第11話

 予告通りというか。

 予定通りというか。

 とりあえず、マリーの希望通りにステーキが食べられるサービスエリアに寄った。

 まぁ、混んでるよね。

 知ってた。

 ただでさえ、快晴で、テレビで特集されたばかりで、さらに日曜という三つの条件がそろっていたら、そりゃめっちゃ混むよなぁ。

 件の店は、エリア内の建物の中に入っているテナントで、さらに言うなら無理やり高速道路のサービスエリアで食べなくても、下道でも時折見かけるチェーン店だ。

 まぁ、ほかの店も混んでるだろうけど。

 回転は、まあまあ早い。

 それというのも、店側の配慮というかでテイクアウトできるからだ。

 弁当だ。

 ステーキ弁当。

 さすがの人混みに、父がどこか遠くをみながら持ち帰り用にしてもらって、車の中で食べようと提案してきた。

 マリーもあたしも特に異議はない。

 店の回転が早い理由は他にもあった。

 並んで待つこと数分で持ち帰り用のステーキ弁当を手に入れることが出来た。

 と、いうのも、イートインかテイクアウトかおそらくバイトさんであろう従業員が並んでいる客に確認に来たのだ。

 どちらの客にもメニューを渡し、テイクアウトの客には注文が決まる頃を見計らって順番に注文を取っていた。

 レジの問題で、基本列は一つだけだ。

 しかし、最近はキャッシュレスが浸透してきているためか専用の端末を所持した従業員が注文をとって持ち帰り用の物に限っては、出来上がると、すぐに持ってきてその場で会計してくれた。

 と言っても、携帯のアプリがなかなか反応しない、という地味なハプニングがあったが。

 しかし、すげぇ、近未来に生きている。

 文明の利器バンザイ。

 そのためか、列の消費はだいぶ早い。

 だがしかし、時折空腹でイライラしているのだろう客がたまに怒鳴っていた。

 気分が悪くなるから、ほんとやめてほしい。

 あとワガママ言うな。

 皆ならんで買ってるんだから。

 そんなに、早く買いたいならインじゃなくてアウトにしろ。

 そんなことを内心で呟きつつ、あたしらは列を離れた。

 

 (それにしても……)


 あたしは、列に並んでいる女性客を見て、それからお父さんを見た。

 年代も種族も様々な女性客達が、お父さんに注目している。

 こういうのを熱い視線と言うのだろう。

 上は二十歳過ぎ、下は五歳児がいる子持ちダンピールは、それでも顔が良ければやはりモテるものらしい。


 (顔はいいんだよなぁ、きっと)


 なにしろ、生まれてから見てる顔だ。

 イケメンの部類に入るということは認識している。

 でも、こうも毎日見ていると普通に感じてしまうから不思議だ。

 

 「どうした?」


 お父さんがあたしの視線に気づいて、訊ねる。


 「別に」


 これで四児の父だからなぁ。

 そういや小学生の時の授業参観だと、たしかに浮いていたっけ。


 「テュケるる!」


 車に戻ると、一匹で留守番をしていたタマが嬉しそうに鳴いた。

 よしよし、タマ新兵は無事、車の守番を済ませてくれた。

 車内が暑くならないように、少しだけ窓を開けていたのだけどどうやらその効果はあったようで、そんなに熱はこもっていなかった。

 今度は窓を全開にして、それぞれ弁当を食べ始めた。

 タマにも、予め持ってきていた草をマリーが籠の中へいれてやる。

 タマがもしゃもしゃと、自分の分の弁当(草)を食べ始めた。


 「さすが、国産牛だけあるな。

 美味い」


 「ほんとだー、やぁらかい。うんまい」


 お父さんとマリーが口々に美味い美味いと言いながら、弁当を食べ始めた。

 あたしも、箸で下のご飯を上に乗っかっているステーキで包み、一口食べる。

 うわ、ガチで美味い。

 美味しい。

 どう美味しいかと言うと、とても美味しい。

 もっと他に感想は無いのか、その語彙力はどうなんだ、そんな読者諸君の罵詈雑言が聞こえてきそうだが、あいにく詩人や作家の持つ語彙力など、あたしには無いのだ。

 せいぜい、テレビのリポーターがよく口にしている、『口の中で肉が溶けた!』くらいしか言えない。

 ステーキにはタレが掛かっていて、溶けた肉、ご飯、タレが口の中で混ざり合い、とてもとても美味しい。

 気の利いた事を言うのが仕事のリポーターだったら、ハーモニーを奏でてるとか言いそうだ。

 そこで、あたしは視線を感じた。

 背後、バックミラー越しに、タマが草をもしゃもしゃしながら興味津々に、あたしやお父さん、マリーの食べる姿を順番に見つめている。


 あたしは弁当を手にしたまま、後部座席を振り返り言った。


 「どしたの、タマ?」


 「テュケるる~」


 食べたいなぁ、食べたいなぁ、そんな事を一つしかない目で訴えてくる。


 「なに、タマも食べたいの?

 仕方ないないなぁ、ほら、あーん」


 妹が、小さく箸で切った肉の切れ端をタマへ近づける。


 「あ、ちょっと。これ味が濃いんだし、あげないでよ」


 あたしが注意すると、妹が返してきた。


 「金平糖も十分甘いし、たまにばあちゃんが焦がした煮物あげてたし。

 しかもそれを美味しく食べてたから、大丈夫だよ」


 マジか。

 ばあちゃん、何してんだよ、もう。

 そこで今度は、お父さんがマリーの援護射撃をしてきた。


 「そうそう、たまーに、お父さんのツマミも食べてるしな。

 ビーフジャーキーがお気に入りみたいだぞ」


 だから、人の食べ物はあんまり与えちゃダメかもしんないのに。

 そんなタマだが、一口肉を食べただけで目を輝かせてモグモグしている。

 そうかそうか、口にあったか。

 人間の食べ物ではあるが、その人間でも滅多に食べられない高級肉なんだから、とりあえずよく味わっておけよ。

 あたしは、内心でそう呟いた。


 そして、また一口肉とご飯を口に入れる。

 あぁ、散歩の時間増やそう。

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