第12話
僕とムッツーは来た時と同じように瓦礫の山から戻ることにし、広場から瓦礫の山を登ろうとした時だった。
「ん……ん?」
「どうした?」
僕は瓦礫の山の中から、小さな反射するものを見つけ、目を凝らした。するとそれはレンズだと気づき、瓦礫を丁寧にどかしてみるとそこにあったのは携帯端末だった。
「携帯があった」
「本当か」
「うん、とりあえずここから離れてから見てみよう」
きっとこれは盗撮されていたものだと僕のセンサーが反応した。だが、冷静に考えてみればこの状況にいたったグロ動画が入ってる可能性もあると思った。なんてこった、罠だ。
僕は携帯端末を服のポケットにしまい込み、ムッツーと二人で瓦礫の山を登り、大量のネズミの死体がある付近まで戻ってきた。ポケットの中から携帯端末を取り出すと、電源が生きている事がわかり画面に時間と日付が表示された。
ただ日付の部分だけ0月0日(0)と書かれており、バグっていた。気にしても仕方ないので、画面をスワイプしてみるとロックが解除され、ビデオカメラが録画状態になって立ち上がった。
「……これ……録画されていたってことか……」
「もしかしたら、何が起きたのか見れるかもしれないな」
僕たちは、録画ボタンを停止し、録画されていた動画を見る事にした。最初にセットされた状態では、この携帯端末の持ち主であろう女性が出てきて、瓦礫の山の中に隠して設置するところからだった。ただ暗くて設置した人の顔などがわからなかった。
「夜中に設置してたのか……?」
録画されている風景は薄暗くはあるものの、テントなどは見えていた。夜中であるためか、何も起こらないままだった。
「早送りしてみる」
僕は明け方あたりまで早送りにして、録画されている再生時間が約九十時間あることがわかり、ムッツーと顔を見る。
「私が知ってる携帯端末はこんなに長く録画なんてできない」
「これは誰かのアビリティ・スキルか?」
僕は、指でスクロールし、何か起きた時間帯を探した。もしかしたらみんなで裸祭りでも始まらないかなと期待していたが、あの惨状からさすがにないかと思った。いや、まだ諦めるのは早い。この端末の動画ファイルがこれだけとは限らないから、もしかしたらエッチな動画があるかもしれない。
動画をスクロールしながら早送りをしていると、突如おかしな状態になった時間帯があるのを見つけスクロールした指を止めた。
それは昼時、配給のように大鍋で何か汁物を器に入れられ、各自に配られ食べた後の事だった。後片付けをしている中、それぞれが思い思いに時間を潰してるところで一人、二人と苦しみだし、倒れていったのだった。そして、片付けをしていた一人だけが生き残っていた。
という内容だった。
そして、 周りが苦しんで倒れているのを後片付けをしている人が周りを見て、混乱しており、頭を抱えていた。その場でしゃがみ込み、体育座りのような状態で耳を塞いでいた。
そのまま時間が経って、座っていた人は立ち上がりあたりを見渡し、首を振り頭を抱えながら、ふらふらと汁物に手を付け、食べていた。しばらく食べていたが、何も起こらず、食べたものを吐き出したのだった。
どうして?どうして?なんで!?なんで!?という声が携帯端末から聞こえ、そのあとただ私じゃない、私じゃないという声が続いた。
「これはこの人のアビリティ・スキルによって助かったということか? でもアビリティ・スキルは共有されるが……どういうことだ?」
「共有されてなかったんだ、彼女だけ仲間外れにされていたんだ」
僕は動画見ていて彼女だけ、一緒に食事を周りと食べておらず、皆が食べ終えてから一人で食べ、片付けをしていた。そしてそれを誰も手伝おうとしていなかった。そして、その人がこの携帯端末を設置した当人だと思った。きっとこの子はボッチでかついじめられていたのだろう。
そして、その後、瓦礫の隙間からネズミが一匹、二匹と現れ、近くの倒れた死体に群がっていった。
ネズミが出てくるとその子はネズミから逃げるように広場の出入り口の方へ逃げていった。ネズミたちはそれを気に留めず、食中毒で倒れた人たちを貪っていた。
「どういうことだ?」
ネズミは生きている人間を襲わず、死んだ人だけを襲うのか?
