第3話

「これでひとまずは、二人でやり取り出来そうだね。後は二人の気が合うかどうかってところだね!」

「お前と仲がいいから、気が合うと信じたいな」


 言葉ではそう言ったものの、こうして改めて話してみると、結愛は非常に穏やかな性格であると侑人は感じていた。

 よく知っている柚希と非常に仲がいいとはいえ、だから侑人とも波長が合うかと言えばそれは分からない。


 でなければ、「友達の友達」という非常に関わりにくい関係性を暗喩する言葉が生まれるはずなど無いのだから。


「そこは侑人が頑張るしかないんじゃない?」

「過去のお前の恥ずかしい話をネタにしようかな? そうすれば、真島さんでも聞きやすいだろうし」

「そんな話あるんですか!? 凄く気になりますね!」

「……この二人を会わせたの、間違ったかな?」


 柚希のお転婆エピソードをネタにするかは考えるとして、あまり個人的に突っ込んだ話をしないようにだけは意識しておかなければならない。


「さて、私の役割はここまで! 部活へと向かうことにしよう! せっかくこうして二人で居られるんだから、ちょっと話してから帰ると良いと思うよ!」

「お、おお……」

「ということで、結愛。今日はここでお別れだ。さらば!」

「あ、ちょっと柚希!」


 引き留めようとした結愛を気に留めることなく、柚希はとんでもない速さで屋上から姿を消した。

 結果として、ぽつんと侑人と結愛が残されるという形になった。


「やっぱりあいつは嵐のようなやつだな……」

「柚希の性格って前からあんな感じなのでしょうか?」

「そうですね。何をするにしても勢いがありすぎると言いますか……」


 減らず口の言い合いはするものの、それなりに肯定的に見て貰えるところは多く、学校生活の中でもフォローをしてもらった経験は何度もあった。

 ただ、勢いがありすぎて今回のように置いていかれることも珍しくない。


「変わらないんですね。でも、そこが柚希の良いところだったりしますけどね?」

「そうですね。いいやつなのは間違いないです」

「ですけど、まさかこんな機会をセッティングしてくれるとは思っていませんでしたけど」

「同じくです」

「……」

「……」


 話せばいいと柚希は簡単そうに言い残していったが、女子とそんなに話す機会もない上に、相手が相手なので容易な話ではない。

 柚希の話で一時的に間が持ったものの、すぐに沈黙の時間が流れる。


「柚希はああ言ってましたけど、本当に自分なんかで大丈夫でしょうか?」

「え?」


 常日頃から敦人に「男はそれなり自信を持ってなんぼ!」と言われているし、周りを見ても自分の事を肯定的に捉えて、積極的になる必要性は感じている。


 ただ、今回は状況が状況。

 それに侑人の中では、結愛に対して今回の件をそれなりにごり押ししてこの場に連れてきたのではないかとも思ってしまっている。

 先ほどの話から、恋愛に興味はあるが、関わり方に悩んでいるとのことだった。


 その話から、たまに暴走発進する柚希がこの案を思いついて有無を言わせぬ勢いで連れてきた、なんてことが考えられるからだ。


「実はですね、柚希と話していると定期的に小野寺君の話になるんですよ?」

「そうなんですか?」

「はい! 話を聞くたびに、良い人なんだろうなってことは伝わって来てて。こうして紹介してもらって、話せる機会が出来たことは、私にとってもうれしいですよ」

「あ、ありがとうございます……」


 結愛は柔らかい笑顔を浮かべて、侑人の抱いていた不安を否定してくれた。

 それはとてもありがたいことなのだが、こうして近い距離で彼女に笑顔を見たので、ドキッとして思わず顔を反らしてしまった。


 確かに、この笑顔を見れば落ちない男子なんていない。


「逆に、私の方こそよかったんですかね? やっぱり、男性の方々の中で気難しい存在だと思われていそうなものですし……」

「いやいや、そんなことはありませんよ! ただ、恋愛に興味が無いのかな?と言う話にはなってましたけどね」

 

 普段からの彼女の姿を見ると、気難しいなどと思う人は誰もいないだろうが、普段から注目されることもあって、周りからどう思われているかは結構気になっているようだ。

 お互いに抱いていた不安や思い込みが少しだけ払拭されたことで、少しだけ落ち着いて話をすることが出来た。


「そう言えば、柚希は部活に行きましたけど、真島さんは部活とか大丈夫ですか?」

「はい。私は料理同好会で、週に二回くらいの集まりなものですから。小野寺君は大丈夫ですか?」

「えっとですね、自分は帰宅部なものですので……」


 やってしまった。

 普通に話が続けられることに気を取られて、相手の放課後事情に気を遣ったつもりが、部活をしない怠惰な男ということを露呈させてしまった。


「そうだったんですね、意外かもしれないです。体育の時間とか、かなり活躍されているイメージがありますよ?」

「脚力は平均以上ありますけど、球技とかはうまい友達のフォローのおかげでうまく見えてるのかもしれませんね」


 敦人を始めとして、侑人の知り合いに球技バリバリのメンバーが多すぎて、そのメンバーに付いていこうとしたら、まぁまぁ見栄えのいい感じに見えているようだ。

 ただ、やはり男たるもの部活動をしっかりとしている精力的な姿が魅力的なのは間違いない。


 いきなりマイナスポイントになったとしか思えないが……。


「でも、小野寺君が無所属ということは、今後仲良くなれば放課後一緒に居られる時間には困らないってことですね?」

「そ、そうですね!」


 今更になって帰宅部と言う現状を、激しく後悔して萎えそうになってしまったが、結愛はまた笑顔でそう言って前向きに捉えてくれた。


 この数分間で色々とボロを出してしまったのだが、優しい彼女のフォローを受けてその後は落ち着いて色々な話をすることが出来た。


「高校に入ってから、初めて落ち着いて男性とゆっくりとお話したような気がします」

「自分もです。全く同じですね」

「でも、小野寺君は柚希と話すでしょう?」

「あいつは幼馴染なので、異性カウント対象外です」


 あのやり取りで異性との会話経験に加えるのは、侑人としては到底受け入れられないとしているため、きっぱりとノーカウントを宣言した。


「ふふふ、小野寺君って面白いですね」

「そ、そうですか?」

「何でしょうね。面白いんですけど、他の男性の面白いとはちょっと違う感じがします」

「それってまずいタイプじゃないですかね?」

「そんなことありませんよ?」


 男として「面白い」と言われるのは悪い事ではないが、やや異質気味に捉えられるのはちょっとまずいような気がする。

 そう感じた侑人が軽く突っ込むと、また結愛は楽しそうに笑う。

 どこがツボに入っているのかよく分からないが、楽しんでもらえているようだ。


「真島さんがそう言ってくれるなら、このスタンスのままでいいのかな……?」

「はい、大丈夫です。ぜひこれからも、こうして楽しくお話しをしていくことができればと思いますので、何卒よろしくお願いしますね?」

「こちらこそ。今日帰ったら、メッセージ送っても大丈夫ですか?」

「はい、待ってますね」


 こうして、幼馴染からの紹介によって二人のやり取りが始まった。

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