第19話 囚われたエルフ二人

「何だか分からぬが、ここから先は何者であろうと通すな!」


 甲冑と剣で武装した衛兵共が、俺を殺そうと向かってくる。


 この向こうにクラリスたちがいるんだ、こんなところで止められてたまるかあ!


「クガアアアアアア!!」


 向かってくる衛兵共に、俺は臆することなく立ち向かう。


 投擲石礫スリングストーン


 だけど俺の放った石礫は衛兵の甲冑に傷ひとつつけられないようで。


 なら接近戦に持ち込むまでだ! 破砕咬牙クラッシュバイト


 白く閃光を放つ俺の牙は、一人の衛兵の腕を簡単に噛みちぎる。


「うああああああ!!」

「殺せ、殺せええええええ!!」


 これを皮切りに衛兵共が束になってかかってきた。


 こんな奴らと遊んでる暇なんてないのに!

 くそっ、しゃらくせええええ!!


「クガアアアアアア!!」


 咆哮をあげた俺は、向かい来る衛兵共を相手することに。


 正面からのは強靭なあごで噛みちぎり、後ろからのは打撃竜尾ストライクテールではね飛ばす。


【レベルが17に上がりました】


 いつものレベルアップのアナウンスにも耳を傾ける暇もなく、俺は衛兵共を次々と倒していく。


【レベルが18に上がりました】


 だけど多勢に無勢か、俺はだんだんと体力を消耗していった。


 はあ、はあ……どんだけいるんだこいつら……!


【レベルが19に上がりました】


 次々と現れる衛兵共に辟易としながら立ち向かっていた時だった、ついに背中から斬りつけられてしまう。


「クガッ!?」


 俺の背筋に走る耐え難い激痛。


「手間取らせやがって。だがこれで終わりだ」


 衛兵の一人が剣を振りかざしたけど、まだ終わってたまるか!


「クガアアアアアア!!」


「なにっ!?」


 力を振り絞って飛び上がった俺は、衛兵の頭を兜ごと噛み潰した。


「クギュルルルル……!」


「殺せええええええ!!」


 その後も衛兵共を倒していたら、ついにこんなアナウンスが。


【レベルが20に上がりました。条件を満たしたことにより、進化を開始します】


 その瞬間、俺の身体がまばゆく光り始める。


「な、何だ!?」


 そして光が収まると、俺の目下にはさっきよりもずっと小さく見える衛兵共の姿が。


 一体どうしたんだ……?


 足元に目をやると、首に巻いてたスカーフと身にまとっていた防具が落ちている。


 防具が足よりも小さい、まさか俺が大きくなったのか……!?


【進化成功、種族名をリトルレックスからタイラントレックスに更新。進化によりスキル咆哮衝波ローリングを獲得しました】


個体名:ダイナ

種族:タイラントレックス

レベル:20

体力:1570/1570

筋力:810

耐久:658

知力:450

抵抗:534

瞬発:300

スキル:

New【咆哮衝波ローリング】→轟く咆哮で周囲に魔法小ダメージを与える


 これが進化って奴なのか、身体に力がみなぎるぜ!


 ぶっつけ本番だが、新しく覚えたスキルも使ってみよう。


 咆哮衝波ローリング


「グギャオオオオオオオ!!」


 念じた途端、俺の口から放たれた咆哮が衛兵共をまとめて弾き飛ばした。


「グルルルル……」


 おお、これはかなりの威力だ。


 すると俺の生命感知ライフセンサーが、建物のある一室に三つの反応があることを知らせる。


 あそこにクラリスたちが!