「ヨーちゃん、どういうことって……うっ」
ネズミたちが死体を食べる描写があまりにもグロかった為、ムッツーがうめき声を上げていた。吐くなら防護マスク外した方がいいぞ、と思った。
「あの大量のネズミの死体が入口にあったが、この動画だと数が合わない……」
瓦礫の中から大量にネズミが出てきているものの、地面を覆いつくす程でもなく、死体一つに数十匹程で各死体にそれが群がっていた。そして、ネズミたちがほどなくして苦しみだし、その場でネズミ同士で共食いをしだした。
すると携帯画面からは見えないが動画から悲鳴が聞こえ、来ないでという声のあとで嫌ぁぁぁという悲鳴があがった。
「生き残った一人が大量のネズミのやっつけた……?」
ムッツーが希望的観測で言うので、落ち着けと思い僕は彼女に返事をした。
「画面に映ってないからわからないな」
僕はそのあとスクロールし、録画された最後まで飛ばし飛ばしで見たがネズミが瓦礫の山から何回か出てくる程度で何も変化はなかった。
「あの大量のネズミの死体の付近に死体はなかった。つまり生存者は最低でも一人いる……」
「一度戻ってここで起きた事を話そう」
僕は頷き、ムッツーと共にタッツーたちがいる場所へ戻ることにした。
+
「あ、おかえり……そのどうだった?」
僕たちはタッツーたちと合流し、僕は何事も起きていない事に安堵した。戻ってくる途中、何かあったらどうしようと思ったりした。ネズミの事、生き残ってる人の事、なんとなく不安にかられた。
「とりあえず、ここから移動しよう。瓦礫の山から可能な限り離れよう」
ムッツーがみんなに提案し、僕も可能ならここから離れたいと思った。
「また砂利の砂漠に戻るってこと?」
タッツーが不満げに答えた。
「少なくとも、夜にここで過ごすのは危険だ。ネズミは瓦礫の山から出てきた」
その言葉を聞き、みんなは瓦礫の山を見て、顔をひきつらせた。ネズミの死体の山を見てない人も嫌そうな顔をしていた。
「とりあえず砂利の砂漠まで戻り、そこで見つけたものについて話す」
ムッツーはみんなに伝えると、各自すぐに移動をはじめることとなった。
「ヨーちゃん、何があったの?」
マナチは、ヨーちゃんと歩きながら気になって聞いた。
「砂利の砂漠で瓦礫の山がないところまで行ったら話すよ」
「なんか嫌な予感しかしない」
「いい予感なんてここに来てからあったか?」
エロい展開にならないし、まったくいい事がない。
「ないけど、意識すると飲み物とか食べ物は出てくる」
マナチと話せたりするのはいい事かもしれない。
「いい予感じゃなくてそれは便利なことだろ」
「たしかに」
「意識すると、か……」
マナチを意識してしまう、バレないように気を引き締めないとな。
「どうしたの?」
マナチと会話することで僕は意識すると飲み物や食べ物が出てくる中で、あの集団は調理をしていた事も思い出す。そして、食べた後に食中毒のような状態になり、倒れていった。だが、一人だけ助かったの理由がわからなかった。
周りが倒れていく中で、その原因となった汁物をかき込んでいたが、倒れずにいて吐いたりし、困惑しているようだった。毒物が入っていると思われる大鍋から同じ毒物を摂取して、生き残るなんてことは――。
「ありえるのか……そんなことが……?」
僕はマナチにも聞こえない程、小さな声でつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます