現在⑤
一月九日(火曜日)──草間美空の行方不明者届を受理した日から二十五日が過ぎていた。
その日の午前七時ごろ、蒼介のスマートフォンが鳴った。自宅で出勤の準備をしているところだった。見れば、白田一課長からだった。
──これでもかというほど眉を曇らせた。このタイミングに白田から連絡、つまりはそういうことだろう。
ふと視線を感じた。顔を向けると、どうしたの? と異変を察知したらしき愛くるしい瞳が尋ねていた。
しかし、雫由のことは後回しだ。蒼介は応答アイコンをタップ。
「お待たせしました──」と言ったところで、
『草間らしき女児の遺体が発見された』白田の低い声がいかめしく言った。
だよな──予想どおりだった。ゆえに、驚きはなかった。
『場所は革越市の小学校だ』忙しいのだろう、白田は端的に指示を出した。『お前も初動捜査に加わってくれ』
それから、白田は具体的な住所を伝えた。
『じゃ、すぐに向かってくれ』
「了解です」
通話を終えて蒼介は、いぶせき吐息を洩らした。結局、草間美空を救うことはできなかった。息苦しさを覚えていた。
「死体が見つかったの?」雫由が聞いてきた。「今回はどんな殺され方だった?」無表情でありながら好奇心、あるいは期待感をまとっていた。可能な限り残虐な方法であってほしい、と願っているようにも見える。
口を開き、「それは──」と言葉にしたところで蒼介は気がついた。遺体の様子何も聞いてねぇな、と。
その小学校は革越市の郊外、田園が広がる中に住宅が点在する、のどかな風景の中にあった。
第一発見者は四十七歳の男性教諭。早起きが得意な彼は、始業式である今日もいつもどおり一番乗り──午前六時半ごろ──で小学校に到着した。その時、校門の所に黒いポリ袋があることに気づいた。誰の仕業だ、と不愉快な気分になりながらも彼は、その袋の中身を確認しようと結びをほどき、袋の口を広げた。
「──」愕然として言葉を失った。わずかな間があって思考力を取り戻した彼は、胸を撫で下ろした──これを見つけたのがわたしでよかった、と。
袋の中には、人間のものらしき細分化された肉が詰め込まれていた。それらは通常の──という表現が正しいかはさて措き──バラバラ死体よりも更に細かく切り刻まれていた。肉食動物に食いちぎられ、
しかし、唯一原形をとどめていた部分があった。それがあったからこそ、袋の中身が人間の肉だと理解できた。
頭部だ。首から上だけは無事だったのだ。袋を開ける人を待ち構えていたかのように、瞳を見開いて絶叫する少女の首が上部を見ていた。
この、目を覆いたくなるような凄惨な遺体だけで〈蚊守壁市少女誘拐殺人事件〉との関連を疑わせるには十分だったが、遺体の口に詰め込まれた封筒──透明なポリ袋に入れられていた──が、その嫌疑をより強固なものにした。
その手紙には、やはりMS明朝らしき文字でこう書かれていた。
『愛の確認作業を終えて落ち着いた僕は、仰向けに横たわる彼女に尋ねた。
「痛かったかい?」
彼女はゆっくりと答えた。
「……いたいけど、だいじょうぶ」
「こういうことは初めてではなかったのかな?」
「……」
ためらっているようだった。
「どうしたんだい?」
「……はじめてじゃない」
「へぇ」と僕は相づちを打った。「僕は何人目だい?」
「……いいたくない」
彼女の秘裂へと手を伸ばし、指でそっとなぞった──まぶたを閉じて彼女は、くすぐったそうに震えた。
「教えてくれなきゃ──」と言って僕は、小さな小さな
「いっ──!」
彼女の顔に苦悶が浮かんだ。
「──もっと痛くするよ」
教えたところで最終的にはもっともっと痛い思いをしてもらうんだけど。
彼女はためらうように、「……さんにんめ」と答えた。
その言葉は僕を愉快な気分にさせた。不幸な少女をより不幸にすることこそ至上の喜悦──射精したばかりだというのに僕のぺニスは熱を持ちはじめた。愛おしさと破壊衝動が、血流に乗って全身を駆け巡る。
生唾を飲み込んだ。
「誰と誰だい?」はぁはぁ、と息が乱れていた。彼女の膣口に指を当てて、「君のここにおちんちんを入れたのはっ、どこの誰なんだいっ?!」
「いっちゃだめだって……」彼女は涙をにじませた。その悲しみが目尻に溜まってゆく。「みくはいいこだから、だからいわな──」
彼女の言葉を遮るように、すでにほとんど乾燥しているそこに強引に中指を突き刺した。
「ひぅっ」
