客人
少しだけ二人で森を散策し、食べられる山菜やキノコを採り子豚を狩った後、また来週も会う約束をしたハンターはようやく山を降りた。
やはり、時折若い女に見えてしまい、ドキマギしたハンターだったがおかしな行動は取っていないはずだ。山神様が見ていると思うと、もちろんおかしなことはできないし、自分が、リジーにかなり入れ気味になっていることも自覚しているせいで、後ろめたい気持ちがなきにしもあらずだ。
「絶対言えないな…」
「何をだよ?」
ひとりごちたハンターの後ろから、突然返事が返ってきて、ハンターは驚くあまり30センチほど飛び上がってしまった。
「ばっかやろう、脅かすな!弓を構えるとこだったじゃねえか!」
「ブハハハハ!お前がとびあがんのなんて、初めて見た!ばあちゃんと会えなかったのか?」
木こりのジャックだった。ジャックとハンターは年が近く、村の二角の守りと言われている存在だ。仲はいいが、憎まれ口も聞くし、殴り合いの喧嘩もちょっと前まではよくしていた。二人とも血の気が少々多いのだ。だが、村ではエルマや長老、そのほかの
「会えたよ。すっげえ元気にしてた」
「やっぱりなぁ。じっちゃん達があの方は山神様の愛し子だとか言ってたぞ」
「愛し子…」
「つってもあんなばあちゃんじゃ、どっちかっつーと魔女様って感じだけどなぁ」
「……」
やっぱり誰にも言えない、とハンターは思う。
実はリジーが若い女だったらどうする?なんてジャックに言おうものなら、次の面会についてくるに違いない。うん、絶対極秘だ。
「で、なんだ、今日は結構狩りができたのか?」
「ん、あーいや、リ…ばあちゃん魔女の家を見つけてな、万能薬葉樹のはとか、実を持って来てくれたんだ」
「は?」
「だよなー。だから急ぎ、長老んとこ行こうと思ってさ」
「ちょ、待て待て待て!万能薬葉樹ってあの、魔女の薬って呼ばれるあれ?」
「俺も現物見るの初めてだから、本物かどうかわかんねえけど」
「うっわ…しかも何枚あんの、それ?」
「え、十枚くらいかな。あとこのオレンジの実も薬葉樹の実だって」
「そ、それ不老不死の神の飲み物……」
興奮してるのか恐怖に慄いているのかジャックは震え出し、ハンターの背を押しながら慌てて街へと戻っていった。
村に戻ると、村の連中が長老の家の前に集まり何やら騒がしかった。
「なんだ?」
どうやら王都から誰かが来たらしい。
「また罪人か?」
「いや、罪人はあんないい馬に乗ってこないだろ?客かな」
言われてみれば、村の入り口に繋いでいる馬はちょっと疲れているがツヤもよく体も大きい軍馬のようだった。
「おお、ハンターいいところへ帰ってきた。ちょっと来てくれ」
遠巻きに見ていると、ハンターに気づいた村人に呼ばれ、長老の家に招き入れた。
「ああ、ハンター。ちょうどいい。こちらの御仁にご挨拶を。彼らは我らが同胞、クゥエイド公爵ご夫妻だ」
「クゥエイド?」
村の伝承に出てくるヴェルマニアの使者だったあの人か?
「どうも。ハンターです」
「ああ、ブルマン・クゥエイドとアリサ・クゥエイド、エリザベス・クゥエイドの両親だ」
「エリザベス・クゥエイド?」
「ばあちゃんのご両親よ、ハンター」
「…はぁ?え?ばあちゃんって、リ…いや、あのばあちゃん?」
エリザベス・クゥエイドって、え?じゃあリジーはやっぱり貴族の娘だったのか!
「今、王都は壊滅状態で大変な騒ぎになっているらしい。それで、この公爵ご夫妻は爵位を返上して娘さんを探しにここまでやって来たということだ」
「む、娘は、エリザベスは無事なのですか?あなたが今日山へその確認のために入られたと聞きました。お願いします、娘を、娘に合わせてください!」
母親のアリサがハンターに縋りついた。緑色の瞳に細いラインの顔。似てると言えば似ているのだろうか。瞳の色は父親のブルマンが同じ金色をしていた。
「ばあちゃんは、いえ、その。娘さんは無事、と言えば無事です」
「無事といえば、無事?それはどういうこと?怪我でもしているということ?」
「いえ、怪我もなくピンピンしてました。今日はカモを三羽と木の実と、あ、そうだ長老!これを預かって来ました」
ハンターは思い出したように、背負いカゴを降ろして万能薬葉樹の葉と実を差し出した。
「こ、これはっ!?」
長老が腰をぬかしながらも籠ににじり寄り、震えながら手を伸ばした。
「おおっ、おおっ!まさしく!魔女様が蘇ったのじゃっ!」
リジーの両親をそっちのけで、長老が大声で叫んだ。
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