第34話 運命
「うーん」
シャープペンをノートの上に置き、大きく伸びをする。
掛け時計で時刻を確認すると、勉強を初めてちょうど一時間というところだった。
そろそろ、休憩するか。
「下行って何か取ってくるね」
「え? あ、お構いなく」
氷菓さんの返答に微笑を返しつつ、僕は立ち上が――ろうとして途中で止める。
音がした。誰かが階段を登る音だ。その音は次第にこちらに近付いてきて、ついに僕の部屋の前までやってきた。
母さんか?
そんな事を考えていると、コンコンと外から扉がノックされた。
「はーい」
「私。手が
声の主は母さんではなく、優雨さんだった。
僕は今度こそ立ち上がり、扉に向かい、内側からそれを開いた。
「勉強
そう尋ねてきた優雨さんの手にはお盆が持たれていて、その上には二人分のジュースの入ったコップとお菓子の入ったお皿が乗せられていた。
「すみません。お客さんにこんな事」
慌てて優雨さんの手から、僕はお盆を受け取る。
母さんも何を考えているんだ。
「あ、いいのいいの。私から言い出した事だから。ちょっと様子を見にね」
「はー」
なら、別にいいけど。
「少しお話いい?」
「え? あ、はい。どうぞ」
お盆を手にした僕が先に部屋に入り、その後に優雨さんが続く。
「何?」
優雨さんの姿を見た氷菓さんが、少し不満げな様子でそう尋ねる。
二人の仲が悪いわけはないから、逆に気の置けない相手だからこその、この対応なのだろう。
「邪魔しちゃってごめんね。色々な意味で」
「べ、別に、勉強しかしてないし」
本当に勉強しかしてないのに、氷菓さんのその言い方だとまるで別の事をしていたように聞こえ兼ねない。
変にフォロー入れても逆にややこしくなりそうだし、さり気なく話題を変えるか。
「両親とはどんな感じだったんですか?」
氷菓さんが勉強用具を隅に寄せてくれて出来たテーブル上のスペースにお盆を置きながら、僕はそんな事を優雨さんに聞く。
まぁ、元々聞きたかった事だし、話題の転換としては別段不自然な点はないだろう。
「別に、普通に世間話をしただけ。主に、お互いの『子供』についてね」
そう言って優雨さんが僕達に、ウィンクをしてみせる。
「「……」」
優雨さんのその言い方だと、勝手に話の中心にされた当の『子供』達にとっては、あまり耳にしたら楽しくなさそうな話をしていそうで、どうも反応に困る。
「ねぇ、晃樹君」
「うわ」
なんの予兆もなく、急に優雨さんに距離を詰められ、僕は思わず後ずさる。
「何するの」
「うぉ」
そして、いつの間にか立っていた氷菓さんによって、そちらに引き寄せられ、更に驚く。
耳元で氷菓さんの声がして、
「いや、晃樹君の顔、どこかで見たなって。しかも、相当昔? 小さい頃、とか」
「そりゃ、そうでしょ。小さい頃、実際に会ってるんだから」
「「え?」」
氷菓さんの何を当たり前の事をと言いたげなその言葉に、僕と優雨さんは同時に驚きの声を上げる。
「会ってる? 僕と優雨さんが?」
確かに、どこか既視感のようなものを感じないでもないが、それは氷菓さんと顔が似ているからだとばかり思っていた。
「というか、私達三人が、ね」
「どういう事?」
僕の気持ちを代弁するように、優雨さんがそう疑問の声を上げる。
「
「うん。確かに」
あぁ、やっぱり。夢で見たあの女の子は氷菓さんだったのか。
「行った事あるって言うか、氷菓の家とウチの家で一緒に行ったのよね。それで氷菓が迷子になって……。え? 待って。まさか、その時の……」
「そう。その時の、一緒に迷子になってた男の子がこの晃樹君」
「えー!?」
先程の比じゃない程に驚く優雨さん。
僕もあの迷子の記憶がなければ、彼女と同じリアクションを取っていた事だろう。
「待って。って事は、氷菓の言ってた運命の人も……」
「もちろん、この晃樹君よ」
言って、氷菓さんが僕を再度抱き寄せる。
耳元で――以下略。
「マジか……」
余程の衝撃的だったのか、優雨さんのテンションが逆に低くなった。
驚き過ぎると人は、逆に大きな声を出せなくなるらしい。
「というか、運命の人って?」
前世の記憶と関係した話なのだろうか?
「氷菓が公園から帰る間際に言ったのよ。運命の人を見つけたって。まぁ、子供だし、迷子になって心細い思いしたら、一緒にいた男の子を好きになる事ぐらいあるかなってその時は思ったんだけど……。まさか、実際に数年後にその子と付き合うとは……」
衝撃の事実に、優雨さんは感動するどころかむしろ引いていた。
無理もない。氷菓さんの性格を考えると、僕と彼女が一緒の高校に通っている事は運命などではなく必然。つまり、氷菓さんが僕の入学する高校を事前に調べ、あえて被せてきたのではないかとすら思える。
まぁ、今更僕はその程度の事では引かないけど。
「じゃあ、アレは前世のお兄様って言うのは……」
「……もちろん、この方よ。ね、お兄様」
「ははは」
この状況、もう笑うしかなかった。
二人きりの時にお兄様と呼ばれるのはもう気にしないようになったが、人にそう紹介されるのはさすがに抵抗がある。
「晃樹君、頑張ってね」
「はい。頑張ります」
「うふふ」
そんな中、氷菓さんだけが一人、満面の笑みを浮かべており、その様はひどく対象的だった。
……まぁ、可愛いので良しとしよう。
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