彼女は短い悲鳴を上げた。
「ダメじゃないかっ」
膣肉をぐりぐりと掻き混ぜる。
「ぃたっ──」
「僕の質問には正直に答えないとっ」
人差し指もねじ込んだ。はぁはぁ。
「やめ、てっ、いたいっ」
彼女は明確に僕を誘っていた。
その期待に応えるように更に薬指を無理やり押し込んだ──粘膜が絡みつき、指を強く締めつける。
「あ゛」
彼女は不思議な鳴き声を上げた。
はぁはぁ。
「早く答えて」
彼女の内側を引っ掻いた。
「いったぁいっ」
早く教えてくれ。はぁはぁ。その時の悲しみも恐怖も痛みも、全部全部教えてくれ。膨張しきった男根がビクンビクンと痙攣していた。先端から漏れ出た愛がベッドのシーツを汚す。
「早く言えっ!」
僕は怒鳴った。
ビクッと震えてから彼女は、
「お、おとうさんっ、が、みくのなかに──」
唇の端が吊り上がった。
「もう一人はっ」はぁはぁ。「早くっ」
僕はもう辛抱できそうになかった。
こんなに幼い少女が、信頼していたはずの実の父親に犯された──その時の彼女の気持ちを想像すると、それだけで射精してしまいそうだった。
間もなく彼女は言った。
「おとうさんっ」泣いていた。「おとうさんもみくのこと──」
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。けれど、すぐに理解した。何のことはない、言葉どおり二人のお父さん──実の父親とファミリーホームの養育者に犯されたということだろう。
すばらしい! すばらしい逸材だ!──僕はいたく感動し、ぞくぞくとする悦楽が脊髄を駆け上がった。ぶるり、と身震い──早く挿入したくてたまらなかった。乱暴に、そしてわざと爪で引っ掻くようにして幼穴から指を引き抜くと彼女は、
「ぃぎぃっ」と神経を弦代わりにしたバイオリンで奏でたかのような心地よい音色を響かせた。「いたいよぅ」と女性器を手で押さえた。
彼女の秘密の内側に触れていた自身の指に視線をやった。鮮やかな赤が滴っていた。かわいそうな少女の膣壁から漏れ出た血液だと思うと、この上なく魅力的に感じる。はぁはぁ。
欲望に従い、「手をどかして」とほほえみかけた。痛いくらいに勃起していた。
「──」ぐにゃあ、と顔を歪めて彼女は、しかし卑屈さを含ませたようなかわいらしく滑稽な笑みを見せ、「みく、いいこだもん、いいこにするもん」と意味のわからないことを自らに言い聞かせるように独りごち、手を引っ込め、幼いが十分に男を知っている快楽器官を差し出した。
おびえた様子ながら従順な彼女を見ていて、ふと名案が頭に浮かんだ。
「優しくしてほしいかい?」さっきまでとは打って変わって、
変化は劇的だった。まるで人間の
「うん! やくそくする! みく、やくそくできるもん!」
「いい子だ」と言って、小さな手をぎゅっとしてやった。
「うん!」
彼女は手を握り返してきた。愚かにも安堵の響きさえあった。
そして、僕は命じた。
「これからは僕のことは『お父さん』と呼ぶんだ」
「ぇ……」
消え入りそうな弱々しい声。気色の悪い喜色は凍りついていた。
「どうしたんだい?」彼女から手を離し、「まさか美空は悪い子なのかい?」と声を低くした。
「ち、ちがうよ」彼女は焦ったように、「みく、わるいこじゃないよっ」
「そうだよねぇ、美空はいい子だもんねぇ」
再び手を握ってやった。
「うん……」
先ほどのような潑溂さはなかった。
「じゃあこれからは僕が君の『お父さん』だ。今までのお父さんたちに負けないようにいろいろとがんばるからね──美空はいい子にするんだよ?」
「う、うん」
「呼んでごらん」
うん、とささやくように答えてから、
「おとうさん」と彼女は言った。双眸は暗く淀んでいた。
その様があまりにいじらしくて──僕はすぐに彼女に挿入してあげた。
つらそうに顔をしかめる彼女を見下ろしつつ、自らの快楽のためだけの、何の配慮もない激しいピストンを開始した。
やはり少女の泣き顔はどんな美酒にも勝る。ユーフォリアに包まれ──やがて僕は射精した。
やぁ、調子はどうだい? 僕だよ。
僕の傑作小説「
とっても良かったって? そうでしょう、そうでしょう。
性的虐待を受ける幼い少女──これほどそそるシチュエーションはないもんね。うんうん、刑事さんもロリマンコでオナニーしたくなったよね、わかるわかる。
……え? そんなことより草間美空の発言は本当なのかって?
