第6話 異世界のテンプレ

「魔物は名前が付くと予期できない変化が起こるんだぞ! だから魔物には安易に名前を付けてはいけないのに……!」


 額を押さえてうなだれるアンナだけど、クラリスは相変わらずのほほんとしている。


「えーっ、でもダイナはそんな悪い子には見えないけどな~。ほら、見てみて?」


 そう言うとクラリスは抱き上げた俺をアンナの前に突き出した。


 ここは可愛く愛嬌を振るわないと。

 そう思って俺は小首を傾げてみた。


「クカッ」

「ほらね、ダイナもアンナちゃんと仲良くしたがってるよ~」

「それは本当なのか?」


 疑りつつも俺の頭に恐る恐る手を伸ばす。


 剣を握ってるからなのかいくつもたこがあるけど、それでもアンナの手はスベスベで気持ちいいぜ。


「キュルルル~」


「……案外可愛いな」

「でしょ~?」


 どうやらアンナも俺を気に入ってくれたようだ。


 だけどアンナはまだ首を捻っている。


「――しかしどうする。町に魔物を入れるなんて、門番になんて説明すれば良いのだ?」

「それはわたしに考えがあるんだ~。えーと、確か……」


 クラリスがボストンバッグから取り出したのは青い布切れで、それを俺の首にスカーフっぽく巻いてくれた。


「じゃーん! ほら、町にはテイムした魔物を使い魔として連れているテイマーさんがいるでしょ? だからこれをつければ安全な使い魔ということで通ると思うんだあ」

「そんなものだろうか……? おっと、ギガントカリブーの解体がまだだった」


 ふとギガントカリブーの亡骸に向き直ったアンナは、ふとこんなことを漏らす。


「しかし見事なギガントカリブーだ。うーむ、本当は毛皮や肉も持ち帰りたいところだが、さすがにこれだけ巨大なものになると角だけを切り取るのが関の山か」


 なるほど、あのギガントカリブーを丸ごと持って帰れるようになればいいんだな?


「ちょっと、ダイナ?」


 ちょっとジタバタしてクラリスから離れたところで、俺は無限収納ブラックボックスを使ってギガントカリブーを口から吸い込むように収納する。


「なっ、ギガントカリブーを吸い込んだだと!?」

「ねえアンナちゃん。今のってもしかして収容魔法、それも容量に限度がない無限収納ブラックボックスだよね! もしかしてダイナが使ったの!?」

「クカッ」


 ビックリ仰天のクラリスたちに、俺はあっけらかんとうなづいた。


 クラリスも無限収納ブラックボックスを知ってるのかよ。


 そうかと思えばクラリスがまた俺を抱きしめた。


 おほっ、たわわなおっぱいの感触が。


「すごいよダイナ~! 無限収納ブラックボックスが使えるなんて!!」

「確かにこれは便利だが……」


 その傍らでアンナはあごをなでて釈然としない様子だけど。


 この後アンナがやっぱり解体を済ませておきたいとのことで、収容していたギガントカリブーをもう一度出して、肉と毛皮に解体したところで再び収納した。

 角だけはアンナが風呂敷に包んで持ち運ぶことにしたようで。


 それから俺はエルフの二人に町へ連れていかれることになる。


 ちなみに俺はクラリスの携帯していたボストンバッグに入ることに。


 クラリスのおっぱいを堪能できないのは残念だけど、まあ町で無駄に注目を浴びるのも避けたいところだからな。


 少し揺られていると、森を出たのかすぐに石造りの外壁が目に飛び込む。


 おお、これはもしかしなくても壁の向こうに町があるってことなんだよな!


 この外壁もうえから見たら円形になっているんだろうか?


 それにしても異世界の町はどんなのだろう?


 壁の向こうに想いを馳せる俺を連れたクラリスとアンナは、いつの間にか門番に何か身分証明書みたいなのを見せて入り口を通過していた。


 どうやら俺の存在も大した問題にはならなかったようで。


 壁の中に入るとそこはもう小説でも見知ったような、だけどこの目で見るのは初めての異世界の町並みだった。


「クカァ……!」


 町並みを行くのは獣耳だったり普通の人間だけじゃない様々な人種の人々。


 道の両脇では活気に満ちた露店の人たちが商売に勤しんでいる。

 そして町並みを占めるのは中世ヨーロッパを思わせるレンガ造りの建物。

 そして町の中心を流れるのは、豊かな水をたたえた運河。


 これが異世界の町か。

 小説ではよくある光景だっただろうけど、実際に見てみるとやっぱり圧巻だ……!


「初めての町に夢中なんだね」

「クケッ!」

「まさか魔物が町に興味があるとはな……」


 異世界の町並みを食い入るように眺める俺に、クラリスがにこやかな微笑みを向ける。


 途中このエルフの二人をチラチラと見る男のいやらしい目が気になったけど、二人とも慣れているのか特に気にしてない様子だった。


 それにしてもこの二人はどこへ向かうんだろう?


 その疑問はすぐに解けた、クラリスたち二人は町の中央近くにそびえる黒い立派な建物の前に来ていた。


 二人はこの建物に用があるんだな。


 クラリスに連れられて入ると、片側が酒場でもう片側が何やら役所みたいな受付というのが混在する、ファンタジー小説ではお馴染みなギルドの光景が広がっていた。


 ギルドきたーーー!!


「あ、ちょっと! ダイナ!?」

「こら! 独りで勝手に出歩くな!」


 興奮のあまりクラリスのボストンバッグから飛び出した俺は、すたすたとギルドホールを見て回る。


 美人の受付嬢たちに、依頼の書類が貼り出された掲示板!


 間違いない、ここは冒険者ギルドなんだ!!

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