第21話 【森のこびと】クルピラ(O Curupira)

 この妖怪の話は、1550年頃にはインディオから入植者にゅうしょくしゃに伝わった。当時の白人は、ブラジルという名の木(ブラジルという国名はこの木の名から名づけられた)を伐採ばっさいするため、また金、銀、エメラルドなどを採掘さいくつするために、山に入って行った。インディオは大事な森や自然を白人達から守ろうとしたが、侵略者しんりゃくしゃ達の武器には歯が立たなかった。そこでインディオは森にひそむ恐ろしい妖怪の話を白人に広め、白人が森へ侵入することを躊躇ちゅうちょさせたといわれている。


 1560年にアンシエタというイエズス会の神父は「ここには恐ろしい悪魔のような怪人がおり、インディオ達の話によると、その名をクルピラという者で、大抵は森林の中で人を襲ってくる。クルピラは、むちを振りながら大きいイノシシに乗って現れる。人を殺さぬが、かなり大ケガをさせる。人を襲うときは人の声を真似て、遠くから大声で侵入者しんにゅうしゃの名前を呼ぶ。大抵の者はそれで動けなくなる……」とポルトガル王に宛てた手紙で伝えている。


 さて、このクルピラは一見すると少年のような姿をしている。背はそれほど高くなく、赤毛で体毛が濃く、眼は大きい。歯は青、又は緑色をしていて、耳はキュンと尖がっている。大抵は大きな木の上だとか、大きな木のウロなどをねぐらにしている。


 また、この妖怪の足には特徴があり、つま先とかかとが逆に付いている。つまり体の正面しょうめんかかとがあり、体の背面はいめんにつま先があるということになる。これだと足跡は普通と反対の方向を向く。そのため、この足跡を追いかけてもクルピラの進行方向とは逆に進むことになり、この妖怪にたどり着けない。


 追跡者ついせきしゃを出し抜くクルピラの能力は、ほかにもある。彼はとても足が速く、簡単に追いつくことができない。時には魔法を使って、道にツル植物を生やし、それで追跡者ついせきしゃの足をからめて転ばせるともいわれている。


 インディオにとってクルピラとは、森林に住む動物の守り神である。そのため、インディオは山に入る前に、果物、鳥の羽、弓矢、お酒、タバコなどをクルピラに供える。クルピラが一番好きな果物はマンゴーで、マンゴーを与えると、木のかげでお酒飲み、マンゴーを食べながら楽しんでいるクルピラの姿を見ることができるそうだ。クルピラは、人間の小さな子供を誘拐し、7年間、人間と自然の関係の大事さを子どもに教えた後に、子どもを親へ返すこともある。


 もしも、クルピラによって道に迷わされたら、石か木の陰に静かに座り、しばらく待つとよい。すると、森を抜ける道が分かるようになるという。それでも道が見つからなければ、草やつるからめてボールのように丸め、「おおい、クルピラよ!このボールを解いてみせろ」と大声で言うと、クルピラがやってきて、面白そうに絡まった草を解き始めるのだという。その隙に立ち去ると、失った道を見つけることができるという話が伝わっている。

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