第39話 【首無しラバ】ムラ・セン・カベッサ(A Mula sem Cabeça)

 ムラ・セン・カベッサはマット・グロッソ州 (Mato Grosso) 、ゴイアス州、そしてミナス・ジェライス州に現れた妖怪である。その名前は「頭なしラバ」と訳すことができる。その呼び名のとおり、首から上がないラバである。


 その体毛は黒く、尾の先端とひづめは燃えており、ムラ・セン・カベッサが通った道には、炎の足跡が残るといわれている。不思議なことに、頭がないにも関わらず、くつわ手綱たづなが付いている。そして、鼻と思われるあたりから火をくという。あるいは、口と思われるところから血の泡を吹くと言う者もいる。もしかしたら透明とうめいな頭をしているということだろうか?


 この妖怪は、なぜか決まって木曜日の夜から金曜日の朝までに現れるといい、高くいななくこともあれば、まるで人間がすすり泣くような声を出すこともあるという。


 この妖怪の正体は、神父と関係を結んだ女性であるそうだ。女性はカトリックの神父と交わると、ムラ・セン・カベッサになる呪いにかかるのだ。この呪いは、誰かがラバのくつわを取り外せば解かれるのだという。しかしながら、このムラ・セン・カベッサは、強力な歯で人をみ、後ろ足から強いりをり出して無差別に人を襲う。そのため、くつわを取り外すことは容易ではない。


 図らずもムラ・セン・カベッサに遭遇そうぐうした場合、うつせになり、手を握り締めると襲われずに済むという。というのも、この妖怪は、人間の目、歯、そして爪が好物なのだそうで、それらを隠すとよいのだという。日本では霊柩車れいきゅうしゃが通ったときのおまじないとして親指を隠すが、なんとなく似た話である。


 さて、神父とちぎった女性がムラ・セン・カベッサとなる一方、修道女しゅうどうじょと関係を持ってしまった男性は、カヴァロ・セン・カベッサ (Um Cavalo sem Cabeça) にさせられるという。こちらは「頭なし馬」という意味の名前である。馬とラバの違いはあるが、それ以外に差はないという。

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