第17話 休日
紫音視点
「おかえり」
「……彩那さんも、おかえりなさい」
「うん」
彩那さんを真帆ちゃんに紹介し終えて、彩那さんの家に帰ってきた。”おかえり”って言って貰えることが嬉しい。
泊まらせてもらう予定でいたから、ちゃんと荷物も持ってきてあるし、明日はお互い休みで1日一緒にいられるから、それを楽しみにバイトを頑張った。美和子ちゃんには単純って言われたけど自分でもそう思う。
「紫音ちゃん、お風呂入るでしょ?」
「はい。彩那さんお先にどうぞ」
「……一緒に入る?」
え? 一緒に入る?? お風呂に?? 彩那さんと?? ……無理。何もしない自信なんてこれっぽっちもない。
「いや、いいです! 彩那さんが出た後にお借りします」
今日は真帆ちゃんと会ってくれて疲れただろうし、ちゃんと寝てもらおうと思ってるから。
「……私と入りたくないんだ」
「えっ、いや、そういう訳ではなくて……」
「じゃあなんで?」
不満げな彩那さん、可愛いです。
「お風呂で襲われたくないでしょう?」
「うん」
先に断ったのは私だけど、即答されるとちょっとへこむ……いつかはお風呂でもえっちしたいな、とは思ってるけどこの感じだと難しそうかな……
「ですよね。じゃあ、やっぱり彩那さん先に……」
「お風呂はゆっくり入りたいから、ベッドでシてからなら一緒に入れる? ……きゃっ」
……なんて?? 理解した瞬間、彩那さんを抱き上げていた。
「早く寝てもらおうと思ってたのに、もう無理です。煽ったのは、彩那さんですからね」
足早に寝室に向かい、彩那さんをベッドに降ろして組み敷いて見下ろせば、両手を伸ばして私の頬に触れて、親指で唇を撫でてくる。
「紫音ちゃん、可愛い」
は? 可愛いのは彩那さんですけど? なんでそんなに余裕なんですかね? 私にはもう、余裕なんてない。彩那さんと居る時はいつもか……
「そんなこと言えるのは今のうちですからね。お風呂は朝入りましょうね」
「え? 朝……? ちょっと、まっ……んっ……」
早く大人の余裕を崩したくて堪らなくて、最後まで聞かずに唇を塞いだ。私が満足するまで付き合ってくださいね?
「20歳だもんねぇ……若いよねぇ……なめてた……」
「彩那さんだって若いじゃないですか」
「まぁね。まだ20代だけどね……」
「もう1回、出来ますか?」
「もういっかい? ……嘘でしょ? え? 本気で??」
うーん、これはどっちかなぁ……拒否と言うよりは、驚きの方が強いかな? あとは、多分眠いんだろう。目がトロンとしてきてるから。
「もちろん、本気です」
「もう寝かせて欲しいなぁ、なんて」
「じゃあ、少し寝てからにします?」
「あ、するのは決まってるのね」
「嫌ですか? 嫌なら、我慢します」
さすがにしつこい? 彩那さんが許してくれるなら、一日中だって触れていたい。でも彩那さんがもう嫌なら諦める。身体目当てではもちろんないし。抱き潰したあとだから説得力ないかもしれないけど。
「嫌じゃないけど……本当に1回だけ?」
「……それは彩那さん次第ですかね?」
1回だけ、と約束できないくらい、彩那さんの可愛さが異常。甘え方がツボ過ぎて理性なんて一瞬で飛ぶ。
「彩那さんが煽るほど止まれないので」
「うん。それは身をもって実感した……」
「ですよね。明日、いや、もう今日ですけど。何かしたい事ありますか?」
「ゆっくりしたい」
「はは、了解です。ゆっくり過ごしましょう。おやすみなさい」
「うん……」
ウトウトする彩那さんを抱き寄せて頭を撫でていれば、あっという間に眠りに落ちた。はぁ、かわいい……
普段はお姉さんなのに、ベッドでは甘え上手で翻弄してくるし、知れば知るほど好きになる。好きすぎて苦しくなるって本当なんだね。
ずっと眺めていられるけれど、まずは彩那さんのメイクを落とそうと離れれば、探すような仕草に愛しさが溢れる。すぐ戻りたくなるけど、彩那さんの為だし、我慢。
絶対、私の方が重いと思うんだよな……嫌がられないように程々にしないとなぁ、と思いながら彩那さんの綺麗な顔にメイク落としシートを滑らせる。
恋人の特権、って感じで幸せに浸っていたいけど、終わればいくらでも眺められるし、と手を動かす。
メイクを落として幼くなった彩那さんの寝顔が可愛すぎて頬が緩む。
布団に潜り込めば、彩那さんが擦り寄ってきてくれて、柔らかいしすべすべだし、ちょっとだけなら触ってもいいかな、と邪な気持ちが膨らむ。あぁ、早く朝にならないかなぁ……
「……しおんちゃん?」
「おはようございます」
「あ、うん。おはよ……っん、なにしてるの?」
目が覚めて、彩那さんが起きるのを待っていたけれど、目の前に裸の恋人が寝ていたら我慢なんて出来なくて、デコルテに唇を寄せていた。
「彩那さん、いいですか?」
「……?」
寝起きでまだぼんやりしている彩那さんの唇を塞げば、そっと背中に腕が回された。これは、OKってことでいいんですよね?
