イドダナ

村良 咲

第1話 1

「ねえねえ、小学生の頃に『イドダナ』ってやった?」


「は?なんて言った?」


「イドダナだよ、イドダナ」


「何それ、井戸の中に棚でも作るの?っていうか、井戸なんて今時どこの田舎の話だっつーの」


 そう言って自分の返事にノリツッコミして完結し大爆笑したのは、神田真菜とは違う小学校に通っていた設楽麻里奈だ。中学二年に上がる時のクラス替えで同じクラスになり、「私、マリナでマナの真ん中にリがいるからちょっと得した」と、いったいそれがなんの得なのだと思わないでもなかったが、そう言って近づいてきた麻里奈は超がつくほど明るくて、いつの間にかいつも一緒にいるようになっていた。


「いつ、どこで、だれが、なにをしたっていうゲームだよ」


「あ~あ、それね……それなら知ってるけど、それ、イドダナっていうんだ。……っていうか、頭文字取っただけじゃん」


「え?じゃあなんて呼んでたの?」


「特に呼び名はなかったな。ただ、いつどこゲームやろうって感じだった。あ、でもいつもいつどこゲームって言ってたから、『イツドコ』なんじゃない?」


「あ、なるほどね。こういうの呼び方が学校ごとで違うのかもね」


「って、なんか懐かしいね。ちょっとやってみない?」


「そうだね、じゃああと二人……」


真菜が言い終えるより早く、麻里奈が昼休みの教室で大声で呼びかけた。


「イドダナゲームって言うらしいイツドコゲームやるけど、あと二人やる人いな~い?」


 その声に、それぞれいつものメンバーで輪を作っていた荒川由衣と市野莉良の二人が「やるやる~」と言って、手を挙げた。


「今、イドダナって言った?イツドコのことイドダナって言ってたんだ。面白いね」


「でしょでしょ。頭文字取っただけじゃんね。まあイツドコも似たようなもんだけど」


「懐かしいね。ああいうの小学生のうちしかやらないもんね。真菜の学校はイドダナって言ってたみたいだけど、私もイドダナって聞いたことがあるよ。従姉妹が真菜と同じ小学校だったから。聞いたルールもだいたい同じだった」


莉良リラはイドダナって聞いたことあったんだね。じゃあルールのおさらいしよう」


 麻里奈が主導してルールのおさらいをすることになった。


 イドダナゲームでは、『いつ どこで だれが なにをした』の紙をそれぞれ四枚準備する。そしてその組み合わせで誰がどの紙を持ったのかわからないようにして一人一枚持ち、指示された言葉を考えて書き込むというものだ。


 そして四回ゲームをやり、最後にその組み合わせのうちの一つを実現させるというものだ。そんなわけで、『いつ』の指示の部分は、過去や遥か未来にはできないし、実現するのだから全ての指示は実現可能のものにしなければならない。


 麻里奈は常にカバンに入れてある、架空の妖精のキャラクターが描かれたメモ帳を取り出すと、四つ折りにして五cmほどの大きさに切り分け、それを受け取った真菜が四枚それぞれに色分けしたペンで、『いつ どこで だれが なにをした』と書き込んだ。


 机の上にその四枚の紙を裏返して広げ、再び手で混ぜるようにして、誰がどの紙を引くのか分からないようにした。


「みんな書いた?」


 麻里奈のその言葉に三人が頷いたことを確認すると、自分の書いた分と合わせて四枚を裏返したまま机に広げ、どれを誰が書いたのかわからないようにするために、両手でそれを混ぜ合わせるようにしてから一枚ずつ表に返しながら手元に集めた。


「じゃあ読み上げるよ。『明日』『教室で』『莉良リラが』『好きな人の名を叫ぶ』だって」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。無理無理無理、私、絶対できないから」


「まあまあ、どれをやることになるのか分からないんだから、そんなに慌てないの!」


「もう、誰よ……私の名前を書いたの……」


「それを言うなら、誰が『好きな人の名を』なんて書いたのよって話でしょ。じゃあ莉良リラは何を書いたのよ」


「言えるわけないでしょぉ~」


 四人で笑い合いながら、また麻里奈が次の四枚を裏返して広げて混ぜ合わせたあと、広げた中からそれぞれが一枚ずつ取って指示されたことを書き始めた。

 

 そうしてまた書き込まれて集められた四枚も麻里奈が読み上げた。


『放課後』『こんさんで』『真菜が』『告白する』


「はぁ?こんさんで告白って、誰によ!」


 そう言った真菜に麻里奈が、「岸本君とこんさんに行けば?」とニヤケ顔で真菜が好意を寄せている相手の名を出した。因みに、こんさんとは学校前にある駄菓子も並ぶ文房具屋だ。


「ちょっと……言わないでよぉ」


「へぇ、岸本君ね」とは莉良リラだ。


「由衣、莉良リラ、誰にも内緒だからね」


 笑い合いながらも麻里奈は次のイドダナの準備を怠らない。


「さ、次次、取って取って」


「『明日』また明日じゃん。『音楽室で』『莉良リラが』『クシャミをした』


「あ、それならOK。ティッシュって鼻に入れるし」


「まあ、慌てないでよ。あと一回。どんなイツドコ……もとい、イドダナ出てくるか、やろやろ」


 そう言って、麻里奈は最後の四枚を机に広げて混ぜ合わせた。


 

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