第6話 微睡みと決意
マリは朝から上機嫌だった。
(あ~ん、ルーたんの寝顔可愛いなぁ! スマホで写真撮りたい! 誰か! スマホを!! )
隣で眠っている最愛の推しを、朝から愛でる。
サラサラと金髪を優しく撫で、寝顔を堪能する。
(はぁ、はぁ、はぁ! まさか……一緒に寝ないか冗談で誘ったら、本当に添い寝してもらえるとは! ぐふふ……幸せぇぇぇ)
他の人には見せれない顔で、マリは朝からルーデウスの隣で悶えている。
「ん……んん、姉上……? ん~……」
寝惚けたルーデウスが、マリを抱きしめる。
大好きな姉が隣に居るのを確認し、寝直した様だ。
(死っ!? 待っ……有り得……! ぐ……はぁ……)
マリも尊死して、ルーデウスとそのまま抱き合って二度寝を始めた。
◆◇◆
コンコンコン
暫くした後、マリの部屋がノックされる。
コンコンコン
ルーデウスと抱き合って幸せいっぱいで寝ていたマリの寝起きは最悪だ。
「も~~……誰ー? 今、ルーたんとイチャイチャしてるから帰って~」
ゴンゴンゴンッ!!
「マリ陛下!! 私で無かったら大問題なので、その様な御冗談はお止めください!」
(ちっ……ジャックか)
部屋をノック……というより、ぶん殴っているのは元マリの執事ジャックだ。
マリが女王となってからは、ルーデウス付きの執事をしている。
「ふぁ……どしたの、ジャック。 まだ、朝早いよ~?」
部屋を開けたジャックが、マリに向かって深く一礼する。
「申し訳ございません、ルーデウス様の朝稽古の時間でございます」
「朝稽古……?」
そのルーデウスは幸せいっぱいな顔で眠っている。
「はい、王族の男は戦闘能力を高め、王国の力となるのが習わしでございます」
「ちなみに……王になる為の勉強は?」
ルーデウスの頭を撫でながら、マリは問う。
「……? 何故、殿下がする必要が?」
(あー……そっか、男が主体の王が存在しない世界だっけ。 でも、それじゃ困るんだよね~)
マリは心を鬼にして、ジャックに伝える。
「これは、女王としての命令です。 今日より、弟ルーデウスに王としての教育を始めなさい」
「しかし、それは……」
「異論は認めません、これは現女王である私の命令です。 分かったら下がって手配を」
「御意……」
何処か落ち込むジャックを、申し訳無さそうにマリは見送った。
(あぁ……胃が痛い。 人に命令するって、本当にしんどいな。お酒飲みたい、お酒飲んだら凄く楽になるのに……)
それから数時間、メリーに起こされるまで2人は仲良く眠りについた。
◆◇◆
時は少し遡り、マリに命令された後のジャックは足早に同僚の元に向かった。
「すまないメリー、今いいか?」
執務室の掃除を早朝からしていた、メリーの元へと急ぎやって来た。
「あら~、おはようジャック。 朝からどうしたの?」
「先程……マリ陛下に、ルーデウス殿下の事で命令を受けた」
おっとりと掃除をしていたメリーに緊張が走る。
「陛下は……なんと?」
「ルーデウス殿下に王としての教育を始めろと。 何故だ、マリ女王陛下が即位してまだ7日だぞ! 何故……そんな事を」
ジャックの悲痛な顔を、メリーは見ていられなかった。
メリーは知っている。
幼き頃から共に居たジャックが、マリに恋をしていた事を。
それは叶わぬ恋。
叶えてはならない恋だった。
やっと、焦がれた相手が女王となり王国を善き方向へ変え始めた矢先だ。
まるで、自分がもうすぐ死ぬかの様なマリの態度にメリーもジャックも敏感に察していた。
「キサラギとも、その事は話しました。 恐らくですが……マリ陛下は、御両親と同じく原因不明の病で死ぬと思われているようです」
「だが、それなら殿下だって……」
メリーの言葉に、ジャックは噛みつく。
それなら、姉弟であるルーデウスも同じだろうと。
「分かりません、マリ様が何を思って何を知っているのかは。 ですが、これだけは言えます。 私達の女王は、いつの日か男であるルーデウス殿下が王として君臨する事を望まれています。 仕える私達は……それを全力でお支えすべきではないでしょうか」
ジャックは拳を握り締め、指が食い込み血が滴り落ちる。
「りょ……了解した。 メリー……マリ陛下は、マリ様は何時がタイムリミットだと思ってるのだろう……」
「女王となってからの、改革の異常な速度。 腐敗した貴族に対する冷酷さ。 恐らく……数年。 もっと早いかも」
「……分かった」
ジャックは諦めない事を誓った。
必ず死なせないと。
どんな手を尽くしても、絶対に救って見せる。
帝国の医者だろうと、亜人の医者だろうと、マリ陛下をお救い出来るなら……俺は何でもする。
マリは知らない、ジャックが必死に前女王の死を解明し救おうと努力する事を。
それはマリに知られてはならない。
なぜなら、マリのルーデウスに王を継ぐ意志に反するのだから。
◆◇◆
「マリ陛下~? そろそろ起きて下さいませ~! 」
メリーが起こしに来たが、二度寝していたマリはそう簡単には起きない。
「う~ん、後8時間~……」
怠惰極まりない姉でも、ルーデウスは天使の笑顔で起こしてくれる。
「姉上……ふふ、ダメですよ。 女王としての執務があるんでしょ? 頑張って下さい」
「えぇ~~……ルーたんが言うなら起きる。 あ、そうだ! 私が頑張れる様に、頬にキス! キスしてぇぇぇ! そしたら、起きるからー!」
眠気眼だったマリは隣のルーデウスを見るや否や、頬を突きだし接近する。
「ダメですって姉上!! メリー! 助けてぇー! 早くーー!!!」
ルーデウスが必死に抵抗し、メリーに助けを求める。
其処からは早かった。
メリーがマリを捕まえ、部下のメイド達と一瞬で着替えさせる。
「メリーさん、後生だから~……後生だから~……」
「はいはい、今日は街の視察の御予定ですよ? そろそろ向かわないと間に合いませんよ?」
そして、喚くマリを連れて部屋を出ていった。
「ふふ、姉上は可笑しいなぁ……えへへ、嬉しいなぁ。 よし! って、あれぇ!? 朝の稽古は……? 」
起きたルーデウスは、外の日の高さを見て驚く。
慌ててマリのベットから這い出ると、執事のジャックが待っていた。
「あわわ! ごめんなさいジャック、寝坊してしまいました!」
慌てるルーデウスにジャックは優しく告げた。
「御安心下さいませ、殿下。 戦闘訓練の稽古は全て終了です。 今日から、王になる為の勉強を始めます」
「……ふえ?」
ルーデウスは訳の分からない話しに首を傾げるのであった。
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