第64話
アビリティ・スキルによって自分の身体が強くなれると思うと少しだけ安心した。それと同時に元の世界に戻った時に今までの生活に戻れるのかという不安もあった。
「ツバサ、ジュリ、これって僕たちもハルミンのように強くなれるってことか?」
二人は、アビリティ・スキルを表示させ、僕が言った人工筋肉と人体強化を読み解いていった。
「確かに、でも、これは……」
「うっ……」
二人が言い淀む理由が何か、僕にはわからなかった。きっと僕には見えない説明文が表示されたんだろう、と思った。
「二人とも何が書いてあったんだ?」
「このスキルを使用した場合、身体の成長が止まると書かれていました」
ツバサはうつむいていた。胸を気にしているのか……確かにその控えめだが……?
「せ、成長が止まる……」
ジュリは項垂れていた。この中で一番身長が低く、童顔で、中学生に見えなくもないからだ。
「な、なるほど」
僕は言葉が出なかった。下手な慰めは人によっては、心の傷を抉る。まして僕の守備範囲は問題ない、マナチに惚れているが、友人以上恋人未満ならと言ったらぶち切れられる。
「ね、どうしたの?」
マナチが僕らの会話が気になったのか、話に参加してきた。
「新しいアビリティ・スキルの事で話してたんだよ。人工筋肉と人体強化というスキルがあって、そのスキルを使うと身体の成長が止まってしまうんだ」
「え、ずっと若々しくいられるってこと!?」
その発想はなかった。
「なになに? なんの話?」
ハルミンは両手に銃を持ってきた。
「ハルミンはもう人工筋肉と人体強化しているから知っておいた方がいいと思うけれど、そのスキルを使う事で身体の成長が止まるんだって、つまりずっと若いまま!」
「え、何それ? サイキョーじゃん!」
「ね!」
マナチとハルミンは二人でキャッキャしていた。
二人の明るく振る舞っている姿を見て、僕は元の世界に戻った時に、今までの自分でいられるのかという不安が薄れた。もうすでにこの世界で経験したことは無くならないし、どんな事があろうと元の知らない自分に戻れない以上は前に進むしかない。
「ん、ヨーちゃん? 大丈夫?」
「ああ、あのさ人工筋肉と人体強化、僕はスキルを使用しようと思うんだ。これから何が起きるかわからないし、少しでも生存確率を上げて、生き残って、元の世界に帰りたいから……」
「ヨーちゃん……」
「だ、ダメだよ! ヨーちゃん! さっきはサイキョーとか言ったけれど、成長止まっちゃうんだよ? 元の世界でまともな生活はできないよ、ダメだよ。そんなのダメだよ!」
ハルミンが全力で止めにきた。
「見てよ、これ両手にさ、銃を持っても疲れないの……今まで重くって持てなかった私の銃も、ほら簡単に持てちゃうんだよ? こんなの人間じゃないよ」
両手の銃を軽々と持ち、それを消した後にハルミンの固有の銃である重機関銃の重量型中型機関銃禄弐式を片手で持っていた。片手で持っていて、身体が全くブレずにいた彼女は人間ではないのは明らかだった。
「でもさ、死んだらおしまいだろ……僕はみんなで元の世界に帰りたい。それにハルミン、君は人間だ」
僕はアビリティ・スキルの人工筋肉と人体強化のアビリティ・スキルを使用すると意識した。
「あいっっった!」
あまりの突然の痛みに声を出してしまった。全身がめちゃくちゃ痛かったが、それは一瞬の事だった。ビリッと電気が走ったような、筋肉痛になった時の痛みに似た衝撃が走った。僕はその痛みの後に身体を動かし、特に何か変化したのを感じられずにいた。手と脚を動かしてみて、違和感がなく、本当に変わったのかと疑問に感じた。生存確率は50%だったのが60%へと上がった。
「え、ヨーちゃん……」
「人工筋肉と人体強化を使った」
ハルミンが泣きそうな目でこちらを見ていたので、僕は笑いながら答えた。
「痛かったのは一瞬だったけど、生存確率は60%になった」
「んもぅ、バカ」
ハルミンはまんざらでもない笑顔をしていた。
「む、なら私もするし! ヨーちゃんだけかっこいい所もっていくのはずるい」
「いや、マナチはしなくても――」
「私もします」
「わ、私も!」
ツバサとジュリが声を上げたと思ったら、二人してそのあと悲鳴を上げた。
「イッッッタァァア!!」
「ひぎゃあああ!」
マナチは二人の痛がりように、少し引き気味だったように見えた。
「マナチ、無理しなくても……」
僕はマナチに心配して、声をかけたが、意思は強いのか深呼吸していた。数秒経ったのか、みんなが見守る中で彼女は人工筋肉と人体強化のアビリティ・スキルを使用した。
「ふぎゃあああ!」
ふぎゃあって、思わずツッコミを入れそうになった。
「大丈夫か? マナチ?」
「大丈夫、もう痛くない。これすごいね……今着ているこの装備、全然重くない」
そう言うと彼女はその場でぴゅんぴょんと跳ねたりした。その増備って重たかったのかと改めて知った。厚ぼったいのを着ている割にはみんなと同じように動いていたから軽いものだと思っていた。
「み、みんな……」
ハルミンはアビリティ・スキルを使った僕たちを見ていた。
「仲間だろ」
僕がそう言うと、ハルミンは下を向いてしまった。かすかに彼女の顔から涙が落ちた。
「ありがと、ありがとう」
彼女は笑顔になった。僕たちは新たな力を得て、地上を目指す事にした。あれ、そういえばこの人工筋肉と人体強化したら、イチャイチャ行為ってどうなるんだろう……とぼんやり思った。
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