第14話 角がある神の話し(^^)ノ
伊勢から吉野の金峯山寺まで、車で2時間ちょっとで到着するとの事。
車中で、私は陰陽道について聞いてみる事にした。
叔父さんの継承した陰陽道は、やはり賀茂氏からの流れであり、先祖代々、叔父さんや義父の本家である古屋家に伝わったものを、独自に変化させたものだと言っていた。
古屋家の家族は、皆、陰陽道の技術や知識を使えるのかと、聞いてみた。
夫は、まあ一通り習うから、ある程度は使えるんじゃないかな、と言った。
夫曰く、陰陽道と言っても、オカルトめいたものではなく、単なる所作や知識と言った教養であり、その教養の中に、目に見えないものの対応が含まれているだけ、だそうだ。
さて、吉野の桜は七分咲きと言った所か。
私達は、付近の駐車場に車を止めて、金峯山寺まで歩いて向かう事にした。
吉野は桜も綺麗だし、何より門前町の雰囲気が出ていて、旅に来た感じが強くするから大変結構であると思った。
山門は改修中だったのが残念だったが、金峯山寺ではバッチリ蔵王権現が拝観出来た。
私は、その迫力に圧倒され一発で蔵王権現のファンになった。
夫は、蔵王権現は、バアルの姿によく似ていると、私にスマホを見せて来た。
確かに、右手を上に上げてる所と、左右の足が非対称な所が、蔵王権現の特徴的なポーズに似ていると思った。
しかし、私は、このバアルなる神が、如何なる神なのか良く知らない。
そう思っていると、夫は、このバアルもヤハウェのモデルとなった神だね、と言った。
バアルは、その昔、モーセが目指した、約束の地カナン地域を中心に崇拝されていた嵐と慈雨の神である。
角を持つ神の原形は、古代メソポタミアの牛の角を持ち、世界を統べると言うエンリルがモデルになっており、バアルも、元々は、このエンリルがモデルであると言う。
このエンリルと言う神は、荒れ狂う嵐や、野生の雄牛と言う異名を持つ、恐らく、かなり原初的な男性神なんだと思う、と夫は言った。
メソポタミア神話によれば、このエンリルと対立していた神と言うのが、蛇神であるエンキである。
エンキは、大洪水によって世界を滅ぼそうとした、エンリルから人類を救った救世主的な役割を果たしているが、聖書によれば、蛇は悪魔であり、人類の敵である。
エンキは人類に救いの手を差し伸べもするが、元々一つであった人類の言語をバラバラにしたのもエンキなのである。
つまりは、聖書に記された、バベルの塔を建てた事を咎め、人類から共通する言語を奪ったのも、イヴを唆し、知恵の実を食べさせたと言う、呪われた蛇も、このエンキがモデルとなっていると言う。
釈迦が入滅した56億7千万年の後に、世界を救うのは、弥勒菩薩の役割だ。
この弥勒菩薩はミトラ多神教の神、ミトラがモデルになっているが、そのミトラ神も、元々は、このエンキがモデルになっていると言う。
雄牛を屠ほふると言う、ミトラ神は、救世主の信仰としてオリエント中に広まり、やがて世界中に伝播して行った。
夫は、復活を象徴とするミトラ神の神格は、後のキリスト教に受け継がれていくのだけど、当のキリスト教は、このミトラ神の存在を禁忌としているみたいだよ。
ローマ帝国においてキリスト教側が、ミトラを邪神、悪魔として攻撃し始めた事で、最終的にミトラ多神教は衰退してしまったからね。
まあ、自分達が取り込んだ神格を、悪魔と謗そしるのは、良くある話しだよ、と夫は呟くように言った。
同じように、ユダヤ教もバアル神信仰と結びついていた時期があって、角のある神の偶像を崇拝する者は、新興の唯一神であるヤハウェの教えに背くものとして激しく攻撃される事になったんだ。
しかも、これが原因で北イスラエル王国の民は散らされてしまい、今でもイスラエルの十二支属のうち、十支族の行方が分からないとされているんだよ。
これを、失われた十支族と言うんだけどさ。
金峯山寺の境内にいた山伏達を見ながら、夫は、修験者達のあの独特な衣装は、ユダヤ教の祭司の着る衣装にそっくりだと、またもスマホで画像を見せてくれた。
確かに、山伏の兜巾ときんを付け、ほら貝を吹く姿は、頭にテフィリンと呼ばれる小さな四角い箱をつけ、ショーファーと呼ばれる角笛を吹くユダヤ教の修行者と、非常に似通っていた。
私は、夫に日猶にちゆ同祖論を信じているか聞いてみた。
夫は、人って自分に都合が良い情報しか受け取らない習性があると思うから、なるべく特定の何かを信じたりしないように気を付けているよ。
ただ、メソポタミアで産まれたアブラハムと言う人の子孫が、紆余曲折を経て日本に辿り着いて国を興したとか考えると、めちゃめちゃ面白いよね、と嬉しそうに話すのを聞いて、私は、日本のルーツがメソポタミアなら、それはそれで面白そうだと思った。
今日は風が少し冷たい。
金峯山寺の周りをしばらく散策して、天川弁財天を参拝してから、近くの温泉宿に泊まった。
温泉には前鬼と後鬼の石像があり、手に持つ甕かめから流れ出る温泉を、勢い良く浴室に注いでいた。
私は、少し熱めの温泉に浸かり、ぼーっとしていたら、温泉ソムリエの温泉レビューの企画を思い付いてしまった。
取材も兼ねて温泉も楽しめるから、楽しいかも。
夕方から少し冷えたので、宿で熱燗を頼んだ。
夫は瓶ビールを頼んでいた。
他の国には疎いが、私は日本人に生まれて良かったなと思った。
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