第16話 箸墓古墳の埋葬者(^^)ノ

箸墓古墳へ行くにあたり、夫は、初代神武天皇(じんむ)と十代崇神天皇(すじん)は、同一人物なのではないかと言う話しをした。


理由は二人とも、初めて天下を治めた天皇の意である、始馭天下之天皇(はつくにしらすすめらみこと)と言う別名を持っている事が、これらの説の根拠になっているそうだ。


更に、二代から九代までの天皇の具体的なエピソードがすっぽり抜けており、これらの天皇の実在性が疑われているそうで、それを欠史八代と言うらしい。


記紀による、神武天皇のエピソードは華々しい東征の記録が殆どで、即位後の事が詳しく書いていない。


逆に、崇神天皇は、即位する前のエピソードが乏しく即位後の治世の話しがメインになる為、この二人は同一人物であり、一人なのではないかと言われているのだそうだ。


余談であるが、神と名が付く者は、特別である事は容易に想像出来るけれど、諡号(しごう)に神が入る皇族は、神武、崇神、応神の三人の天皇と、神功皇后を含めた、たったの四人である。


この四人の皇族は、本当に特別な存在だったんだろうねと、夫は崇神天皇の話しを続けた。


崇神天皇は、本当に崇神(すじん)よりも祟神(たたりがみ)って言葉の方がしっくり来るんじゃないかと思うくらい祟り神に悩まされた天皇だったんだよ。


崇神天皇の時代には、疫病が大流行して、多くの民が亡くなり、国中が混乱に陥ったことが記されているんだけど、これはパンデミックに関する日本最初の記録でもあるんだ。


疫病の流行は、天皇の徳をもってしても収まらなかった。


そこで天皇は神意を伺うため、占いを行うと、天皇の大おばにあたる倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそびめのみこと)が神憑りになり、我をよく祀れば天下は平穏になるだろうと神託を告げ、さらに天皇が、あなたはいずれの神かと尋ねると、私は大和の神で、大物主神(おおものぬし)であるという答えが返って来たと言う。


崇神天皇は神託に従い、大物主神(おおものぬし)を祀ったものの、一向に霊験は顕れなかった為、天皇は、更なる神示を得ようと必死に祈った。


すると天皇の夢に大物主神(おおものぬし)が現れ、次のように告げた。


大田田根子(おおたたねこ)に我を祀らせるならば、たちどころに平穏になろう、と。

 

天皇が早速、大田田根子(おおたたねこ)なる人物を探させたところ、茅渟県(ちぬのあがた)の陶邑(すえのむら)で見つけ出され、大田田根子(おおたたねこ)が大物主神(おおものぬし)を祀ると、ようやく疫病が途絶えて、国内は平穏となり、五穀豊穣となって人民は豊かになったと言う。


私達は、駐車場に車を止めて、箸墓古墳へと向かって歩いた。


そう言えば、この辺りはそうめんが有名らしい。


帰りに買って行こう。


さて、箸墓古墳は、大物主神(おおものぬし)が神懸かったと言う百襲姫命(ももそひめ)の墓であると言う。


私は古墳と言うものをよく知らないが、山梨の曽根丘陵公園で見た甲斐銚子塚古墳より明らかに大きい気がする。


それもその筈、箸墓古墳は、日本最古級の前方後円墳でありながら、全国の古墳の大きさランキングでは、ベスト11に入るのだそうだ。


夫は箸墓古墳を眺めながら、百襲姫命(ももそひめ)って、大物主神(おおものぬし)の妻になった人なんだよね。


この人のエピソードって、女性器に纏わる印象がとても強いんだよ。


夜這いされるとか、蛇が、この人の女性器に刺さって死んじゃうとか。


でも、この表現って何かを暗示してる気がするんだよね。


僕は、この人は、元々三輪山の蛇神を祀っていた巫女だったと思うんだよ。


蛇って、その姿から男性器の象徴でもある訳だよ。


だから、当時は、その蛇を慰める巫女、いわゆる神殿娼婦がいたと思うんだよね。


神殿娼婦ってのは、宗教上の儀式として神聖な売春を行った人で、百襲姫命(ももそひめ)も実は、そうだったんじゃないかと僕は思っているんだ。


でも、この人は、三輪山の大物主神(おおものぬし)の巫女であるにもかかわらず、東征に伴い大和政権がやって来ると、大和政権側に寝返ってしまった。


大和政権側としては、大和を支配するにあたり、三輪山の祟り神を祀る事が出来る人が、絶対に必要だったと思うから、この人は当然の如く重宝されたんじゃないかな。


でも、裏切りを許さない三輪山のまつろわぬ残存勢力が、この人の腹を刺して殺してしまった。


百襲姫命(ももそひめ)と言う名前に、襲われると言う漢字が充てられている事と、大物主神の変化した蛇に、女性器を刺されて死んでしまうと言う表現は、こうした出来事の比喩なんだと思う。


照れなのか何なのか、半笑いの微妙な表情で夫は語った。


このお墓は、卑弥呼の墓だって言う説があるみたいだけど。


そう私が聞くと、百襲姫命(ももそひめ)は大物主神(おおものぬし)が神懸かりする大地の巫女だよね。


卑弥呼は太陽の巫女ってイメージがあるからなあ、と答えた。


まあ、古墳なんてものは、そもそも誰が眠っているのかなんて、ほぼ分かってないんだよ。


でも、古墳の埋葬者なんて、推理する人にとっては、分からない方が良いんだよ。


分からなければ、推理を飽きるまで楽しむ事が出来る訳だし。


夫の言う通りかも知れないな。


古代の事に想いを馳せるのは、低コストかつ長く楽しめる高尚な趣味だろう。


しかし、本当に色々な事を知ってるなと感心した。


夫を博学だと褒めると、だって、それが何であるのかを分かっていないと、対応が取れないから、と笑って答えた。


はあ。どう言う意味だろう。

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