入学

Side:クリスティーナ

 とうとう待ちに待った学園への入学。私と同じように、制服を身に纏った人たちがゾロゾロと同じ方に向かっている。それならあっちがクラス発表される場所なのでしょう。


 同じように人の流れに身を任せていると、予想通りクラス発表が行われている場所に着いた。自分の番号が1組に書かれている事を確認して、教室に向かう。


 正直、学園には興味なんて一切ない。勉強もそれほど好きじゃないし、前世で十分と言っていいほど学校には通っていた。今更学園での生活を満喫しようなんて考えてもいない。

 ある事ができる事以外では……そう! お姉様と制服デート! あ〜、楽しみすぎる。馬車で寄り道なんかしたりして、ずっと一緒に。家には悪魔も帰って来たから、もっと時間を費やすのもありかも……


「……貴女、……ねぇ、貴女ってば!」

 

 うるさいなぁ〜、今いいところなのに……


「…………なんですか?」

「このワタクシが話しかけているというのに、なんて態度なのでしょう。ですが、いいです。ワタクシは寛大なので許して差し上げますわ」

「それで? 要件は?」

「くっ、ふぅ。同じ1組になったんだし、交流の場を設けようと思いまして……貴女が仲間ハズレになったら侯爵家のワタクシの責任になるでしょう? ですから誘ってあげているのですわ」


 なるほど、私を下級貴族と勘違いしているのか。確かに、私はアレのせいで社交界にはほとんど顔を出していない。だから、私の事を知らないのでしょう。しかし、そんな私ですら話しかけるというのは、この人はいい人なのでしょう。ですが――


「申し訳ありません。今日は先約があるので……」

「それは……ワタクシの誘いを断ってでも大事な事なのでしょうか?」

「はい!」

「……なっ!?」


 何を驚いた顔をしているんでしょう。私がお姉様を最優先するのは当たり前……って、そんな事知りませんよね。反省。


 むっ〜としている彼女を見て、せっかく誘ってくれているのに何も理由を言わないのは失礼かなと思った。


「お姉様と待ち合わせをしているんです。ですので、申し訳ありませんが本日はご辞退させていただきます」

「……姉とならいつでも会えるではありませんか!」

「何を言っているんですか! 制服姿のお姉様と一緒に帰るという貴重な時間が貴女にはわからないのですか!?」

「何を言っているんですの!?」


 ふぅ〜、これだから一般人は……。お姉様との日々の交流がどれだけ大事か理解できないだなんて……


「どこかの田舎貴族の姉よりも、ワタクシと交流を持った方が貴重だと思いますわ! それに、お姉様というのであれば、もっと素晴らしい人をお姉様と呼びなさいな」

「私のお姉様はとても素晴らしい人よ!」

「そうかしら? ワタクシの憧れのお姉様より素晴らしいとは到底思えませんわ」


 ぐぬぬと睨み合う2人。一色触発の状態になりつつあるなか、少なくとも一方を大人しくさせる人物の声が聞こえてくる。


「ティア、お待たせしました」


 その瞬間、クリスティーナだけでなく、彼女を囲っていた少女たちも皆一斉に声の主人の方を向く。その視線の主な感情は驚き。

 どうして此処に? そんな風に思っているのか容易にわかるほど、彼女たちはリリアの登場に驚いていた。


「ど、どうしてお姉……リリ……ローズ様が「お姉様!」……なっ!?」


 初めにクリスティーナに話しかけたは少女が怯んでいる間に、クリスティーナはそんな彼女を気にする事なく、最愛のリリアの胸に飛び込む。

 

「あ、貴女……」

「ティア、人前でこれはやらないと言っていたではありませんか」

「そんなこと言ってましたっけ? じゃあ嫌です」

「はぁ。もう、仕方ないんだから」


 クリスティーナは彼女が呆然としているのを確認して、リリアに甘えるような態度をとる。

 クリスティーナは聞き逃さなかった。彼女がリリアのことをお姉様と呼ぼうとしていたのを。だからこそ、こうやって人前では控えるように言われていたことを見せつけるようにしたのだ。


 それをさまざまと見せつけられた彼女はワナワナと震え、そして――


「ワタクシはスフィア•ヴィンセント。ヴィンセント侯爵家の長女です。どうか、私を……」

「私を?」

「私を、妹にしてください!」


 私は彼女の真意を見るために、彼女をジッと見つめた。

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