになる筈」

「分かった、作戦の説明は私の方でしておく」

 

 司令部の人間が直接言えば急な陣形変更の指示でも混乱が少ないだろう。

 

「クイーンがチャージしてる今のうちにやれるだけやってしまわなければ、突入部隊を発進させろ!」

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 リオの命令は数秒遅れて戦闘宙域外に待機していた突入部隊に届いた。すぐさま部隊長のガラドが艦内通信でクルー全員に伝える。

 

「突入命令が出た!」

「ついにあたしの出番がきたああ!」

 

 三箇所から同時に突入部隊を乗せた小型艦が発進する。三つの部隊はそれぞれコボルト隊、オーガ隊、ドラゴニア隊と呼称され、名前になった種族が部隊長を務めている。

 そしてドラゴニア隊の乗る艇はブリタニア号で、操縦士はロビンソンが務める。

 

「前方にタガメベクターの群れがあるぞ!」

「舌を噛まないよう気をつけてね!」

 

 ロビンソンの類稀なる操縦技術によってタガメベクターが密集する空間を突き抜ける。

 ベクターとギリギリ衝突するかどうかの隙間を狙うため見ている方はヒヤヒヤする、時には反転させ、時には急制動かけてからの急浮上、乗っている人間の事を全く考えない荒々しい操縦だが艇全体に掛けられた魔砲のおかげでGはそれなりに抑えられている、それなりに。

 予測不可能な軌道を描きながらベクターの群れを抜けると、視界いっぱいにベクタークイーンのコロニーが広がった。

 

「ハッチは反対側だ」

「おっけー」

 

 ガラドの指示に従って反対側へ、残念ながら一番乗りではないらしく、既にハッチが壊されており中から空気が漏れだしていた。

 ハッチを潜ると細い管のような通路がしばらく続き、通路を抜けると散々映像でみたコロニー内部へと辿り着いた。

 侵入して早々に小型ベクターが襲ってきたので光子魔砲で応戦しつつ着陸する。着陸した瞬間に強烈なGが一瞬掛かって横に引っ張られる感覚に陥るが、すぐに立て直して上陸する。

 真上にオーガ隊の艦が見えた。コボルト隊の艦は見えない。

 しばらくすると外と中からベクターがやって来て壊したハッチに張り付いて修復を行った。

 

「今通信が入った。どうやらコボルト隊は途中でベクターに落とされたらしい」

「じゃああたし達ドラゴニア隊とオーガ隊だけで」

「その通りだ、行くぞ。オーガ隊は既に突入している」

 

 ガラド率いる突入部隊がゾロゾロとブリタニア号を降りて小型ベクターと応戦を始める。ブリタニア号はこの位置で待機しながら光子魔砲で援護、同時にブリタニア号を拠点としてコロニーの攻略を行う。

 

「衛生班の準備できました、いつでも行けます」

 

 衛生班は二手に別れる。拠点に残って治療する係と、突入部隊に混じって現場で治療する係に。ドクターは後者に配置された。

 衛生兵の仕事は主に安全地帯まで負傷した味方を運ぶ事なのでガタイのいい種族がやるのが鉄則だが、ドクターの治癒魔法であればその場で即座に傷を治して動かせるので選ばれたのだ。

 

「ドラゴニア隊! 突撃せよ!」

「「うおおおおおおおおお!!」」

 

 兵士達の野太い雄叫びがコロニーに響き渡る。ここからは時間との勝負だ、クイーンと他ベクターは外の艦隊が引き付けてくれているが長くはもたない。迅速に、かつ確実に事を済ませなければ。

 

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