「紫音ちゃん、洗ってあげようか?」
「大丈夫なので、大人しくしていてください」
「はーい」
朝から彩那さんとベッドでイチャイチャして、朝ごはん兼お昼ご飯を食べて、彩那さんをお風呂に送り出そうとしたらいい笑顔で連れ込まれた。わぁ、積極的ぃ……
嬉々として私の服を脱がせようとする彩那さんから逃げつつ、絶対に後から入りますから、と約束をして先に入ってもらった。でも、私が先に入るべきだったな、と後悔。
湯船に浸かっている彩那さんからめちゃくちゃ視線を感じて落ち着かない……
「あのぉ、そんなに見られると恥ずかしいなぁ、なんて」
「私はもっと恥ずかしいところ見られてるんだけど……?」
「それはそう」
「ふふ」
私の即答に彩那さんが楽しそうに笑う。
妖艶な彩那さんを思い出してしまって、落ち着こうとシャワーを頭から浴びた。
「失礼しますねー」
「はーい」
「ちょっと、なんでそんなに近づいてくるんですか!?」
そんなに離れられないけど、なるべく離れようと端に寄ったのに身体を寄せてくる。
「そんなに嫌がらなくてもいいのに」
「嫌じゃないんです!! ただ、柔らかいのが当たってるんです!!」
くすくす笑いながら離れてくれた彩那さん、小悪魔……お風呂では嫌って念押しもされたし、なるべく見ないようにしている私の努力を分かってください……
「先に出ますね」
「え、もう? 入ったばっかりなのに」
「彩那さんはゆっくり入ってくださいね」
「待って」
立ち上がりかけた私の手が引かれて、彩那さんを見れば髪の毛をまとめていてうなじがむき出しで色っぽいし上目遣いだしがっつり胸を見ちゃったし……もう、いっぱいいっぱいなんですけど……深呼吸、深呼吸……
「はー、……なんでしょう?」
「もうちょっと一緒に入ろ?」
こんなこと言われたら出れないじゃん。出るのは諦めて座れば、嬉しそうに笑った彩那さんに座り方を指示された。あぁ、かわいい……がんばれ私の理性……
「心臓の音、凄いね」
「それはそうですよ」
「わがまま聞いてくれてありがと」
「……いつでも聞きますよ」
私にもたれかかって座った彩那さんが見上げてきて笑うから、私の返答なんてひとつしかない。
「紫音ちゃんって可愛いよね」
「可愛いのは彩那さんの方なんですって。何度も言ってますけど」
「頑張ってくれてるなって」
「それはもう、頑張ってます。頑張って我慢してるので、出たらご褒美くれますか?」
「紫音ちゃんの頑張り次第かな」
「全力で頑張らせていただきますっ!!」
「ふふ、頑張って?」
余裕たっぷりに微笑む彩那さんが妖艶でもう自信がなくなってきた……頑張れ私……!
ご褒美の為にも、耐えてみせる。
え、ちょっと、彩那さんそれはずるいです……出たら覚悟してくださいね!!
第3章 完
お読み下さりありがとうございました。第4章スタートまでお時間頂きます。
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