第21話

「侑人、お前になら出来るはずだ!」

「……出来ないって言っても、退く気が全く無さそうだな」

「当たり前よ!」


 敦人からの力強い一言に、侑人としては圧倒されながら頷いていた。


 クラスマッチについて本格的な詳細が発表され、ニ年生男子はサッカーを行うことになった。

 クラスとして、男子がちょうど22人存在するため、AチームとBチームを作ることになる。


 そこで、球技経験者を中心とした敦人達が、早速メンバー分けを行っている。


「俺、そっちのチームに入って大丈夫か?」


 分け方としては、経験者や球技など運動神経が良い者中心のガチで勝ちに行くグループと、あまり運動をしたくないグループと分けている。


 敦人に引き込まれているということは、ガチチームの方に編入される予定ということになる。


 侑人としては、あまりやる気のないチームであっさり負けるよりは、敦人達と一緒に真剣勝負したいので、乗る気はある。

 しかし、足を引っ張ることにならないか不安を感じてしまう。


「お前の足の速さ、そして一年最後のクラスマッチでのストッパー能力は認めるしかない! というか、勝ちたいなら普通に欲しい」

「足の速さは分かるが、あの時のストッパー能力を言うのは止めろ……。普通にファール行為、たくさんしてしまったんだし」


 一年の後期末にもクラスマッチがあって、そこでバスケットボールをやったのだが、敦人はそのことを覚えているらしい。


 その時のクラスマッチでは、体育教師を中心とした教師チームが参加し、割と本気で勝負してきていた。

 体育教師の魅せプレイに、ちょっとだけイラッとした侑人は、割と強めのタックルでボールを取りに行って教師を何度も吹き飛ばすという、なかなかに挑戦的なプレイをした。


 その他、徹底したマークで格好を同学年の相手をひたすら苛つかせて、クオリティを下げさせるなど、敦人から見ればなかなかのものだったらしい。


「大人相手にだけだったし、別にいいんじゃね? 他の同学年やつらにはそういうことしてないじゃん」

「それでも目の前で舌打ちばっかりされて、めっちゃ心痛かったけどな」

「それだけ苛つかせることは、球技における才能の一つだぜ?」


 ただ、ドリブルやシュートセンスは壊滅的なので、敦人に褒められても、いいイメージは全く持てないのだが。


「ということで、お前は俺が推薦する!」

「あいよ」


 そう言うと、早速チーム分けで盛り上がっている球技バリバリのメンバーのところに行って、敦人は侑人を推薦し始めた。


「俺から一人推薦。侑人をDFとして、サイドバックで起用したい!」

「おー、小野寺か! 脚が速いんだっけ。敦人が押すってことは、それなりに期待していいのか?」

「もちろん! バスケのクラスマッチの時も、よく動けてたからな」

「おけ、なら左と右どっちで起用する?」


 敦人の推薦に、誰も異を唱えることなくすんなりと、侑人がガチチームに参入することが決定した。


 こういうところを見ても、敦人の運動能力の高さは誰からも一目置かれているのだなと感じる。


「侑人、利き足どっち?」

「左だな」

「マジか、素人には珍しいな。ということは、左サイドバックに配置するか?」

「それが最善かな。クラスマッチなのに、左利きの左サイドバックとか、ガチ構成感あるな……」


 専門的な知識はそこまでよく分からないが、期待値が相当上がっていることは伝わってくる。


 キックを空振りしたり、ファールやトラップミス、それにハンド。

 そもそも躓いて転んだりしないか、かなり不安になってきた。


「ぼちぼち体動かして慣らしておかなきゃ……」


 期末考査も終わり、しかも結愛と放課後の自習もしているのだから、現時点での学習の進捗状況にはかなりの余裕がある。

 帰宅してから多少なりとも走ったり、ボールを蹴って感覚を身につけておく必要がありそうだ。


「ちゃんとやるからには勝ちたいよな」

「そうだぞ、ここでやれるところを見せれば、夏休みまでに女の子と仲良くなれるぞ?」

「運動できるところ見せたぐらいで、そんなにすぐに靡く女の子っているか?」

「甘いなぁ……」


 敦人はチッチッと指を振りながら、侑人の疑問を否定してきた。

 なんだか無性にムカつくが、この人のおかげでクラスマッチが楽しくなりそうなので、ここは大人しく話を聞いてみることにした。


「なぜ、そんな計算が立つんですか」

「いいかね、侑人君。クラスマッチでは、クラスの女子だけでなく、対戦相手の他クラス女子も見ているアピールできる相手が多くなる」

「……なるほど?」

「それに、スケジュール次第では一年生や三年生などの他学年も見に来る場合もある。しかも、そこでは真剣勝負が行われている! そんなところで目立てば、人一倍カッコよく見えてしまう、ということだな」


 半分以上適当に聞いていたが、「クラスメイトの女子が応援に来る」と聞いて、侑人はドキッとしてしまった。


 侑人が試合をしているところを、結愛が応援に来る可能性があるということである。

 彼女だけなら来ない可能性もあるかもしれないが、柚希と一緒である以上は、必ず応援に来ると考えられる。


(かっこ悪いところ、見せられねぇぞ……)


 これまでのやり取りで、彼女は別に運動が出来る人に惹かれるという雰囲気は感じない。

 しかし、男として最低限は動けるところは見せないと、単純にダサいとなり、それはマイナスにしかならないわけであって。


「よし。敦人、頑張ろうぜ!」

「お、おう。気合入ってるな、いいぞ!」


 敦人が考えていることとは全く違うのだが、侑人が俄然やる気を出したことに満足そうに頷いた。



「クラスマッチ、男性陣はサッカーをされるのですね」

「女性陣は何をするのですか?」

「私達はバレーボールですね。あんまりやったことがないので、楽しもうと思います」


 そう話す彼女の表情からも、楽しみたいという笑顔が見れて、ほっこりする。


「柚希が言ってましたが、男性陣は勝ち行くチームと、そうではないチームに分けたと聞きました」

「そうですね。積極的にやりたい人もいれば、流したい人もいますからね」

「ちなみに、小野寺君はどちらに?」

「えっと、一応勝ちに行くほうです」

「おお、凄いじゃないですか!」


 珍しく、結愛がいつもよりも少し大きめの声出した。


「友人が自分の事を、高く買ってくれてるだけなんですけどね……」

「それだけのものがあるということだと思いますよ?」


 何故か結愛は、先程よりも嬉しそうに笑いながら、そんなことを口にした。


「その期待に応えられればいいのですがね……」

「小野寺君なら、絶対に出来ますよ。応援、必ず行きますから」

「応援してくれるのは嬉しいのですが、かっこ悪いところ見せないか不安ですね」


 現時点で、既に応援に行くと宣言されてしまい、思わず侑人は保険をかけるように、弱音をこぼしてしまった。


「大丈夫です。うまくいかなかったとしても、頑張ってる小野寺君、絶対に格好いいので。自信持ってください」


 彼女はそんな弱音を気にすることなく、瞬時に否定してきた。


「そうですね。出来ることはやってみます!」

「はい。楽しみがまた一つ増えました。でも、怪我だけはしないでくださいね」


 どこまでやれるか分からないが、侑人としては友人と、一番良いところを見せたい人に期待されているので、何とかいい形を残したいところだ。

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