クラス

 学園生活の初日、一番初めに会ったのが最も嫌な人物でしたが、気持ちを切り替えて教室に居たのに何故か問題が向こうからやってくる。


「おいっ! コレはどうなっているんだ!」


 どうしてこうも私に関わってくるんだと言いたい。顔も見たくないならば来なければいいじゃないですか。ご丁寧に教室も違うんですから。そんなことを思いながらも一応相手は王族。丁寧な対応をしなければなりません。


「うるさいですね。何でもかんでも私に聞くのをやめてもらえませんか? はっきり言って迷惑なんですよ。あなたが私のことを嫌いなように、私もあなたのことなんて嫌いなんですから。それで要件はなんなんですか?」

「お前っ! 俺は王族だぞ! 不敬罪で死にたいのか!」

「不敬罪ですか? あなたに何を敬う事が? せめて陛下のような立派な人になってから言っていただけますか? それと要件がないならもういいですか?」


 ――あれっ? 丁寧に落ち着かせて対応するつもりなのに、なぜか思っている言葉だけが口に出てしまっています。引き締めないと。


「ちっ、まあいい。どうして俺が3組なのだ! お前の差金だろう!」

「「「ぷっ!!」」」


 教室の至る所で笑い声を抑えた声が聞こえてくる。目の前にいる私が我慢しているのですから、もう少し我慢してもらいたいものです。


 ――それにしても3組ですか……。


 この学園は成績順にクラスが決まります。そこには貴族の階級のようなものは存在しません。それは王族であってもです。ですが、本来、王族の家庭教師に教えてもらえればこの学園の問題などすぐに解けるはずなのですが……

 それにしても、2組には居ると思っていましたが、予想以上に愚かだったみたいですね。

 私? 私はもちろん1組です。王族の婚約者ですから、優秀な家庭教師に教えていただきました。


 話が脱線しましたね。目の前の人物は周りに笑われて顔が真っ赤になっています。また、私のせいだと怒鳴るのでしょう。


「お、お前さえいなければ、私だって!」


 ――私がいなくてもあなたの成績にはなんの関わりもないでしょうに。そんな頭もないから3組なのです


「「「「「「ぷっ!!」」」」」」


 あらっ? まさか、今のが聞こえてしまっていたのでしょうか? さっきよりも笑い声が多く聞こえました。


 自分が笑われているという状況に我慢ができなかったのか、拳を握りしめ振り上げる。


「このっ、生意気なんだよ!」


 王族は時として命を狙われます。だからこそ、剣術など武術を習っているはずなのですが、これもサボっていたみたいですね。

 子供のように勢い任せの攻撃。かわすこともできるのですが、どうして私がそのような面倒なことをしないといけないのでしょうか?


 殴りかかってきている男の腕を掴み、近くの机に男を叩きつける。


「ぐあっ」

「「「きゃー」」」


 くぐもった悲鳴と、甲高い悲鳴が数名分聞こえてくる。


 だからどうせ『やり過ぎです!』なんて言われると思っていたのに……、誰も何も言ってこない。その事に不思議に思っていると、先程悲鳴を上げた数人が私の前に来て頭を下げる。なぜ?


「申し訳ありません! 急なことにびっくりしてしまって」

「い、いえ……、あの、コレは気にしなくていいのですか?」

「えっ? 自業自得ですよね? そもそも、一生徒にクラスを決める権限はありません。それに、それをするならいくら公爵家の命令だとしても王族相手には実行しないでしょう」


 それはそうなのですが……。やったのは私ですが、誰も手を貸そうとしない。その上、自業自得とまで言う人も。やったのは私ですが、まったくもってその通り過ぎて何も言えませんね。


 それは彼にも聞こえているのでしょう。倒れながらも身体を震わせています。怒っているのでしょか? それとも惨めな姿を晒した自分を恥じているのでしょうか?

 これ以上、王族として恥を晒さないように姿を見せないでほしいのですが、子供に甘い陛下たちのことですから、そうもいきませんよね。


 そんなことを考えている間に一人で立ち上がり、私を見る。


「クソっ! 覚えてろよ!」


 そう言って立ち去って行来ました。ほんと、なんだったのでしょうか。


 まだ初日なのに酷く疲れました。こんな生活が続くことに軽く絶望するも、あの男とのやりとりを見るに、クラスメイトとは仲良く出来そうな気がします。


 そのことだけがリリアにとって唯一の収穫だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る