第12話 死と恋に揺れる乙女
(頭が痛い……それに、声が聞こえる)
マリの意識は朧気で定まらない。
(誰だろう……私を呼ぶのは誰?)
――うえ!」
(ん~……? 頭痛いから寝かせてよ~……)
――が主!」
(も~……うるさいなぁ……)
声に呼ばれ、ゆっくりと目を開ける。
「姉上!!!」 「我が主!!!」
目を開けると、超絶可愛い推しのルーデウスとマリに恋している事が判明したエルフキサラギが泣きながら顔を覗き込んでいた。
「うぉぉぉぉっ!? 待って! 待って!! 推しとイケメンのダブル摂取はカロリーオーバーだから! 死ぬ死ぬ! 」
飛び起きたマリを、ルーデウスとキサラギは抱き締める。
「姉上、良かった! 良かったです!」
「我が主、心配させるな! 無理をして……全く!!」
マリの顔は真っ赤になり、煙がたちのぼる。
「ひぇっっ?! まっ……死っ……」
「メリー! メリー!! 姉上が目を覚ました! 早く!」
ルーデウスが叫ぶと、直ぐにメリーが走ってきた。
その顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
つい先程まで泣き崩れていたのだろう。
「陛下! マリ陛下……良かった……本当に良かったですぅぅぅぅ」
「ちょっ!? メリーさん?! どしたどした? よしよし……よ~しよし」
メリーは泣きながらマリに抱き付く。
横に立つルーデウスとキサラギも泣いていた。
(え……? 本当に何事?)
マリは倒れた事を覚えていなかった。
何故皆が号泣しているのか、さっぱり分からない。
「……で? 皆どしたの? 何事?」
「姉上……覚えてらっしゃないのですか?」
「我が主……君は元侯爵家所有の城から戻る時に馬車の中で倒れたんだよ?」
キサラギの答えにマリは固まる。
「……ま? 全然覚えて無い」
「マリ陛下……本当に目覚めて下さり感謝致します。 もし……目覚め無かったらどうしようかと……」
メリーの背中を擦るマリは不思議に思う。 少し倒れただけで、大袈裟じゃね? と。
「あれ? ちなみに……倒れてから何時間経った?」
メリーや、ルーデウスにキサラギの時が止まる。
「姉上……お倒れになって、3日間目覚めなかったのですよ……? 先程、ジャックが連れてきた医師に……もう目覚めない可能性が有ると言われ、どれ程辛かったか……」
マリ最推しルーデウスから大粒の涙か溢れる。
「あちゃー……やっちゃったな。 ごめんね、ルーたん。 メリーさん、キサラギさん、心配掛けてごめんなさい。 もう大丈夫よ?」
マリは戸惑う。
(もし、私が1年後に死んだら……ルーたんやメリーさん、キサラギさんにジャックはどうなるんだろ……)
逃れられないだろう死のタイムリミットが、マリの心を掻き回す。
(ダメ……このままじゃ、私が死んだら王国が傾く。 死ぬまでに何か保険を掛けないと!)
マリはベットから起き上がり、皆の頭を優しく撫でる。
「ねぇ、ジャックは?」
「ぐす……は、はい。 ジャックは連れてきたヤブ医師を王城から追い出しに行っております。 直ぐに戻るかと……」
マリはこの時、自身でも吐き気がする程に最低な保険を掛けようと企んでいた。
「分かった……。 メリーさん、ルーたん。 少しキサラギさんと2人にして貰える?」
「姉上……?」 「ですが、まだ目覚めたばかりで……かしこまりました」
メリーとルーデウスは躊躇うが、マリの真剣な顔を見て大人しく部屋を出ていった。
「……我が主。 酒の席での話なら……」
「キサラギさん、今……何歳?」
2人きりになり、戸惑うキサラギにマリは真剣な表情のまま問う。
「歳かい? ……200は過ぎたよ」
「そっか……羨ましいな~。 あのね、私はこれから最低な事を言います。 腹が立ち、嫌悪したら……どうか亜人の国にお帰り下さい」
キサラギも真剣な顔でマリを見つめる。
「……聞こう」
「キサラギさんが、私に好意を持ってくれてるのなら……それは凄く嬉しい。 でも、私が誰かと結婚したりする事は……出来ないの。 理由は言えない……ごめんなさい。 そして……叶うなら、弟のルーたんが王になった時、側に居てあげて欲しい……。亜人との関係は私が命に代えても治すから。 だから……ルーたんを守って欲しい」
「我が主……君は何をそんなに怯えているんだい? 君が女王となってから、1ヶ月も経ってないんだよ?」
キサラギは理解出来なかった。
マリが何故こんなにも改革を焦るのか、何故ルーデウス殿下を王として教育するのか。
何故……自分の死んだ後の事しか考えれないのか。
「違う……もう、1週間以上過ぎてしまったの。 直ぐに1ヶ月なんて経過する。 もっと急いで、もっと早く改革を進めないと……。 だから……これは最低なお願い。私を好きなら……どうか、ルーデウスを守り支えて欲しい。 寿命の長い貴方にしか安心して任せれないの」
マリから大粒の涙が溢れる。
キサラギは胸が締め付けられ、どうすべきか思考を巡らせていた。
「つまり……君は、私の好意を利用してルーデウス殿下がいつか王となった時に守り支えろと願うんだね。 君と結ばれる事も無く、この王国にずっと居ろと」
「……そうだよ。 私は……結婚する事は出来ない。 でも、このまま進む為に……何か保険が欲しいの。 頑張って頑張って、足掻いて抗って……その結果、王国とルーデウスの幸せな未来が有るって確信が欲しいの。 優秀で博識で優しい貴方なら、貴方がルーデウスを支えてくれるなら。 私は信じて頑張れる」
キサラギは俯き、マリの話をじっと聞いている。
何かを迷い、何かを決意するかのように。
「条件が有る。 我が主」
真剣な表情のキサラギに、マリに緊張が走る。
「は、はい!」
最低なお願いをしている事は重々承知だ。マリはどんな条件でも呑むつもりでいた。
「まず1つ、私も共に最後まで抗わせてくれ。2つ、ルーデウス殿下が立派な王となるなら私は最後まで仕えよう。 そして、3つ……結婚が無理でも恋人なら大丈夫なのでは? もし、君が私を嫌いじゃないなら……恋人として接してくれると嬉しい。 勿論、メリーやジャック、ルーデウス殿下には秘密だ。 この条件を呑むなら、未来永劫に秘密を守ると誓う」
「……How?」
(え……? なんて? ん? えっと……一緒に改革を頑張ってくれて、ルーたんが立派な王になれば問題無し……うんうん。で? 最後に~……恋人なら大丈夫じゃね? と。 そっか~……あれ? じゃあ……どゆこと?)
マリの残念な脳味噌は限界だった。
(あ、分かった。 恋人のフリで終わって、その先は無しって事かい? え? キサラギさんはそれで良いの? そんな事で、ずっとルーたんを守ってくれるの?)
マリはこの時、勘違いをしていた。
キサラギは結婚が無理なら、恋人にして欲しいと言ったのだが。
マリは恋人のフリだけで良いと、更に皆には秘密だと、まだ朧気な意識で判断した。
「その条件のった!!」
マリの盛大か勘違いのまま返事をした結果――
「分かった、じゃあ……2人きりの時はマリって呼ぶね。 よろしくね、我が愛しき恋人マリ」
ちゅっ♡
キサラギがマリに口付けを交わす。
――キサラギにファーストキスを奪われる結果となった。
「…………ふぇ?」
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