 投擲石礫スリングストーン


 俺が念じるなり放たれた大岩が外壁に大穴を開けて、そこから見えたのは衝撃的な光景だった。



「ん、んん……っ」


 気がつくとクラリスは煌々と光が灯されたシャンデリアがいくつも吊り下がる大きな部屋のベッドに寝かされていた。


「ここは……? ……ん、動けない!」


 起き上がろうとしてもベッドに手足が縛られてるようで、少しも動けない。


「一体どうなってるの!? ――そうだ、アンナちゃんとダイナは!?」

「私ならここだ」


 クラリスが声のした隣に顔を向けると、同じように手足を縛られたアンナの姿があった。


「どうやら私たちはあの商人に騙されたようだ。私としたことが、迂闊だった……!」


 悔しげに唇を噛みしめるアンナに、クラリスは声をあげる。


「そんな……違うよ! 悪いのはわたしだよ、だってあの依頼を受けようだなんて言ったのはわたしなんだもん!」

「クラリス……違う、お前に非はない。油断してた私が悪いんだ――」


 するとそこへ入り口から葉巻を吹かし貴族風な服装をした恰幅のいい中年男が黒ずくめの者を連れて入ってきた。


「ほほう、話には聞いてたがかなりの上物じゃないか。よくやった」

「ははっ、嬉しきお言葉」


 報酬とおぼしき布袋を手渡された黒づくめの者が踵を返したところで、恰幅のいい貴族風の中年男がクラリスたちを縛りつけているベッドに歩み寄る。


「でへへへ、二人ともいい身体をしている。今夜のお楽しみにピッタリだ」


 下卑た笑い声をあげてクラリスに手を伸ばそうとする男に、アンナが一喝をいれた。


「やめろ! クラリスに触れるな!!」

「おや、私を誰だと思ってるのかね? 私はゲバコン伯爵ぞ」


 伯爵を名乗り眉を潜めるゲバコンに、アンナは反抗の態度を示す。


「こんな拘束……! ――何故だ、力が出ない……!」

「無駄だよ。魔力の扱いに長けた君たちエルフを無力化するために呪いの首輪をつけてある。今の君たちは単なる生娘に過ぎないのだ」

「くそ……っ!」

「そんな……!」


 自分達の置かれた事実を知って絶句するアンナとクラリス。


「さてと、早速味わおうか」


「い、イヤ……!」


 ジュルりと舌なめずりをしたゲバコンがクラリスの豊満な胸に手を伸ばそうとした時、アンナがもがきながら声を張り上げた。


「やめろ! クラリスには手を出すな! やるなら私にしろ!」

「アンナちゃん、ダメだよお!」


「でゅふふふ、分かってないなそこの娘よ。私の本命はこちらの可愛らしい娘だ、お前はおまけにすぎん」


 そう告げるなり、ゲバコンがクラリスの胸部を覆う服を下着ごとずり下げる。


「いっ!?」

「クラリス!」

「ほお、これはなんと美しい……。さわり心地もさぞ……」

「イヤあああああ!」


 露わにされた豊満な胸を揉みしだかれて、クラリスはこみ上げる虫酸と恐怖に苛まれた。


「やめろ、やめろおおおお!!」

「うるさい娘だ。そんなに私に犯されたいのか? 慌てなくてもこれが終われば君の番だ」

「この下衆が……!」


 クラリスの胸を揉むのに夢中なゲバコンを、アンナはギリリと歯を噛みしめる。


「イヤ、やめて……!」


 一方クラリスは自分の胸を揉みしだかれて、虚ろになった緑色の目に涙を浮かべていた。


「そろそろ頃合いかな」


 そう言うなりゲバコンがズボンを下ろした途端、クラリスの目にそそり立つイチモツが写り込む。


「いいっ!?」

「さあ、君の純潔を頂こうかあ」

「イヤ、イヤああああああ!!」

「貴様あああああ!!」


 アンナの咆哮をよそに無理やりクラリスの股をこじ開けようとするゲバコンだが、外の喧騒に怪訝な顔をした。


「騒がしいな。――のわあ!?」


 それもつかの間、外に面する部屋の壁が轟音と共にぶち抜かれる


「何事だ!? ――何だあれは……!」


 大きな穴が開けられた先には、眼光を光らせて唸り声をあげる巨大なティラノサウルスの姿があった。

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