第20話

 どれくらい時間が経ったのかわからないが、ネズミの群れは橋の下へなだれ込み続けていた。瓦礫の山のほとんどは火に包まれていた。僕たちは呆然と瓦礫の山だった場所を見ていた。

 

 その場から遠く離れようという気持ちがわかなく、どうなってしまうのかというのを見ていた。不規則だった爆発が次第になくなると、ネズミの群れが途切れたのだった。

 

 その後に人影が二つ現れ、二人とも銃を持っているのが見えた。

 

「え、ひ、人?」

 僕は思ったことを口に出していた。それほど、意外性があるような事でもなくちょっと考えればこれは人為的に誰かが起こした出来事なのに、驚いてしまった。僕たち以外にアビリティ・スキルを持っていて、爆発物を召喚できるのなら、いくらでもやりようはあるからだ。

 火の裂け目から出てきた二人は、遠くて男か女かはわからないが、自分たちと同じような装備をしているのだけはわかった。

 

 生き残った人もいたが、この惨状を巻き起こしたのはそいつらだと思った。

 

 二人のうち、一人が何か言うともう一人が銃を構え、あたりに何かを撃ちだした。するとあちこちで爆発が起こり、炎が散乱した。もう一人は何か投げた、そのあとに爆発と火が巻き起こった。そして、明らかに爆発や火に巻き込まれているはずなのに、まったくの無傷で立っていた。

 

「どういうことだ? なんで二人は何ともないんだ?」

 僕は自分の唇を触りながら、口から漏れ出した言葉に夢でも見ている気分になった。

 

 二人は橋の下にも投げ込んだり、撃ったりし、爆発と火を拡大させていっていた。

 

 その爆発と火の光で橋の下が一瞬見え、それが大量のネズミだとはっきりとわかり僕たちは後ずさった。対岸沿いの人は、歩きながら投げたり、撃ったりし、誰がいようといまいと関係なしにあたりを爆発と火で満たしていっていた。

 

「焼夷手榴弾?」

 ツバサはそれが何か知っているようだったが、僕にはただ恐ろしい何かでしかなかった。

 

「もう、やだぁ……ううぇ、ううっ」

 爆発と火によって、橋の下のネズミが焼き殺された臭いが漂ってきていた。ハルミンはそれを嗅いでしまい、ほかの僕たちは顔をしかめていた。

「防護マスクをつけるんだ」

 僕はみんなに言った後に、防護マスクを装着した。

「とりあえず離れよう……あの明かりの方へ行こう。何があるかわからないがここは危険だ」

 ムッツーは絞り出すように防護マスクをつけた後に言い、その場から離れていった。それに続くように他の人もついていっていた、僕は対岸で起きた事をもう一度見て、橋の方を見た。こちら側に繋がっているので、ネズミの群れが来るのではないかと思ったからだ。

 

 何匹かわからない黒いうねりがそこにあり、僕は顔をしかめた。もっと早く気が付くべきだったと思い、銃を構えた。だが、引き金を引く前に伝えなければいけないと感じた。

 

「ムッツー、ネズミの群れが橋を渡ってきている! 光りの方に早く逃げるしかない! 僕は食い止める!」

「なんだと、くそっ! いや待て食い止めるって?」

「銃がある、それでやるしかないだろ」

「だけど――」

「いいから行け、あとから追いつく」

 

 僕が橋の方へ行くと、ネズミの群れはまだ橋を渡り切ってないことがわかった。

 

「段数無限、どこまでできるかわからないけれど、やるしかないだろ」

 

 僕はクリスベクターカスタムの引き金を絞り、スススッという音と共に銃弾が発射され、ネズミの群れたちを肉片にしていった。どこまで立ち向かえるのか、わからないが後ろに下がりながらネズミの群れに向かって撃ちまくった。幸いにも弾が無くなっても一呼吸すれば、弾は復活するので撃ちまくる事が出来た。

 

 ネズミの群れの勢いは止まる事がなく、次第に橋を渡りきるのも時間の問題だと感じ始めてきた。どのくらいネズミを殺したのか、わからないくらい撃ちまくった。最初は行けるかもしれないと思っていたが、このままでは厳しいと思えた。

 

 だが、その時うしろから何かネズミの群れに向かって放り込まれたのを見た。放り込まれた後に、ふしゅーと勢いよく煙が漂うと、ネズミの群れの勢いが止まったのだった。そして次々と投げ込まれ、もうもうと煙が漂って、そこからネズミは出てこなくなった。

 

「キャハッ、君危なかったね! でもすごぉい! ネズミ倒して偉い!」

 

 声がする方を振り向くと部分的に赤に染めているツインテールの女がいた。あ、こいつメスガキだと思ったが口に出さなかった。

 少し釣り目で、恰好もエロさをわかってるような着崩したコーデだった。防護マスクもしていて牙がはえているような攻撃的なマスクをしていた。身長と同じくらいだと思ったら、かかとがあるごっつりしたブーツを履いていた。

 

「君は?」

「アカネ、君は?」

「ミドリカワ ヨウ、ヨウでいいよ」

「そ、ヨーちゃんって呼ぶね。よろしく! 一人?」

「いや、仲間がいる。ネズミを足止めしていたんだ。助かったよ」

「キャハッ、べっつに~全然楽勝だから気にしないで、なんか音がするなぁと思って見に来たら大炎上してるんだもん。草、マジ草でネズミどもザマァ」

 

 僕はこの人とは仲良くなれそうにないなとカースト底辺センサーが告げていた。


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