男って悲しい生き物
昼休み学食で同じ学科の石橋君を見つけると、蒼は近づいて行った。
「石橋君、統計学のレポート終わった?どうしてもわからないところがあるから、教えてほしいんだけど。」
蒼は石橋君の隣の席に座ると、上目遣いにお願いしてみた。このためにワインレッドのミニスカートを履いてきている。タイツも履いているとはいえ、ミニスカートは少し恥ずかしいが、目的のためには手段は選んではいられない。
「いいよ。どこがわからないの?」
石橋君は早速鞄からレポートを取り出し始めた。作戦成功のようだ。
「ベイズ統計って難しいね。」
蒼は石橋君との距離を縮め、肩が触れ合うぐらいのところに座っている。
「そうだね。普通の統計と違って、結果と原因の関係が逆だからね。」
レポートを写しながら、石橋君に解説してもらう。おかげで悩んでいたレポート課題の演習問題を解決することができた。
「石橋君、ありがとう。」
蒼は石橋君の手を握ってお礼を言った。石橋君の顔が、ポッと赤くなる。
「石橋君、甘いの大丈夫?昨日、クッキー焼いたんだ。食べる?」
石橋君が頷いたのみて、蒼は鞄からギンガムチェックの袋に詰めたクッキーを石橋君にあげた。
「石橋君、ありがとうね。」
「また分からないところがあったら、きてね。」
蒼は手を振って石橋君のもとを離れた。
学科一優秀だと言われる石橋君に、レポートを見せてもらう企みは成功した。園ちゃんの真似をしてみると、拍子抜けするぐらい簡単だった。
男子受けしそうな服を選び、混ぜて焼くだけのクッキーを焼くだけで、難題だったレポートを解決することができた。
「どうだった?レポート見せてもらえた?」
「うん、二つ返事でOKだったよ。」
「石橋、俺たちが見せてって頼んでも、『自分で考えろ』って言って見せてくれないのに、ズルいな。」
石橋君からレポート見せてもらえたら、牧田と三嶋にも見せる約束をしていた。その見返りとして、明日の昼は奢ってもらうことになっている。レポートもできて、お昼ご飯も食べられて、蒼にとってみれば良いことづくめだ。
その恩恵にあずかっておいて言うのもなんだが、女の子ってお得だし、男って単純で悲しい生き物なんだなと思ってしまう。
その週の土曜日、蒼は朝起きると念入りに髭を剃った後、クローゼットを開け今日着ていく服を真剣に選び始めた。
男受けを考えるなら、ピンクは外せない。それをトップスにもってくるか、スカートに持ってくるかで悩み、スカートもシフォンがいいのか、プリーツがいいのかで悩んでしまう。悩みながらも、組み合わせを考えるのは楽しい。
結局ピンクのトップスに、白のシフォンスカートの組み合わせにした。
「じゃ、お母さん、行ってくるね。」
蒼は母に声をかけて家を出た。今日は久しぶり離婚した父親と会うことになっている。
待ち合わせのコーヒーショップでカフェラテを飲んでいると、父が店内に入ってくるのが見え、蒼は手を小さく振った。
「お父さん、久しぶり。」
父親とは大学入学直後にお祝いにと食事に行ったきり会っておらず、会うのは半年ぶりだ。
「久しぶり。蒼、どこから見ても女の子になったな。」
久しぶりに会う父親は、離婚した妻の息子に会えて嬉しいというより、女子大生と会えて嬉しい表情となっている。
「蒼から誘うのって珍しいな。何かあったか?」
「いや、最近会っていないから、久しぶり会いたいなと思っただけだよ。お腹すいたからご飯食べよ。」
本当は目的があったが、それを知られるわけにはいかないので適当にごまかした。お昼ご飯を食べるためにコーヒーショップを出て、歩き始めて父親の腕に蒼は腕を絡ませた。
父の顔をみると、鼻の下が伸びてまんざらでもない表情をしている。
父に「何が食べたい。」と聞かれ、「お肉がいいな。」と答えると、「じゃ、ステーキにしよう。」と父が言い、父が知っているお店があるという駅ビルに入った。
お店に向かう途中、お店に飾ってあった大判ストールが目に留まった。
「お父さん、ちょっといい?」
以前から大判のストールが気になっていた。膝掛けとしても使え温度調節に使いやすいし、ファッションとしても大人っぽい雰囲気が出そうで、この秋冬に欲しいなと思っていた。
手に取ってみるとカシミアの優しく温かい手触りが心地よかった。それと同時に値札をみると、衝動買いできる値段ではなかった。
やっぱり、買うのはやめておこうとおもい、棚に戻そうとしたとき父が声をかけてきた。
「気に入ったのなら、買ってあげるよ。少し早いけど、クリスマスプレゼントだな。」
父はそういうと、ストールをもってレジの方へと向かっていった。
「お父さん、ありがとう。」
買ってもらったストールが入った紙袋を受けてとると、蒼は父の腕に抱き着いた。父も嬉しそうな表情をしている。
父の前で欲しそうにしていれば買ってもらえるかなと半分期待していたが、思った通りになった。男女平等とは言われているが、甘えることができるのは女性の特権だ。男が甘えても気持ち悪いだけだが、女の子が甘えるとむしろかわいい。
手に入れた能力を悪用している気もするが、もっている能力を使わないのももったいない。
男子でも女子でもない中途半端な自分に悩んだこともあったが、今は逆に両方のいいところどりと思えるようになってきた。
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