ふふ、もちろんさ! やっぱり刑事さんもそこが気になるよね。偽物じゃ射精の快感も半減だからね!
大丈夫、彼女の発言にフィクションはないよ。彼女は正真正銘の
え? お前も〈おとうさん〉の一人だろって?
うん、そうだね。じゃあ答えてあげないとね、娘マンコの使い心地を。
そうだねぇ……ひたすらにキツくて、痛いぐらいだよ。でも、無理やり入れれば何とかなるかな。そこまで行けば、もう天国さ。
どうだい? ロリマンコで射精してみたくなったろう。さぁ、お
で、何だっけ。何か忘れているような……ああ、クイズのことだ。
どうせ君らはまだ答えにたどり着けてないんでしょ?
かわいそうだなぁ。バカすぎると自分が生きる価値のない人間のなり損ないの
じゃ、健闘を祈ってるよ。バイバイ☆
善良すぎる少女愛好家』
草間美空への性的虐待があったか否かは、蒼介が現場に到着した時点では定かではなかったし、今後も明るみに出ることなく、その真相は闇の中に消えていくのだろうと思われたが、仮に事実だったとすると、と思うとどこかにいるかもしれない神を呪いたい気持ちが湧いた。喜劇的な悲劇で溢れているのが世の常とはいえ、あまりにも哀れだった。
はぁ、とやるせなさを吐き出し、蒼介は初動捜査──現場周辺の聞き込み捜査に向かった。
が、当然のように収穫なし。早く捕まえないとまた被害者が出てしまう、と焦りばかりが積もっていく。
捜査に進展がないまま九日が過ぎ、一月十八日(木曜日)──この日、またしても幼い少女の行方不明者届が提出された。
名前は
阿部理央も〈かわいそうはかわいい〉のルールに則って選ばれたようだった。すなわち、彼女も虐待児童で、現在は里親の下で生活しているのだ。
虐待の内容は、シングルマザーの母親とその恋人により売春を強要されていたというものらしかった。
阿部理央の里親である
早速、翌日から阿部理央の捜索が始まった──が、やはりダメ。誘拐ではない場合も視野に入れて広範囲に聞き込み捜査を行っても、それらしき証言は出てこなかった。
いったい何がどうなってんだ。どうしてこうも上手くいかない──嘆いたところで意味はない。そんなことはわかっているが、蒼介の心は合理的ではなかった。
そして更に時は流れ、二月三日(土曜日)、阿部理央らしき遺体が発見されてしまった。
場所は富士視市の住宅街、その一角にある空き地に上半身と下半身に両断された少女の遺体が遺棄されていた。また、遺体からは性器及びその周辺の肉が抉り取られていたという。
手紙も添えられていた。
『やぁ、僕だよ。
またまた
ところで、理央ちゃんはすごかったよ。うん、彼女はプロだ、紛れもなく真正の、そして真性の
そうだね、それでも強いて減点ポイントを挙げるなら、泣き喚いてうるさかったことだね。
でもそれも、「おとなしくしないと君の恥ずかしい動画をネットにさらすよ。そうなれば友達みんなに君が薄汚い
どうやらクラスに好きな男の子がいたみたいでね、その子にだけは知られたくなかったみたい。乙女心ってやつだね、いいねぇ──だって、大切なものがあるっていうのは弱さだから。それをちらつかせるだけで彼女を服従させられるのだから、僕としては手間が省けて助かったよ。
ま、子宮とオマンコを切除された時には衝動のままに絶叫してたけどね。男のことなんて完全に忘れてる顔だったよ。
閑話休題。
それで、君たちはまだクイズにてこずってるの?
……あ、そう。そんなに難しい? へー……つまんな。これじゃあ張り合いがないよ。僕を楽しませようっていうエンターテイメント精神を持つ人はいないわけ?
え? そんなやつはいないって?
……はぁ、やれやれだよ。世間の風は冷たいねー、僕は凍えてしまいそうだよ。
はぁ、仕方ないなぁ、こうなったらロリマンコで温まるしかないじゃないか。本当は僕だってこんなかわいそうなことしたくないのになー、君たちのせいでやらなければならなくなっちゃったなー、罪悪感で夜しか眠れないなー、これは判断能力も低下するなー、心神喪失だなー──というわけで僕は無罪! ばばん! これにて終結!
