元カノはアイドル!~彼女はなぜ死ななければならなかったのか

北島 悠

第1話 職場のアイドルが本当にアイドルになったのに……

 ファミリーレストラン「マミー」で職場のアイドルだった住田佳奈は、そのたぐいまれな美貌から渋谷でスカウトされ、あっという間に本物のアイドルになった。


 彼女は誰もが振り返るような美人で、ウエストがキュッと締まったスタイル抜群の女の子。モデルとか女優としてスカウトされても驚かないくらいの女性で、いわば職場のアイドルだったのだから当然だ。


 それなのに、18歳という若さでこの世を去った。所属事務所であるムーンアクトが入居していたビルの屋上から飛び降りたのだ。


 相原祐介はまだ佳奈がデビューする前、佳奈と付き合っていた事があった。佳奈はそのルックスの良さゆえに、職場では悪い噂が絶えなかった。すごい遊び人で2股どころか数人と同時進行してるとか、男心を弄んで手玉に取る悪女だとか。


 でも違っていた。全部ただの根も葉もない噂に過ぎなかった。本当に理想の恋人といっても過言ではない、いい女だったのだ。


 しかし、祐介は佳奈とはあまり長く交際は続かなかった。


 それは、彼が本当に好きだったのは佳奈ではなく、葉山裕美という別の女性だったからである。


 裕介は、佳奈と会っている時も、思い出すのは裕美の事ばかりだった。それが態度にも出ていた。それでも佳奈は彼の事を責めたりはしなかった。それがかえって彼の後ろめたさを増幅した。心苦しさを拡大した。


 少しづつ佳奈とのデートの間隔は広がり、電話も次第に減っていった。

 こうして祐介と佳奈との付き合いは、どちらからも別れを切り出す事もないまま、いわゆる自然消滅という形で終わった。


 祐介は、佳奈がデビューしてからもその事が心に残っていた。そんな時に彼女の自殺のニュースが流れたのだ。


 祐介は決意した。「なぜ彼女が死ななければならなかったのか、僕が必ず突き止める」と。


 当初、TVや雑誌では自殺の原因は俳優の染谷彰に振られたからだと言われていた。だから祐介もその話を信じていたのだ。


 しかし、どうもその説はガセネタらしかった。


 彰は事務所からのプレッシャーで、佳奈の本当の相手である江口義之の身代わりをさせられたようだ。インターネット上ではこの意見が最も信ぴょう性が高かったのである。


 義之は人気絶頂のアイドル歌手、山口幸子と婚約しており、その後結婚した。


 別の意見としては、「あけっぴろげなひろゆき」というドラマで共演した伊集院勝也も怪しかった。


 更に、その先輩である田中光男という意見もあるが、どれも決め手に欠けていた。



 そんな中、佳奈のファンの有志が立ち上げた交流サイトの掲示板を通じて、祐介は前田由紀子と知り合った。


 裕介は、常日頃からインターネットで佳奈の自殺の原因を探していた。必要とあらば詳しい人物と会って話を聞こう、そう思っていた。由紀子との出会いはそんな矢先の出来事だった。


 裕介は由紀子とメールで待ち合わせ、目印として黄色のトートバッグを頭上に挙げて分かるようにするとの事。


 待ち合わせ場所は地下鉄半蔵門線某駅前。いた。あんなに目立つバッグを上に上げてる。あの娘に間違いない。

「由紀子さんですか?」

「祐介さん?」

「そうだけど」


 こうして祐介と由紀子は、インターネットを通じて出会う事になった。


 由紀子はとても熱烈な佳奈推しの女性で、祐介はことあるごとに佳奈の話を聞かされていた。


 由紀子は祐介だけでなく、佳奈ファンの人ともネットを通じて知り合っていたそうだ。


 そこでは、色々な情報が飛び交っていたらしい。


 由紀子はどうしても佳奈の死の真相を知りたくて、必死で色々な情報集めにいそしんでいた。更に、亡くなってから長期間過ぎているのに、毎年命日にはムーンアクトが入っていた渋谷にあるビルに追悼に行っていた。だから佳奈がなぜ死ななければならなかったのかの謎についてとても詳しかったのだ。これこそ、何よりも尊い「推し活」であろう。


 しかし、残念ながらやはり決定的な証拠は出て来ず、真相は闇の中であった。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 次の第2話は、とうとう佳奈の自殺の原因が明らかに! いったい何だったのでしょうか? お楽しみに!

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