第37話
そのあと、討伐対象であるフェンリルとたまたま遭遇したモンスターを相手になっちゃんのサポートもありつつ戦ったのだが、討伐はともかくテイムすることは無かった。
あたし、
全然、テイム出来ない。
なんとか半殺しまでは成功するものの、そのまま逃げてしまうモンスターばかりだ。
背を見せたモンスターは、次々となっちゃんが狩っていく。
討伐対象以外を殺して大丈夫なのか、と心配になったが、とりあえず今のところ襲ってくるのは猟友会でも手を焼いているモンスターばかりなので問題は無いそうだ。
むしろ、猟友会の方からも謝礼が出るらしい。
冒険者ギルドと猟友会はその点では同盟関係というか、良い取引先同士なのかもしれない。
知らないけど。
「とりあえずココロは、次からはもう少しちゃんと準備することだね。
あと魔法袋は買っといた方がいいよ、色々入るし、そんな大きなリュック持ってこなくていいしさ、安いやつなら今日の礼金で買えるからさ」
「うん。
あのさ、なっちゃんごめんね、迷惑ばっかりかけて」
「ココロは初めてなんだし、仕方ないよ。
はい、これ。
「うう、ありがとう、なっちゃん!」
そうして、この日は色々あったものの家路についたのだった。
まぁ、その前にギルドに行って今日の仕事分のお金をもらったけれど。
まさか銀行振込はともかく、
てっきり、物を預けて受付の人とかそういう鑑定の人とかが出てきて、品定めみたいなことをするかと思いきや、専用の部屋で品物を出して、自分たちで動画、もしくは画像を撮影して魔法と科学技術が融合した文明の利器であるパソコンで処理して、数秒で支払いまで完了してしまう。
すげぇな、現代技術。そして、文明の利器。
ちなみに、不正が出来ないように色々対策はしているらしい。
さて、なんだかんだクタクタになって帰宅したあたしとタマは、その荷物を、ばあちゃんから渡された。
宛先は、あたし。
送り主の名前はどこにも無かった。
それは、そこそこ大きなダンボールで大きな文字で圧縮封印と書かれていた。
中身は、ナマモノらしい。
なんだろう?
吸血鬼のばあちゃんがエリーゼ用に血のプレゼントでも送ってきたかな?
でもそれなら宛先はお父さんたち大人の誰かだろうし。
「うーん?」
そういえば、こういう詐欺があるってテレビでやってたな。
勝手に送り付けて、後になってお金を請求する詐欺。
対策は、たしか開けないこと、だったか。
あたしが警戒していると、ばあちゃんが言ってくる。
「ココロ、気づかない?」
楽しそうな声に、再度あたしは宛先の書かれた紙、その文字を見た。
「まさか!!」
あたしはすぐに、圧縮封印の文字をその辺にあったマジックで消した。
ぼふんっ、と白い煙を立てて箱が開いた。
現れたのは、二匹のモンスターと手紙だった。
手紙の主は、お兄ちゃんだ。
手紙にお兄ちゃんの直筆で、名前が書いてあった。
その手紙によると、どこかでリリアさんのモンスターと戦った、あの拡散した動画を目にし、指示を出していた声があたしにとてもよく似ていたため、わざわざお兄ちゃんは今回のことを調べたらしい。
そして、あたしがテイマーになるべく勉強会に通っていると知って、これから必要になるだろうし、他のテイマーのようなやり方でモンスターをテイ厶することをお母さんが反対もするだろうから、今後の活躍とかその他諸々を願って、このモンスター達を送ってくれたらしい。
ただ、このモンスター達はタチの悪いテイマーによって、役たたずとして捨てられた子達なのだそうだ。
その辺の心の傷も、ついでに治してやってくれと書かれていた。
中途半端どころかド新人、ど素人のあたしに頼む内容にしては重すぎる。
それに、この子達。
あたしはチラッと手紙から、モンスターへ視線を移す。
そこには、怯えたようにこちらを見ている見覚えのありすぎるモンスターが居た。
片方は、まだ子供である火竜。
もう片方は、この前の勉強会で初めて目にした鵺、キメラ種と呼ばれていたモンスターだった。
そう、リリアさんが育てていたらしい、火竜。
そして、エリスちゃんが育てていたはずの、鵺――ツグミちゃんだったのである。
この二匹が、あたしの知る二匹とそれぞれ同一個体だとわかったのは、お兄ちゃんの手紙に、二匹を鑑定したその鑑定結果と経歴が同封されていたからだ。
「うそでしょ、信じられない」
「ココロ、大丈夫? 顔、青いけど」
ばあちゃんが箱から出てきた二匹を、猫を愛でるような瞳で見つめていたけれど、手紙を読んで顔色を悪くしたあたしを見て、そう聞いてきた。
「ばあちゃん、大丈夫じゃない」
この時、あたしはきっととても怒っていたのだと思う。
なにしろ、感情的にばあちゃんへ手紙を押し付けて、
「コレ見てよ!!」
そう叫んだのだ。
喧嘩の時くらいでしか、あたしはこんなヒステリックな声を出さないし、出せない。
孫が力任せに押し付けてきた手紙に、ばあちゃんは老眼鏡をかけて目を通す。
そして、少し悲しそうにこういった。
「いつの時代も、酷い人はいるもんだよ。
悲しいけどね、よくある事だよ」
そうじゃない。
そういう事じゃないんだ。
「違う、そうじゃない」
「ココロ?」
「あたしはこの子達を知ってるの!!」
あたしの様子がいつもと違いすぎて、ばあちゃんも気になったようだ。
場所をばあちゃん達の部屋へ移して、あたしはあの日、初めての勉強会でなにがあったのか、洗いざらい全て話すことになったのだった。
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