「彼女が欲しい」と聞きつけた幼馴染が、学年一の美少女を紹介してきた。
エパンテリアス
第1話
夏を思わせるような暑さになりつつある五月中旬過ぎ。
ただでさえ、GWという大型連休を過ぎて祝日の無い六月へと向かうこの一番億劫になりがちな時期なのに、高校生活も二年目に突入しているという慣れがよりその感情を加速させてしまう。
「……なぁ、彼女ってやっぱりいると楽しいか?」
「ん? そりゃあ楽しいよ」
昼休みの教室内で、気怠さに項垂れている小野寺侑人は、旨そうに購買で買ってきた料理パンにかじりつく友人の鮫島敦人にふとそんな質問を投げかけた。
「やっぱり楽しいのかぁ……。そりゃそうだよな」
「もしかして……! あれだけ恋愛に興味ないって言っていたお前も、遂に意識しだしたか!」
「まぁ、あれだけ周りで付き合っただの誰が好きだのって言う話が毎日聞こえてくるし、お前からの惚気話もなかなかな……」
敦人の食い入る様に言われたその一言に、侑人はちょっとだけ恥かしさを感じつつも頷いた。
高校生活も一年生の夏休み明けぐらいから、恋愛に関する話がすごい勢いで増えてきた。
そんな中、侑人は自分一人の時間もそれなりに好きだったことに加えて、敦人を始めとする同性の友達と遊んだりすることで満足していた。
そのため、恋愛と言うものに無関心で居続けたのだが、周りの話を聞くごとに少しずつ彼女という存在にあこがれを抱くようになってきていた。
更にダメ押しで、いつも絡んでいるこの敦人にも彼女が出来たことで、普段から惚気話を聞かされるようになって、本格的に彼女が居ることが羨ましくなってしまった。
「ちなみに、気になる女子とか居んの?」
「んー、大体いいなって思う子ってもうすでに彼氏が居るんだよな……」
「ま、可愛い子はすぐに男の方から寄っていくからな。それに、部活関連で三年生と付き合ってる子もちらほらいるしなー」
「うぐっ……」
「逆に、お前も部活していれば一年生の女子と知り合えるきっかけとかあったかもしれないのにな」
「部活」と言う単語を出されると、何も言えない。
中学時代に剣道部所属していて、それなりの結果を最後の総体で出していた。
その結果もあってか、高校の剣道部顧問からの勧誘の勢いが怖すぎて逃げ出したという経緯があった。
それ以外の運動部に関しては、経験者と張り合えるとも思えなかったので選択肢に入らず、音楽や美術などの文化部の能力も無し。
結果、無所属と言う形に落ち着いた。
「お前も知っている付き合ってない女子ってなると、有名どころなら真島とかか?」
「真島結愛のことか……。非現実的過ぎるな」
「まぁいろんな男子が突撃して、惨敗報告しかないからな。そもそも浮いた話一つも聞かない」
敦人の口から出た女子の名前を、侑人自身も知っていた。
同じクラスメイトで、二年生の中で一番美人ではないかと言われている女子。
スタイルも良くて勉学の成績も相当優秀だという噂は耳にしている。
当然、男子から相当モテる存在なのだが、敦人の言う通り浮いた話一つ聞いたことが無い。
更にすごいのは、女子同士だと男子からの評判が良い女子は妬まれる傾向があるのだが、彼女の性格は極めて穏やかで誰に対しても丁寧なこともあって、女子からの評判でも悪口一つ聞いたことが無い。
まさに完璧すぎる存在で、侑人からすれば関わることなどあり得ないまさに高嶺の花というにふさわしい人物である。
「ま、お前が頑張ってアピールするって言うなら、俺は応援するぜ? フラれた時に効果的な慰め方勉強しておくからよ」
「それって応援じゃないだろ……。それならフリーでいるいい子教えてくれ」
「いきなりそんなこと言われてもな……。俺の知ってる女子って、大体彼氏いるぞ」
「だよなぁ……」
敦人からさらっと厳しい現実を告げられて、あっさりと撃沈した。
今まで、色恋沙汰に無関心でいたことが、周りよりも何歩も後れを取ってしまうことになるとは。
「やべっ、この時間にバスケ部で集まることになってたんだった! ちょっと行って来るわ!」
「おう、いてら」
敦人はバスケ部に所属しており、おそらく間近に迫った高校総体に向けて日々慌ただしくしている。
