第10話 洞窟の中スライムの中あの娘のスカートの中

 まさか今生の生まれ故郷にこんな早く帰ってくることになるなんて。


「おーい、どうしたのダイナ~?」

「クカッ!?」


 クラリスに目の前で手を振られて我に返った俺に、アンナがこんなことを。


「もしかしたらダイナもこの場所に何か思うところがあるのかもな」

「そっかー」


 やっぱりアンナは鋭いな。もしかしたら俺の内面もそのうち見透かされるかもしれない。


「それじゃあ行っくよ~!」

「こら待てクラリス、ピクニックに来たんじゃないんだぞ!?」


 ルンルン気分で洞窟に立ち入るクラリスを、アンナが慌てて追いかける。


 おっと、俺もついていかねーと。


「わ~、ホタルの光がきれいだねー!」

「これだけ明るければ松明もいらなそうだな」


 意外な洞窟内の明るさに、クラリスとアンナはお互いに感想を交わしている。


 ――俺、今気づいたことがあります。


 今の俺とクラリスたち二人の体格差だと、俺の頭が彼女たちの膝の下に来るんだよね。


 それはつまり、ちょっと見上げるだけでクラリスたちのスカートの中が覗き放題ということだ!


「ねえねえアンナちゃん、スライムってどんな魔物なんだろうね~?」

「たいして強くないとは聞いているが、油断はしないようにせねばな」


 そうやって話している間にもクラリスたち二人のパンツに包まれた尻がフリフリ振れていて、俺も眼福だぜ。


 まあ下着自体は昨日も見たけど、大事なのはそこじゃない。


 スカートの中、これが重要なんだよ!


 深夜アニメでも今やただの下着姿よりもスカート穿いてのパンチラの方が規制が厳しくてなかなかお目にかかれなかったんだ。


 そう、俺は今となってはレアなシーンを合法的に覗き見ることができるのだ!!


「あれ、どうしたのダイナ? なんか息が荒いよー?」

「クケッ!?」


 かがみこむクラリスにポンと手を頭に置かれて、俺は思わず首をブンブンと横に振る。


 ここまで純粋無垢な乙女が相手だと、今までエロ思考回路全開だったことに罪悪感がわくぜ……。


 ふと俺たちの前に二つにわかれた洞窟の道が現れる。


「分かれ道か」

「アンナちゃん、どっちだと思う~?」

「うーむ、私の勘だと右だな」

「じゃあ左だね」


 即答でアンナが示した方とはわざわざ逆の方に進むクラリスに、俺は思わずずっこけそうになった。


 どういう理屈だよ!?


 そんな彼女の肩をアンナががっしりと掴んで抗議する。


「待てクラリス! 人に聞いておいてどういうつもりだあ!?」

「だってアンナちゃんってすごい方向音痴なんだもん、それなら逆の方に進むのが正しいかな~って」

「ぐぬぬ……!」


 あっけらかんと言ってのけるクラリスに、アンナはぐうの音が出ない。


 確かにここまで来る間にもアンナの奴、何度も道を間違えかけたからな……。


 そんなことを回想しながら左の道を進むと、早速嗅いだことのある匂いを察知する。


「クカカッ!」

「ん、どうしたのダイナ?」

「待てクラリス、何かの気配がするぞ」


 アンナが腰の剣に手を掛けた時だった、洞窟の壁を伝うようにスライムたちが下りてきたのだ。


「これがスライムなんだ!」


 ぶにゅぶにゅとしたスライムになぜか興味津々なクラリス。


「初めての相手だ、何をしてくるか分からないから気を付けろクラリス」

「うん!」


 アンナの注意喚起でクラリスもボストンバッグから杖を取り出して戦闘態勢に。


「はあっ!」


 早速アンナがスライムの一匹に斬りかかる、だけど斬られたスライムは分裂して元気になってしまう。


「ふええ~! スライムが増えちゃったよー!?」

「ただ斬るだけでは致命傷にならないか」

「物理攻撃が効かなくても魔法なら!」


 クラリスが杖を構えたときだった、今度はスライムたちが一斉に襲いかかってきた。


「なあっ!?」

「ひゃあああ~!!」


 雪崩のように襲いくるスライムたちに、アンナたち二人は面食らってもみくちゃにされてしまう。


 こうなったら助太刀だ、投擲石礫スリングストーン


「クカァ!!」


 俺が一声あげると同時に、虚空から放たれた石礫がスライムたちを怯ませた。


「ありがとうダイナ、助かったよ~!」

「クケッ」


 だけどそれよりも気になることが。

 さっきスライムにもみくちゃにされたせいで、クラリスたちの服が虫食いのように溶けてしまっているのだ。


 溶けて穴だらけになった服からチラ見えする素肌が、なんという背徳感!


「あ~ん、この服お気に入りだったのに……!」

「これでは人前に出れんな……!」


 服が溶けてしまって戸惑う二人に振り向きついでに、俺は前衛に出る。


 ここはちょっとスライム狩りの先輩として、お手本を見せてやろう。


「クカア!!」


 飛びかかった俺は、咬牙バイトファングを使いながらスライムたちに食らいつき、一匹を補食した。


「そっか! 丸ごと食べちゃえばいいんだね!」

「いやダメだ、それでは討伐証拠のスライムコアが残らない!」


 え、これじゃあダメなのか?


 キョトンとしてたら、残ったスライムたちに不意を突かれて一斉に覆い被さられてしまう。


「ゴボボ!?」


 くっ、苦しい! まるでネバネバの水飴に溺れてるようだ……!


「ダイナ!? ちょっと待ってて、――束縛茨蔓ソーンバインド!」


 クラリスが杖を構えて唱えると、地面から茨の蔓がいくつも伸びて俺に被さるスライムたちに突き刺さる。

 するとスライムたちが水分を吸われたように急に萎びたのだ。


「プハーッ!」

「大丈夫!? ダイナ!」


 慌てて駆け寄ったクラリスに、俺はこくんとうなづいて無事を伝えた。


 だけどすごいな、あれだけのスライムを一度に無力化するなんて。


 しかも足元には丸くてコリコリとしたものがいくつも転がっている。


「これかスライムコアか。よくやった、クラリス」

「えへへ、ダイナを見習って魔法の茨にスライムを食べさせちゃえって思ったんだ~」


 そんなこともできるのか、クラリスって実はすごい……?


 アンナがスライムコアを全て拾い集めたところで、俺たちはさらに奥へと進むことにした。

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