第35話 評議会の理 ④

 評議会は仮想空間で開かれる、時間帯は毎回違うが必ず週に一回開かれている。連盟に所属する数千の惑星が参加するのだ、議題は腐るほどあるので一つ一つは毎回十五分〜一時間程しか時間をとられない。

 そしてこの評議会が重要とされる理由として、内容が星系全体に中継されることだ。

 

「過半数の賛成がでました」

「可決とする」

 

 司会進行と評議会議長の声が場を支配する。たった今議題の一つが可決という結果を得て終わったところだ。二分程時間をおいて、次の議題へうつる。

 次はいよいよラボラトリーの番だ。このラボラトリーの枠を借りてリオが話す事になっている。

 

「続いてラボラトリー」

 

 司会進行の合図と共にラボラトリーのブースにスポットライトが当たる。評議会の仮想空間には連盟に所属する全ての惑星に対応したブースが浮いており、議題を提出する惑星のブースにスポットライトが当たると、中央に移動する仕組みとなっている。

 移動した先の中央正面には議長と司会進行がおり、向き合って話す事となる。

 ラボラトリーは正確に言うと惑星ではないのだが、連盟全体の科学関係全てを担当しているので特例として評議会の参加を認められていた。

 

「それでは行きますよ」

「ああ」

 

 ブースは文字通り箱の形をしているのだが、順番が来ると箱の上半分が消失して中にいる人が顕になる。

 ラボラトリーのブースから現れたのは、ラボラトリー主任科学者のサマンタランと今や時の人となっているリオ・シンドーだった。

 

「リオ・シンドーだ」「あれが?」「超大型ベクターと戦って生き延びたらしいぞ」「なんでここにいるんだ?」「よくみると可愛いじゃない」「連盟に参加してないのにいいのか?」「彼の実績は目を見張るものがあるからいいんじゃないか?」

 

 リオが姿を見せた瞬間から評議会がざわつき始めた。ここ最近のメディア参加が功を奏している事のあらわれともいえる。

 あまりにも騒がしかったからか、評議会議長が強制ミュートを掛けて一瞬で静かにした。

 

「ラボラトリー、議題の提出を」

「はい、議長。提案書は既に議長と上院議員の皆さんに送ってあります。提案書の数自体が膨大なのでおそらく読まれてはいないでしょう」

 

 提案書は数日前に評議会へ送るのが決まりであり、提案書は議長と上院議員二十三名に送られる。評議会の上院議員とは地球のとは違い、エンシワ連盟の創設に携わった二十三の惑星から選出されている。

 この上院議員の票はとても大事で、評議会全体で賛成が過半数でも、上院議員の反対が過半数なら反対となるように、彼等の発言力は大きい。

 上院議員は提出された提案書を事前に読むのだが、そもそも提案書の数が膨大なので全てに目を通す事のできる議員は少ない。

 一応、議長は百のモニターを同時に見て一瞬で全てを記憶する事のできる種族なので、この評議会において議長だけが全ての提案書を暗記している。

 

「その通りだ、ラボラトリーの提案書に目を通した上院議員はおられるか?」

「私が」

 

 答えたのは一人だけだった。それもその一人とは他でもないドラゴニア国王である。

 

「ではラボラトリー、提案書の解説を」

「かしこまりました。説明はこちらのリオ・シンドーにしてもらいます」

 

 リオが一歩前に出る。再び評議会が騒がしくなったので強制ミュートで静かになってからリオが話し始める。

 

「お初にお目にかかります、俺…………私はリオ・シンドーと言います。ガリヴァーの艦長を勤めていました。まずは私の生命を救って頂いたことを深く感謝します、また勝手にガリヴァーを乗り回していた事を謝罪します」

「うむ、本来なら連盟の艦を勝手に使う事は違法ではあるが、やむを得ない状況だった事、更に貴殿の功績も大きい事から、この件は不問としている」

「感謝します。では提案書の話ですが……単刀直入に言います私リオ・シンドーは、超大型ベクターことベクタークイーンの討伐を提案します」

 

 またもや議場がざわつき始めた、いや評議会だけではない。この評議会を中継で見ている全ての人達に衝撃を与えた。それは四半世紀に及ぶ長い戦いの中で、諦められてきた提案だったからだ。 

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