第24話 あの艦を目指せ! ②

 あの日の事を思い出しながらドクターはラボラトリーを離れてドラゴニア領事館へ戻る道を歩く、日が沈むのが早いからほんの十数分でもう真っ暗だ。

 

「やあドクター奇遇ですねぇ。実はワタクシ、ドクターがここを通ると思って待っていたんですよぉ」

「奇遇とは」

 

 通りすがりにさらっと声をかけてきた不審者は連盟の科学者であることを示すバッジを胸に着けている。服装はポンチョのようなものの上からストールを被せた格好。

 彼は連盟に所属する科学士官で名前をサマンタランと言う。

 

「何か御用ですか? サマンタランさん」

「ん〜、冷静ですねぇ。ワタクシ浮き足立ってしまいます」

「いや足ないじゃないですか」

 

 サマンタランはバーグラリ星人という下半身の無い種族だそうだ、下半身だけじゃなく腕も無い。バーグラリ星人は両手両足が無い代わりに魔法に優れており、全ての動作を魔法で補っている。

 魔法で空を飛び、魔法で物を浮かせ、魔法で操作する。

 

「まあまあ、まずはこれを渡そうと思いまして」


 サマンタランは地面に置いていた鞄を魔法で浮かせて、魔法で中身を取り出してドクターへ渡す。それは小さなメモリスティックだった。

 

「ドラゴニアの記録媒体に合わせてスティックにしました。ここには超大型ベクターの心臓の研究結果が入っています」

「心臓の!?」

「あなた達はベクタークイーンと呼んでいたので、その呼称を採用してクイーンファイルと名付けました」

「いや名称はどうでもいいのですけど、それで結果はどうなったんですか?」

「それは今ここで伝える事はできませんねぇ、どこで誰が聞いているか」

「すみません」

「いえいえ、結果は領事館に戻ってから確認してください。それとワタクシも領事館へ用事があるので一緒に行きませんか?」

 

 それなら最初からそう言えば良いのではという言葉をグッとこらえ、ドクターは「いいですよ」とだけ答えて歩みを進めた。

 領事館に辿り着いたのはそれから約数十分後、クイーンファイルをドラゴニア国王に渡して会議室へ通される。ヒデは先に帰っていたらしく、既に会議室にいた。

 

「ドラゴニアの科学班が検証を行っている間にサマンタラン殿の用件を聞こうか」

「う〜〜ん、助かりますねぇ」

 

 ドラゴニア国王が席に着いて、対面にサマンタランが着地する。その左右にそれぞれドクターとヒデが座った。

 

「ワシらが聞いても大丈夫な内容なんかのう?」

「ボク達外で待ってましょうか?」

「いーえいえ、あなた達にも関係のある事なので是非聞いてもらいたい」

 

 それならと大人しく話の続きを待つ。

 

「手短にいきましょう、ワタクシはあなた達に依頼があってきました」

「依頼とは?」

「ワタクシと一緒にW.E.Sガリヴァーを探してもらいたいのです」

「「ガリヴァーを!?」」

 

 ドクターとヒデが同時に声を張り上げて身を乗り出した。そのまま二人がまくし立てる気配を感じたのか、直ぐに国王が手で制して二人を座り直させた。

 

「ガリヴァーを探すと言ってもおそらく撃沈しているだろう? それに二ヶ月も経過しては破片すら見つかるかどうか」

「でしょうね、ワタクシが欲しいのはガリヴァーの戦闘データです。あなた達の話ではガリヴァーが囮を始めてから数十分後にロストしたとの事ですが、それはつまり数十分間クイーンと戦闘したデータがあるというわけです」

「なるほど、それは一理ある。現状クイーンと戦って五分以上持ちこたえた戦艦は存在しないから、もし手に入ったのなら評議会も考えを改めるやもしれん」

「無論、前クルーによるクイーンとの戦闘データは大いに役立ちましたが、得られた情報は心臓の情報とクイーンが魔砲を使う事のみです。それ以外のデータは破損したかで消失しておりました。

 勿論見つからなくて当然の依頼です、連盟に依頼しても受理はされないでしょう」

「だから我々に依頼したわけか」

「艦はこちらで用意してあります、そちらで機関士と操縦士と医者を用意していただきたい」


 スっとドクターが手を挙げて発言の許可を求める。国王が頷いたので許可がでた。

 

「ここに医者がいます!」

「機関士もいるぞ!」

 

 ヒデが便乗してきたのは置いておいて。

 

「如何でしょうか国王? この依頼受けていただきますか?」

「いいだろう、操縦士はこちらで用意する。出発はいつだ?」

「早ければ早い程いいですねぇ、なんなら今からでも」

「なら明日の朝に、操縦士は直接ドックへ向かわせよう」 

 

 驚く程トントン拍子に話が進んでいく、一通り話がまとまったところでドラゴニア科学班から通信が入り、ドラゴニア国王が応える。

 国王が科学班との会話を終えるのを待つ、生憎会話の内容は聞こえないが、見ていると国王は話が進むに連れてどんどん顔色が悪くなっていく。やがて通話が終わり国王は重々しい足取りで元の席に戻った。

 

「サマンタラン、あのファイルの中身は本当なんだな」

「勿論、ワタクシ嘘はあまり言わない主義なので」

 

 あまりといった事はスルーする。

 

「ドクター、ヒデ。心して聞いて欲しい」

「は、はい」

「なんだ改まって」

「残念ながら、クイーンを殺すための薬は作れないそうだ」

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