第48話
これは、タマ達を飼ってから、正確にはヒィ達を引き取ってから調べて知ったことだが、
譲渡ならまだしも、明確な意思で持って育成中のモンスターを捨てたと判断されると、それなりのペナルティが課せられる。
五年以上十年以下の懲役。または、七桁くらいする罰金。
もちろん逮捕されて、裁判にかけられて判断される。はず、たぶん。
リリアさんとエリスちゃんの場合は未成年だから、情状酌量くらいは付くかもしれない。
裁判官によっては、引き取った飼い主への飼育費を支払うよう言い渡すこともあるらしい。
あたしの言葉に、リリアさんが動揺をみせた。
その瞬間を、あたしは見逃さない。
「ツグミちゃん!! フェンリルにネズミ捕り!!」
あたしの指示に対して、戸惑ったのはツグミちゃんの前の飼い主であるエリスちゃんだ。
おそらく、そんな技なんてないからだろう。
無いものは覚えられない。
そう、この呼称は技名なんかじゃない。
ウチの猫にネズミ捕りを教わったらしいツグミちゃんがいつの間にかできるようになっていた、芸だ。
もちろん、正式な呼称は別にある。
正式名称【
あの蛇、ネズミを捕食できるのだ。
噛まれないように気をつけたいところである。
あたしの指示に、ツグミちゃんは何倍も体格差のあるフェンリルへ突進し、その背へ飛び乗る。
振り落とそうとするフェンリルの背に、その爪を立ててしがみつき、蛇を噛みつかせた。
すると、ゆっくりゆっくり、フェンリルの動きが鈍っていきやがて倒れて動かなくなってしまった。
ツグミちゃんがあたしの前まで来て、いつかのタマみたいに見えない壁へ頭を擦り付けて、撫でて撫でてとやってくる。
「ツグミちゃん、凄い!
いい子だね!!」
「ピィゆるるる!!」
猫なで声なんて出しやがって可愛い奴め♡︎
いや、実際の猫なで声とは違うけど。でも可愛い甘えた声だ。
と、そこで喉まで出かかっていたことが、わかった。
そうだ、フェンリルだ!
初めてなっちゃんと一緒に討伐依頼を受けた、あの時のことがまるで走馬灯のようにあたしの脳内で駆け巡った。
あとで、ばあちゃんにもお礼言おう。
あたしは、ポケットに忍ばせてある巾着袋を取り出して、いまだ甘えた声を出しているツグミちゃんに見せて、それを実演してみせた。
ツグミちゃんも、そしてヒィも、二匹とも【挑発】が使えたはずだ。
相手の意識を自分に向けさせる、スキル。技。
「ツグミちゃん、ヒィにもこれ教えてこれる?」
「ぴぃーー!!」
「よし、お願いっ!」
ツグミちゃんがヒィの所まで走っていく。
そして、鳴きあって伝え合う。
それらを微笑ましく眺めたあと、あたしはリリアさんを見た。
彼女は怒りに震えていた。
あたしを殺してやるとばかりに、睨んでくる。
「おー、怖い。
リリアさん、美人さんが台無しですよ?」
「馬鹿にしてっ!!」
「あ、馬鹿にされてるって気づくおツムはあるんですね!
さすが、上等種族のエルフだ!
底辺種族の人間なんかとは出来が違いますね!!」
「っ、ドッペルドラゴン!!
そのゴミ共をぶっ殺せ!!」
「あらま、お姫様、いや女王様なのに口が悪いですねぇ。
ヒィ、ツグミちゃん!!