敦人が教室を飛び出していき、昼休みの喧騒に包まれた教室の中で、一人になってしまった侑人は机に突っ伏した。
「あー、彼女が欲しい……」
「へぇ。遂に侑人も彼女が欲しくなったのかー?」
「おわっ!?」
全く予想していなかった声が耳に入ってきて、侑人は思わず飛び上がってしまった。
顔を上げると、侑人にとって見慣れた女子が目の前に立っている。
「柚希かよ……。びっくりしたわ」
「私で悪かったな!」
声をかけてきたのは、侑人にとって幼稚園の頃からの幼馴染である宮西柚希であった。
気が強い性格ではあるものの、侑人から見てもかなり美人でこれまた男子人気が高い。
「さっきのキモ過ぎる独り言、聞いてしまったぞ」
「……別にいいだろ。皆の話聞いてたら、ちょっと羨ましくなったんだよ」
「あれだけ興味ないって言ってた癖に、変わるもんだねぇ」
「ちくしょう……。お前には関係ない話だろ」
改まって羨ましくなった旨を話すと、柚希が面白そうにニヤついている。
美人ではあるが、幼馴染と言う一切遠慮の無い関係性ということもあって、こんな煽り合いをするので、侑人自身は柚希を異性として意識したことは一度もない。
最近、こんな幼馴染にも結構イケメンな彼氏が出来たということで、憎たらしい上に楽しそうでそれもまた羨ましいのだが。
「彼女に憧れるって言っても、好きな人とか今いるの?」
「いや、今のところはいないかな。いいなって思ったら、大体その子には既に彼女がいるって言うのが、いつもの流れ」
「なるほどねぇ……」
侑人の話を聞いて、柚希は顎に手を当てて何やら考えるそぶりを見せた。
そして、柚希はこんなことを口にした。
「私の紹介でいいなら、女の子紹介してあげようか?」
「は?」
「は?」
予想だにしない柚希からの提案に、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
しかし、柚希はその反応を見て噛みつかれたと感じてしまったのか、ドスの利いた声で圧をかけてきた。
「ど、どういう風の吹き回しよ?」
「んー。同じようにちょっと恋愛に興味あるかなって子がいるから、真面目な性格であることが分かってる侑人になら、紹介しても大丈夫かなって。嫌なら別にいいけどさ」
「……マジで言ってくれてるのか?」
「いや、こんなこと冗談で言ってどうするの? 冷やかす内容にしては性格が悪すぎるでしょうよ」
「お願いします! 持つべきは優良な幼馴染だな!」
冗談かと思ったが、幼馴染は本気でそう考えてくれていたようで、侑人はその厚意に甘えてみることにした。
「よし。そうと決まれば、早速会う機会をセッティングするかぁ。今日の放課後、どうよ?」
「今日いきなり? 俺は帰宅部だから、別に問題ないけど」
「ん、なら今日にしよう。多分その子も行けるだろうし。放課後になり次第、屋上にかもーん」
それだけ言い残すと、幼馴染は侑人の元から去って行った。
「相変わらず嵐のような奴だな……」
あんな気の強い幼馴染が連れてくる女子。
侑人は軽く想像してみたが、柚希と同じような性格の子が来る可能性が高いと思われる。
幼馴染だからこそ関われているが、全く知らないところから仲良くなれるだろうか?
放課後になると、部活に向かう生徒たちに紛れて屋上へと向かった。
侑人が先に到着したようで、誰もいない屋上で柚希が到着するのを待った。
「お、いたいた!」
数分ほど待っていると、屋上と会談を繋ぐドアが開いて柚希が一人の女子を連れて侑人の元にやってきた。
「ちょ、ちょっと待て柚希……」
「ん?」
侑人は、柚希の連れて来た女子の姿を見て、言葉を失ってしまった。
「紹介したい人物って真島さん……なの?」
「うん、そうだけど?」
「こ、こんにちは……」
柚希に手を取られて連れてこられた人物は、難攻不落と言われている高嶺の花だった。
絶句する侑人と裏腹に、柚希は特に何も気にすることもなくさらっと頷いた。
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