第28話
そこから、あたしはリリアさんとエリスちゃんから離され、別室に連れて行かれた。
まるで尋問だ。
いや、まだされてないけど。
でもこれ、絶対尋問される。
痛くない腹を探られるのは真っ平御免だ。
そこは先程まで講義を行っていた場所、教室だった。
促されるまま、あたしはパイプ椅子に座る。
目の前には、ジーンさんと何故かグレイさんが並んで立っている。
「さて、ココロさんに、いくつか聞きたいことがある」
「……だいたい予想はできますけど。
なんですか?」
「教育的指導の時、タマちゃんにも使ってたけど、君はなんのスキルを使っている?」
「……【言霊使い】です」
あたしは、正直に伝えていなかったことを白状した。
その説明を受けて、二人顔が神妙なものに変わっていった。
「鑑定を受けて判明した、ということは親御さんはご存知なんだね?」
「はい」
「今回のようなことは、今までにもあったのかな?」
「いいえ。喧嘩を吹っ掛けられてもここまで大事になることなんて無かったです」
切り分けたケーキの大きさで取り合いになって、兄と喧嘩になって当時十歳だった兄を泣かせたのが一番の大事だったかもしれない。
くだらなさ過ぎるので、これは言わないでおく。
「そうか」
「はい」
き、気まずい。
怒るなら早く怒ってほしいし、親に電話するなら携帯貸すから早く言ってほしい。
「念の為に聞くけど、さっきのは意図的だった?
殺意を持って、あの二人を殺そうとした?」
テレビドラマ、刑事ものだったなら権利の読み上げがまず先だろうなぁ。
現実はそうじゃないけど。
「いいえ」
否定して、あたしはこの力の使い方がいまいちよくわかっていないことも白状する。
そして、今まで家族というか妹と喧嘩で罵りあいに発展した時も、死ねだの消えろだのと口にしてきたが、なんとも無かったことも馬鹿正直に話した。
「ふむ、察するに感情面で左右してるのか?」
ジーンさんが呟く。
そこに、グレイさんが口を挟んだ。
そういえば、なんでこの人居るんだろ?
「いや、たぶん扱い方が不慣れで発動も不安定なんだと思うぞ」
あたしもそう思います。
あたしが内心でグレイさんに同意した時、教室の外、通路から悲鳴が聞こえてきた。
そして、ざわめき。
「なんだろ?
ちょっと見てくるから、待ってること。いいね?」
言いつつジーンさんが確かめに行った。
と、それを見計らったかのように、グレイさんが口を開いた。
「吸血鬼だけじゃないだろ」
「はい?」
「だから、お前さんに混ざってる血。
吸血鬼だけじゃないだろ。
お袋さんの種族はなんだ?」
「わかるんですか?」
「まぁ、俺は鼻が良いからな」
「なるほど」
「で、何が混ざってるんだ?」
「エルフです。あたしのお母さんハーフエルフなんです」
「……エルフか」
「はい。エルフです」
「……人間にしては大きすぎる魔力量は、それが理由か?」
「さぁ? わかりません。
ただ、可能性は高いかなって思ってます」
グレイさんとの会話はそこまでだった。
ジーンさんが戻ってきたのだ。
ただ、その表情はイケメンには似合わない、笑いを我慢している実に不細工なものだった。
せっかくのイケメンが台無しである。
「何があったんですか?」
あたしの問いかけに、ジーンさんがとうとう堪えきれなくなって笑いだした。
「い、いや、笑っちゃ行けないんだけど。
ご、ごめっ、ツボに入って」
そこから呼吸困難なんじゃないかと、こちらが心配するほどジーンさんが笑い倒す。
やがて落ち着いた頃に、彼が話してくれた。
何でも、リリアさんが他の人が持ち込んだペット用のおやつであるバナナ。
その皮を踏んでスっ転び、かなり変な転び方をしたのかパンツ丸見えで発見されたというのだ。
んんんー??
なにか引っかかるものがあったけど、うん、気にしないようにしよう。
気にしたら負けだ、たぶん。
尋問というか事情聴取で時間を取られたので、あやうく予約していた時間の電車に乗り遅れるところだった。
あとあれだ、ジーンさんもだが、グレイさんともアドレスを交換したのもある。
「疲れた」
ギリギリ乗れた電車。
席に座って一息つくと、キャリーケースの中のタマが、またテュケテュケ鳴き始める。
というか、まさか自分が
次から勉強会、行きにくくなるなぁ。
まぁ、仕方ない。
これも自業自得だ。
あー、帰ってこのことマリーに話したら絶対笑われる。
いや、あいつの場合、案外テンション高く話を聞くか?
どちらにせよ、土産話をせがまれるのは目に見えていた。
そういえば、ジーンさんからまた手紙を渡された。
親御さんにちゃんと渡すように、との事だった。
今日のことが書いてあるんだろうなぁ。
さすがに、親にバレたら怒られるかなぁ。
「……燃やすか」
あたしは渡された封筒を見つつ、証拠隠滅を考える。
それを読んだかのように、ジーンさんから携帯にメッセージが届いた。
内容は、ちゃんと手紙を御家族に渡すように、というものだった。
怖いなぁ。
お宅の娘さん、人を殺しかけましたよとか書いてあるんだろうか?
家に帰るのが億劫で仕方がない。
さて、この時のあたしは知る由もなかったが。
読者諸君は覚えているだろうか?
あたしが念の為にさっさと実家の家族共有のパソコンに送った、動画データのことを。
なんと、マリーがその動画を見つけ、ネットマナーに則った上で顔にモザイク処理を施して、SNS上に投稿してしまっていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。