第16話

 家に戻って、ばあちゃんを問い詰めた。

 

 「あー、それねぇ。

 魔力あっても無くても使えないなら同じことだよねーってなって、無いってことにしたんだよ」


 なんとも力の抜ける答えが返ってきた。

 なんだ、それ。

 まぁ、そりゃそうだけど。

 そりゃ、そうなんだけどさ。


 「で、でも、今思うと小さい頃とか野菜とか花とか、あたしが育てるとちょっと大きくなったり、綺麗に咲いたりしてたじゃん?

 アレって、この前わかった【言霊使い】の能力を無意識に使ってたってことでしょ?

 ばあちゃん、わかってたんじゃないの?」


 「あー、アレねぇ。

 多分だけど、普通に魔法を使うのと、【言霊使い】として魔力を使うのとだと、変換方法が違うから。

 野菜や果物が自動的に肥料代わりにしてるのかなって、ばあちゃん思ってたよ」


 ばあちゃんはあっけらかんと、そんな事を言った。

 人を肥料扱いしないでほしい。

 

 「あ、でも最近はタマちゃんのお陰でその魔力もちょっとは使われてるけどね?」


 ん?

 どうゆうことだ?


 「ほら、勉強会の先生がタマの芸を見て驚いてたって言ってたでしょ?

 アレねぇ、幻覚魔法もそうなんだけど、本来ならタマの魔力だけじゃ出来ない芸なの。

 多分、先生は思った以上にココロの魔力がタマに吸われて使われてるのを見ておどろいたんでしょうね」


 あー、あー、あー、なるほど。

 つまり、あの時の『何ともないの?』という言葉には二重の意味があったと。

 ちょっと違和感あったから、やっと納得出来た。

 なるほどなるほど、そういうことか。


 「でも、思った以上って。

 どれくらい吸ってたんだろ?」


 「まぁ、普通の人間だったら倒れる程度かなぁ」


 あ、はい、わかりました。

 もういいです。

 とりあえず、自分は魔力タンクでもあったとそういうことか。

 で、話を整理するとその魔力はタマか、【言霊使い】として使用しないと使えない、と。

 んで、【言霊使い】として魔力を使うと、古竜のおばさんを呼ぶことになる、と。

 あたしが頭の中で情報を整理していると、横で話を聞いていたマリーがうんうん頷いていた。

 おおー、若いとはいえさすがエルフ、あたしよりも魔法とか魔力への理解が高いみたいだ。


 「あー、なるほど、そーゆーことね。完全に理解した」


 前言撤回、こいつ何にも理解しちゃいねぇ。

 なぜ分かったか?

 セリフも棒読みで、目が死んでたからだ。


 さて、この日から一週間ほど、あたしは能力の検証につとめようかと考えた。

 考えただけで終わった。

 よくよく考えた結果、国が主催してるという勉強会でちゃんとやり方を教えて貰えばいいと思ったからだ。

 ど素人が、専門家の言葉もなく闇雲にいろいろやったとしても、またおばさんを召喚した時のような、をしてしまうのは目に見えていた。

 あの時はおばさんで済んだけど、たとえば冗談で、あたしが月や隕石を思い浮かべていたらどうなっていたかわからない。

 お父さんもお母さんも、通常の魔法とは勝手が違うので基礎を教える、ということも出来なかった。


 まあ、それは、ばあちゃんも同じだったが。


 さて、その定期勉強会が明日と迫った午後九時過ぎ。

 タマの散歩から帰ったあたしは、自室で、それでも【言霊使い】と【魔物使い】の合わせ技で分かったことを書き出して、整理していた。


 「とりあえず、ルーズリーフに箇条書きでメモしておこう」


 メモを書きながら、思いだした。

 そういえば、お兄ちゃんも指に蜻蛉を止めるのが得意だったな、と。

 それだけじゃない。

 お兄ちゃんは天才だった。

 言動は、ちょっとアレで、行動がお父さんに似て変態だったけど。

 でも、もしも、もしもお兄ちゃんがまだこの家に居てくれたのなら、相談に乗ってくれたんだろうか。

 何しろ、お兄ちゃんに出来ないことは無かった。

 言動と行動が非常識で変態だったから、人として完璧かどうかは別として、基本、出来ないことは無かった。

 

 「そういえば、お兄ちゃんって有言実行は凄かったんだよなぁ、なんでも現実になって、って、あれ?」


 懐かしくて、色々思い出していたらとても引っかかることまで芋づる式に思い出されてしまった。

 

 「もしかしなくても、お兄ちゃんも【言霊使い】だった??」


 それは、ほぼ確信だった。

 今度、時間があったら家族の誰かに確認してみよう。

 本当は、お兄ちゃん本人に確認したいけど、今絶賛家出中だから連絡の取りようがないのだ。

 

 「どこで何してるんだか」


 会いたいな、と思ってしまうのは、やっぱり今でも心のどこかであたしはお兄ちゃんあの人のことを頼りにしてるんだろうなぁ。

 人間的に問題があっても、なんだかんだあの人はやっぱりあたしのお兄ちゃんなのだから。


 「もしかしたら、それも嫌だったのかなぁ」


 「テュケ??」


 呟いたあたしの横で、タマがその体を擦りつけ甘えてきた。

 あたしは寝る前のもふもふタイムを満喫する。

 せっかくの休みが潰れるのだ。

 これくらいの現実逃避くらい、許されるだろう。

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