第22話

 僕は彼女がグイグイくるのが苦手だった。という話だけではなく、何か奇妙な感じがあり、距離を置きたいと思えた。言葉ではうまく説明できないが、何か苦手だ。性的にこうアプローチをかけられても多分、僕は遠慮してしまうというか逃げる。

 この逃げるというのは、生理的に無理に近いのだけど、今まで振り返って考えてみるとそういうシチュエーションもありだなと思っていた頃もあった。そして実際に妄想してみると別に問題はない。

 

 つまり、僕はこのアカネをただ苦手としている。

 

 廃墟の街をアカネと二人で歩いている中で、僕はクリスベクターカスタムの銃を常に出しっぱなしに、何かいきなり出てこないか警戒していた。

「ヨーちゃん、大丈夫だよ。ここ一帯はなにもいないよ?」

「そ、そうか。ちょっと廃墟の街って何か怖くてさ」

「あ、わかるわかる。私も最初そうだったしぃ」

「そういえば、アカネの仲間は心配してないのか?」

 彼女が一人で、しかも遅くまで付きっきりの状態は、仲間を心配させるのではないかと思った。

「大丈夫大丈夫、あたしネズミ殺せるから見てきてくれって頼まれたんだもん。それに私だけだからね、ネズミ殺せるの」

「そうか、ありがとう」

 普通に暮らしていたらそもそも動物を殺す事を受け入れて日常的に出来るような人はいないと思った。ネズミの駆除を仕事にしている人でさえ、今日の僕のように銃で殺しまくったりしないだろう。アカネは僕が思ってるよりもカースト上位の嫌な奴ではない気がしてきた。

 

 でも、なんか苦手なのは変わらない。

 

 +

 

 何十分か歩いてると廃墟の学校に到着した。建物を実際に目にすると門はあるものの、開けっ放しの状態だった。グラウンドは土ではなく、ひび割れたゴム製のグラウンドだった。ひび割れた場所から雑草なども生えてなかった。

 二階部分の一室が明かりがついており、多分そこにいるのかなと思った。窓ガラスもなく、カーテンもないため、わかりやすかった。

 

「仲間がいるといいね」

 アカネは防護マスク越しでもわかる笑顔で僕を励ましてくれた。

「ああ、そうだね」

 これでマナチたちじゃなくて別の人たちだったらどうなるんだろうか、と不安がよぎったがあの場所からそう遠くない所でわかりやすく明かりがついてるのなら、マナチたちだろうと思った。ていうかあってくれ。

 

 僕たちは、グラウンドを通り、廃墟の学校に入っていった。下駄箱置き場があると思ったけれど、そういったものは一切なく、棚とかもない。ドアすらもないのだから、作り途中のまま放置されたような状態だった。この廃墟の街を歩いている時もそうだったが、同じ時期に同時に作られて、そのまま廃棄されたようだった。

 

 僕たちは二階に上り、明かりがある部屋を目指した。

 

 廊下や中は薄暗いが、問題なく歩けた。外からの光りが全体的に真っ暗にさせないで薄暗さを保っていた。あの遠くにある光りは一体何なんだろうと改めて思った。

 

 明かりがある部屋に近づいていくと声が聞こえてきた。僕はその声に聞き覚えがあり、段々と何を話をしているのか聞こえるようになった。

 

「助けに行こうよ!」

 マナチが誰かを助けに行こうとしているのがわかった。

「――」

「わからないじゃん! 生きてるかもしれない、それにあの時、一緒に戦えばよかった……戦えるのに、ヨーちゃんだけ任せて、戦えばよかったんだよ」

「――」

「私、一人でも行く!」

「おい、勝手な行動はするな! 今は助け合っていかないといけない!」

 

 なんだが、白熱して声もあらぶりがうかがえた。ここで実は僕生きてるから喧嘩しないで仲良くしようよとか参上するほど、僕はコミュ力高くない。

 

「知らない!」

 

 マナチが明かりがある部屋から飛び出してきた。まさか飛び出してくるとは知らず、廊下でお互い目がばっちり合った。

 

「ひゅえ?」

「あ、ただいま?」

 僕は銃を持ってない方の手を挙げて、ひらひらとさせた。厚ぼったい防具をつけ、泣きそうな顔をしてるマナチだった。

 

「ヨ、ヨ、ヨ……」

 動揺しすぎてマナチが固まっていた。

「おい、マナチ――って、ヨーちゃん!? 生きていたのか!」

 死んでねぇよ、いや死にそうだったよ。ムッツー、もっと喜んでくれてもいいんだぞ。

「ん、なんとかな」

 僕はクールに答えた。

「その子誰?」

 マナチが冷静になったのか、僕の横にいるアカネを見ている。

 

「ああ、この人はアカネ。途中で助けてもらったんだ。この廃墟の街に詳しくて、ここに来れたんだ」

 自分で言ってて、なんか説明が下手だなと思った。あとマナチがなんか怖い。

「ふぅ~ん、アカネさん……ヨーちゃんを助けてくれてありがとう」

「ふふん、いいってことよ。ネズミを殺してる人は仲間だしね!」

「ここで話すのもなんだし、中で話さないか?」

 

 ムッツーに言われ、僕たちは部屋に入った。そこにはタッツーに引っ付いているハルミン、身を寄せ合ってるツバサとジュリがいて、みんな無事だったことに安堵した。

 

「その子はどなたかしら?」

「あたしはアカネ、よろしくね! ヨーちゃんがネズミを殺してたから、一緒に殺したんだ!」

「そ、そうヨーちゃんを助けてくれてありがとう」

「んじゃ、私そろそろ帰るねっ! 明日またくるね、この廃墟の街を案内するよ!」

「え、ええ?」

 タッツーもどうやら彼女のノリについていけてないようだった。よかった、僕だけじゃない。

 

「そのアカネ、ヨーちゃんをありがとう」

 ムッツーがアカネにお礼を言った。

「えっへへ~、いいってこと! それじゃまた明日くるね、それじゃ!」

「あっ」

 ムッツーが何か言う前にアカネは部屋から走って出ていった。

 

「え、えーっと……ただいま?」

「おかえり!」

 マナチが抱き着いてきた。厚ぼったい服、というかガッチガチな防具が身体にあたったが嬉しかった。


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