春が来たら

父との再会

 今年もあと2日となった12月30日、蒼は勉強の休憩にリビングに来た時、年末年始休みになり家にいた母から声をかけられた。

「蒼、ちょっと話があるけどいいかな?」

母はあまり嬉しそうではない表情で話し始めた。

「昨日、お父さんから連絡があって、蒼に会いたいんだって。養育費代わりにこのマンションのローン払ってもらっているから、面会する権利はあるんだけど、蒼が嫌なら断ってもいいよ。どうする?」

「前にあったのが中2のころだったから、3年ぶりだね。会うのは別に構わないけど、この格好で行ったらびっくりするかな?」

 ニットとジャンパースカートの部屋着を着ている蒼は答えた。浮気して出て行った父を母は嫌っているが、蒼にとっては唯一の父であり嫌いではなく、蒼としては会いたいというほどは思わないが、久しぶりに会うのもいいかなと思った。

「まあ、それも面白いかもね。じゃ、連絡しておくね。冬休みだったらいつでもいい?」

「いいよ。」


 そのあと母が父に連絡した後、「急にきまって悪いけど」と言われ、明日の31日大みそかに父と会うことになった。母としてはあまり気乗りしない話なので、年を越したくなかったようだ。


 父とは市の中心部にある駅前で待ち合わせとなった。蒼の今日のコーデは、白ののプリーツスカートにピンクのトップスに黒のカーディガンを合わせてみた。髪も編み込みでセットして、メイクもする。せっかくなので、思いっきり女の子らしいファッションで行って、父を驚かせてみようと思った。


 蒼は約束の少し前に待ち合わせ場所についた。大みそかの駅は混雑しており人通りが多い。待ち合わせの時間になると、混雑している人ごみの中に父の姿を発見した。案の定蒼に気づくことなく探し続ける父の様子をしばらく観察した後、久しぶりの再会にあんまり意地悪するのも悪いので、蒼から声をかける。

「お父さん、ひさしぶり。」

「その声は蒼?なんでそんな格好してるの?3年間会わない間に、変わりすぎてわからなかった。」

 驚く父に蒼は女の子になったいきさつを説明した。


「そうか、男は男らしくっていう時代でもないからな。でも、女の子の格好していて彼女がいるとは、ちょっと会わないだけで変わりすぎで、頭が追いつかないな。久しぶりに焼肉でもと思っていたが、違うのがいいかな?」

「そうだね、焼肉だと服に臭いがつくからね。そこのファミレスにしよう。」

 駅ビルにあるファミレスに父と一緒に入り、ハンバーグセットを注文する。食事をしながら久しぶりに父と会話する。

「久しぶりだね。急に会いたいって何かあったの?それに大みそかだけど、そっちの家族は大丈夫なの?」

蒼が尋ねると、

「とくに理由はないけど、蒼が中3になったときは受験だからって遠慮していたら、単身赴任が決まってちょっと遠くまで行っていたから、しばらく会いにこれなかった。ようやく単身赴任が終わって、戻ってきたから蒼と会おうかなと思って、お母さんにお願いしてみた。うちの家族は嫁の実家に帰省中。俺もこのあと、そっちに行くことになっている。」

「今度は上手くやっているみたいだね。」

「2回同じ失敗はしないよ。蒼も彼女もいるみたいだから、浮気は駄目だぞ。」

父は照れくさそうに笑いながら言った。


「お父さん、デザートも頼んでいい?」 

蒼はハンバーグを食べ終わった後、父におねだりしてみた。注文したチョコレートパフェを食べている蒼をみて父が、

「蒼、そういう格好するとお母さんの若いころにそっくりだな。」

「よくお母さんに似てるって言われるよ。」

「離婚の理由は母さんから聞いたか?母さん女の子が欲しかったから、蒼が女の子になって喜んでいるんじゃないか。」

「お母さんは、一緒に買い物できるようになって楽しいみたい。お父さんの再婚相手の子供は、男の子?」

「二人とも男の子だな。うちの子もスカート履きたいって言いだすかな?」

父は笑いながら言った。


 食事を終え駅ビルの中をあるいていると、ウィンドのマネキンが着ている、黒のキャミソールワンピースが目に留まる。こんな感じでキャミソールワンピースと手持ちのトップスを組み合わせるのもかわいいなと思い、これは高いからネットで似た感じの安いのを探そうと思っていると、父が声をかけてきた。

「蒼、欲しいなら買うから、試着してみるか?」

「お父さん、これ1万円近くするよ。」

「別にいいよ。久しぶりの再会記念に買うから、店に入ろう。」


 店に入り試着してみると、思った通りかわいい感じだった。父に見せると、

「似合ってるよ。蒼も気にいったか?」

蒼がうなずくと、父は店員に買いますと言って会計を始めた。

「お父さん、ありがとう。」

 蒼は父にお礼を言うと、父は満足そうな笑顔だった。多分お母さんともこんな感じでデートしていたんだなと蒼は思った。買ってもらったお礼も含めて、父の腕を組んで歩いてみた。父はまんざらでもない表情だった。


 服を買った後駅の改札に向かっていると、お手洗いに行きたくなりトイレのある場所に向かっている途中、多目的トイレに車いすの方が入っていくのが見えた。蒼は待たせてある、父のもとにも戻りお願いをした。

「蒼、大丈夫だよ。誰もいない。」

父からそういわれ、蒼は慌てて男子トイレの個室に飛び込む。数分後、トイレのドアが3回ノックされたのを聞いて、ドアを開けすばやく手を洗ってトイレから出る。

「お父さん、ありがとう。」

「蒼もいろいろ大変だな。男なのに女の子で生きるのも大変だな。」

 男子トイレにスカートのまま入ると周りから変な注目を浴びるので、できれば避けたかったが、多目的トイレを先に使われているので使わざるを得なかった。父にお願いして、誰もいないタイミングでトイレに入ることにした。


 父とは改札でわかれた。父は別れ際に「俺も娘ができたみたいで楽しかった。また会おう。あと、浮気はするなよ。」といっていたので、父娘の疑似体験ができて楽しかったみたいだ。


 帰宅後、母からどうだったかと聞かれたので、「一緒にご飯食べて、服買ってもらって、お礼に腕組んで歩いたら嬉しそうにしてたよ。」と答えたら、

「やってることは、パパ活ね。」

といいながら、母は笑っていた。

「パパ活って、本当にパパだよ。」

蒼もそう答えて、一緒に笑った。


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