善良すぎる少女愛好家
PS ロリ子宮とロリマンコはお好み焼きにして食べたよ。……普通にまずかったね、うん。お薦めはできないからどうしても食べたいって人は自己責任でお願いね。』
このほかの手がかりとしては足跡も発見された。第一の被害者である近藤ひなたの遺棄現場に残されていたものと同一のものと思われるという。すなわち、犯人は〈身長約百七十センチ、体重五十から六十キロ、足のサイズ約二十六センチの男性〉である可能性が極めて高い。
蒼介はそれを念頭に置いて、いつものように初動捜査に臨んだ。
しかし──、
「ああもう、全然じゃないっすか! いったいどうなってんだよ!」蒼介は声を荒らげた。「何で何の目撃情報もないんだ!」
「落ち着け。喚いて解決するものではない──それはわかっているだろう」堂坂がたしなめるように言ってきた。
蒼介と堂坂は捜査車両のセダンの中にいる。今はスーパーの駐車場に駐まっている。
「そうですけど! わかってますけど!」蒼介は──子供じみた言動を恥じる気持ちもある。しかし──心から噴き上がる怒りを抑えきれなくなっていた。
近藤ひなた、草間美空、そして阿部理央。
彼女たちのような子供が、どうしてこんな目に遭わなければならないのか。大人たちの悪意に苦しんで苦しんで、挙げ句、殺される? ふざけてる。そんなのありかよ。
考えれば考えるほど憤りが湧く。畜生、と悪態が零れそうにもなる。
「はぁ」堂坂の溜め息──そして、不意に柔らかい微笑が聞こえた。
怪訝に思って蒼介が顔を向けると、
「お前は優しいな」堂坂は母性を窺わせるような柔和な声音で言った。「お前のそういうところ、わたしは好きだぞ」
──かぁぁ、と顔が熱くなった。
いわゆる恋愛感情云々で照れたわけではない。自分よりも複雑な、あるいはつらい立場であろう堂坂にそんな言葉を言わせてしまったことが──気を遣わせてしまったことが恥ずかしかったのだ。
もう二十七なのに何をやってんだ俺は、と情けなく思った。これでは倉橋が子供扱いしてくるのも道理ではないか、と。
──ふぅ、と息をつき、気を落ち着ける。「すみませんでした」と口にした。すると、
「何だ、もういいのか」
残念がるような声が飛んできた。「今ならわたしの胸で泣いてもいいぞ?」唇の端にからかいを帯びてもいた。
まぁまぁボリュームのある堂坂の胸に、つい視線が行きそうになるも、それはこらえた。
「それで本当に抱きついて泣いたら一生ネタにしますよね?」蒼介は、その手には乗らないぞ、と半目を向けた。
「その可能性は否めないが、少なくともこの瞬間は、よしよしとかわいがってやるぞ」
堂坂の表情を見るに、〈可能性は否めない〉なんてレベルではなく〈確定的に明らか〉であるに違いなかった。そんなのは嫌である。
「……」堂坂を見ていて、ふと思った。「堂坂さんは大丈夫なんですか?」
平気そうに見えるが、それが真実なのかはわからなかった。無理をしているだけなのでは、と思ってしまう。
「心配性だな。大丈夫と何度も言ったろう」堂坂は言った。口調に険はないが、少しだけめんどうくさそうではあった。「それとも、そんなにわたしの言葉が信用できないか?」
「まぁ、はい」と素直に答えるのが、蒼介という人間だった。「無理してんじゃないのかなぁって少し疑ってます」
「そうでもないんだがなぁ」堂坂は困ったように視線を遠くへやった。「じゃあ逆に聞くが、もしわたしが、『つらくて死にそうだ』と言ったらどうするんだ?」
「ええと」と考え、「堂坂さんを捜査から外してもらうよう長妻さんに頼みます」と答えた。
「それをされるとわたしの評価が下がってしまうな」それは困る、と堂坂は言う。「これでも人並みの出世欲はあるんだよ」
「そういうとこが不安を煽るんすよ」出世のためなら無理をするということだと蒼介は解釈していた。
「そう言われてもな」堂坂は、ううむ、と口を曲げた。「とにかく、そう心配するな、わたしは大丈夫だから」
「まぁ、わかりました」
早く解決しないと、と強く思う。そうしないとどんどん不幸が増殖していく。
蒼介の脳裏に雫由の顔が浮かんだ。
子供離れした聡明さを持つ彼女ならばそろそろ答えにたどり着いているのではないか、という何の具体的根拠もない憶測がよぎった。
苦笑いが洩れた──だいぶダメな男だな、俺。年上にも年下にも甘えてばっかじゃねぇか、と。
とはいえ、何とか真相を解き明かしてくれ、と願う気持ちは日に日に強く──。
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