10,お母さんのこと
「やるじゃない!」
アキコさんが私の氷魔法を見てうれしそうな顔をしている。
いい人だな、アキコさん。すごい使い手なのに、私がなんとか成功させた氷魔法を一緒になって喜んでくれている。
こんな人にこれからも魔法を教えてもらえれば、幸せなんだろうけど……。
でも、私、もう魔法はやめると決めたんだから……。
そんな私の思いを見越したように、アキコさんがこんなことを言ってきた。
「アオイちゃん、やっぱりユキの子だね。ユキの才能を受け継いでいるわ」
お母さんの才能……。
お母さんて、どんな魔法使いだったんだろう?
お母さんの魔法のこと、ほとんど何も聞かされていないから……。
「ユキはね、魔法学校時代、私とトップを争った仲なのよ。確か、六年生のときの魔法実技試験では、ユキ一人が雷魔法を披露して、みんなの度肝を抜いたんだよね」
「雷魔法……」
「そう、小六で雷魔法を使えたのよ。すごい子だったわ」
雷は氷よりもずっと難しいとされている複合技だった。氷魔法なら水と風、二種類のかけ合わせでよかったが、雷魔法はそういうわけにはいかない。雷は、水と風、火と土の四属性すべてを合わせなければならない超難度の魔法だ。
大人でも難しいそんな魔法を、お母さんは小六で……。
「お母さんて、そんなにすごい魔法使いだったの?」
私は素直な疑問をアキコさんにぶつけた。
「まあ、天才ね」
アキコさんは簡単に答えた。
天才……。
凡才の私とは違って、お母さんは……。
「アオイちゃん」
ポカンとしている私に、アキコさんが改まった声で言った。
「やめないよね」
「えっ?」
「魔法、やめないよね」
アキコさん、私が魔法をやめようとしていることまで知っているんだ。おばあちゃんが伝えたんだろうな。
本当は私だってやめたくない。
大好きな魔法、これからも続けたい。
でも。
みんな知っているでしょ。
私のみすぼらしい服とクツ、見たら分かるでしょ。
そう思っていると、レンも声をかけてきた。
「そうだよアオイちゃん。魔法をやめるなんて絶対にだめだよ。そんなこと、僕がゆるさないから」
ゆるさないって……。
レンなりの励ましの言葉なんだろうな。結構うれしい。
「アオイちゃん、ユキのお母さんから大体の事情は聞いている。簡単なことよ」
「簡単なこと?」
「そう、簡単なこと。次の魔法実技試験で一位になればいいだけのことよ。一位になって特待生になればいいのよ」
「そんな簡単に一位なんかには……」
私の頭にミチカの姿が浮かんだ。
「雷魔法よ。あなたのお母さんが得意だった雷魔法をみんなの前で披露するのよ。参加者全員の度肝を抜いてやりなさい」
お母さんの得意な雷魔法……。
「そして、誰にも文句を言わせずに特待生になって、魔法を続ければいいのよ」
「魔法を続ける……」
そんな夢のようなこと、できるのだろうか。
話を聞いていたレンが横から口をはさんできた。
「アオイちゃん、僕、応援するよ。アオイちゃんが一位になれるように応援する!」
私はレンの言葉を聞いて、こう思った。
それって、レンの大好きなミチカより、私を応援するってことだよ。
もし本当にそうなら、ちょっとうれしいかも。
「応援する」と言った時のレンの真剣な表情が、私の頭の中に焼き付いていた。
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