頑張れ!!!!」
あたしの応援、それが合図となって二匹は体格が何倍、何十倍もある双頭竜へ突っ込んでいく。
双頭竜は、突っ込んできた二匹へ火炎吐息をぶちまける。
それをヒィが、ジュースでも飲むように吸い込んで、消失させる。
そして、二匹同時に左右に分かれ、【挑発】を発動させた。
二つの竜の首がそれぞれ別々に、ヒィとツグミちゃんを追いかける。
そして、二匹は上手くやってくれた。
二匹の動きによって、双頭竜の首がまるで巾着袋の紐を結んだかのように交差し、絡まった。
二つの首が互いの首を絞め合って、もがくうちにドラゴンは倒れ、やがて動かなくなった。
ザワついていた主催者さん、他の参加者さん達が沈黙する。
楽しいお祭り騒ぎ、には程遠い空気が漂う中。
それは起こった。
リリアさんが半狂乱になって叫び、こちらへ走ってきたのだ。
あ、見えない壁消えてら。
そして、魔法を、それも攻撃魔法と呼ばれる危ないヤツを発動させてくる。
HAHAHA。妹のより威力低いな。
それに、お母さんの発動と比べると遅い。
ように見えた。
とはいえ、喰らったら怪我しそうだ。
よし、決めた!
あたしはタマを抱いたままジグザグに走りだした。
ああいうのは基本一直線に飛んでくるはずだから、狙いさえ定まらなければどうということはないし。
走りながら、あたしはタマを片手で抱き直す。
そして、すぐにリリアさんの間合いに入った。
「こんなことくらいで、ピーピーぎゃあぎゃあ、うっさいんだよ!
このクソエルフ!!
生き物飼うなら最後まで責任持てや!!!!」
言って、あたしは空けていた方の手で、彼女の胸ぐらを掴んで頭突きを顎に食らわせた。
そして、舌を噛んだか当たり所が悪かったから鼻血が出たのか。
とにかく顔から血を出しながら、彼女は倒れた。
容赦なく、あたしはマリーと喧嘩する時のように馬乗りになる。
そして、もう一度その顔へ今度はビンタを喰らわせたのだった。
あぁ、ダメだ。
もう、我慢できない。
こいつには一度ちゃんと言っておかないとダメだ。
そして、何よりもわからせないとダメだ。
「何がゴミだ!! 何がぶっ殺せだ!!??
ゴミなのはてめえだ!! 仮にも命を管理してるなら軽々しくそんなこと言ってんじゃねーよ!!
おら! 下等種族のニンゲンにマウント取られる気分はどうだ??!!
殴られる気分はどうだ?!
答えてみろや、このクソエルフ!!!!
お前なんかにあの子らをゴミ呼ばわりする資格なんてねぇんだよ!!」
「うる、さい!
お前に何がっ!! ぶっ、ぐえっ!」
彼女には彼女なりの事情があるのだろうが、知ったことか。
それはそれ、これはこれだ。
「あたしが、なに?
ほら、最後まで言ってみろよ、上等種族!!」
「ぐっ、げっ、や、やめ!」
あたしは彼女がなにか声を発する度に、その綺麗な顔を叩いた。
いや、グーで殴った。
殴り続けた。
喧嘩慣れしてない彼女は、ただのサンドバッグもいいところだ。
マリーなら簡単によけて、逆にマウントを取り返してくるし、髪の毛を皮膚ごと千切る勢いで引っ張ってくるところだ。
「良いか? てめぇがあの子たちにやったのはこういうことだ!!
逆らえないあの子たちを、その態度で、行動で殴り続けた!!
傷つけた!!
命に対して責任持てないなら、
途中で、ツグミちゃんとヒィ、そしてタマがあたしを止めようとしてくるが、あたしは脇に座っているよう言って、大人しくさせた。
この
ある程度のところで、
「はい、ココロ。もうそこでお終い。
ね?
あとはばあちゃんがやるから。お仕置は同じエルフのばあちゃんがやるから、ね?」
ばあちゃんに止められた。
「……はー、わかったよ」
と、そこで気づいた。
これ、キャラメイクしてるから、画面の向こうからだと幼女声のおっさんがエルフの美少女をぶん殴ってるように見えるはずだ。
「手、痛かったでしょ?
ほら、見せて」
「べつに、平気」
言われて見れば、手の甲が裂けて血が滲んでいた。
それをばあちゃんが、魔法で治してくれた。
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