第72話

 

 時間の感覚さえわからず、一日経ったのか、それとも数時間経ったのか、頭が働かなかった。僕は抱きしめられたまま、涙がこれ以上出ず、落ち着いてきていた。ただ、何も考えたくない程、気持ちが沈んでいた。気持ちを整理し、立ち上がるための時間を与えてくれないのか、遠くで爆発音がした。

 

 また爆発音がし、連続的に爆発音がしていった。

 

 地面が揺れ、さらに爆発がし、今度は今いる場所の下の方からしたような気がした。地面の揺れが今までと違い何か大きく、水路に落とされた時のような不安がよぎった。このままだと危ないと感じ、僕たちはふらつきながらも立ち上がり、涙を拭った。

 

「こ、ここを出よう……このままだと危ない」

「ムッツーと、タ、タッツーはどうするの?」

 ハルミンが震える声で僕に、マナチ、ツバサ、ジュリに聞いた。僕たちはハルミンの問いに答えられず、顔を逸らす事しかできなかった。誰もが悲痛な表情だった。

「そ、そうだよね……も、もう死んじゃってるもの、ね。うぐっ、ひぐっ……」

 

 僕はなんて声をかけていいのか、何も言葉が出なかった。また何も出なかった。

「い、生きよう。二人の分、生きよう……」

 マナチがハルミンに声をかけていた。

「うぐっ、うん」

 ハルミンが頷くと同時にまた爆発がし、僕たちはその場でよろめいてしまう。

 

「い、いったんこの施設から出よう」

 

 揺れた時に、ハルミンはムッツーとタッツーが入っている円状のケースに触れていた。ハルミンは円状のケースに入った二人を見ていた。

 

「ヨーちゃん、ハルミン出よう!」

 部屋の外でマナチが言った。

「ハルミン?」

 ハルミンが円状のケースを見ながら何かをつぶやいていた。

「え、何!? リジェネイト?」

 ハルミンがこぼした言葉が僕には聞こえたが、それがどんな意味を持つのかわからなかった。僕は彼女がいった言葉が聞きなれない単語だったので何か聞き間違えたのかと思った。あとで何を言ったのか聞けばいい、今はここから脱出することが先決だと思った。

「ハルミン、行こう」

 僕は彼女の手を引き、部屋から出て、待っていたマナチたちと合流した。

 

 地上に出る階段の方へ進もうとすると、地面が大きく揺れ、僕たちはまた落ちてしまった。

 

 一瞬の浮遊感の中で、僕たちが落ちた先はさっきの居た場所よりもさらに下の大きな部屋に落ちたようだった。天井が高く、登れそうにもない大きな部屋で周りにはコンテナや檻のようなものが置かれていた。人工筋肉と人体強化のおかげか、高いところから落ちたというのにうまく着地し、どこもケガをしていなかった。

 

 マナチ、ハルミン、ツバサ、ジュリもうまく着地できた事と地面が崩れて無事だったのに驚いているようだった。

 

「みんな、だ、大丈夫か?」

 僕が声をかけるとそれぞれ返事をしてくれた。

「地上を目指そう、この施設に長くいると生き埋めになりそうな気がする」

 みんな頷き、今いる倉庫のような所から出口っぽい扉へと向かった。扉を開くと上の階と同じ通路だったため、階段の場所も同じだろうと歩いてみると一向に見つからなかった。

 

 通路を進んでいくと扉があり、そこを開くと大きな別の倉庫だった。その時生存確率が下がっている事に気づき、僕は首を振って別の道を探そうと周りに伝えた。入り組んでいないものの、扉を開けようとすると生存確率が下がるため、下がらない扉を探すと通路の奥にある場所に行きついた。

 

 僕は多分ここに地上に出る階段があると思い扉を開くと、そこは誰かの部屋だった。

 

「ここに何があるんだ?」

「ヨーちゃんの生存確率もここだって示したんだよね?」

「ああ、みんなもか?」

 みんな頷き、そして首を傾げた。

「もしかしたら、何か知るべきことがここにあるかもしれない。案内図とかあるかも?」

 僕たちはその部屋を物色する事にした。

 

「じゃあ、私はこのパソコンを調べますね」

 ツバサが慣れた手つきでこの部屋の人のパソコンを触り始めた。

 

 部屋はそこそこ広く、オフィステーブルにオフィスチェア、応接テーブルにソファが二つ、側面には書類や本が入っている棚があった。机の上にパソコンが置いてあり、今はツバサが操作して中身を見ていた。ツバサ以外は、書類や本などを物色し、この施設の案内図がないか探していった。

 

 探している最中にツバサが僕たちを呼んだ。

「この部屋、シュシャの仕事部屋です。パソコンのな、中に動画がありました……瓦礫の山の時の動画が……」

 僕はあの場所で本当は何が起きたのか、アーネルトが言っていた事以外に起きた出来事はなんだったのか、知るためにここに何者かに導かれたんじゃないかと思えた。

「ど、どど、どうしますか?」

「見よう、僕は知りたい。知って――」

「知ってどうするの?」

 マナチが悲しい表情をして僕を見ていた。

「わからない、けれど知らないままだと、前に進めない気がしている。ちゃんと知って、それで考える」

 

 僕はあの時、あの場所で、ああしていればよかったと後悔をしたいのだろうか、過去に戻れるのなら、最善の選択を出来るようにしたいからなのか、だから、知りたいと思ったのだろうか?


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